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外資の日本企業買収、9カ月で前年超え…なぜ「地味な優良企業」が狙われる?

2026.10.18 06:00 2026.10.18 00:28 経済
文=BUSINESS JOURNAL編集部、協力=堀野剛志/証券アナリスト

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●この記事のポイント
2026年1〜9月の日本企業M&Aは3883件で過去最多となり、海外勢による買収額は約6.2兆円と、9カ月で前年1年分を超えた(レコフデータ)。円安に加え、東証の資本コスト要請と、後継者不在率50.1%が示す事業承継の需要が重なり、KKRによる太陽HDの非公開化など中堅素材メーカーの買収が続いている。改正外為法のもとでも進む再編の構造と、働く人への影響を解説する。

 日本企業が関わるM&Aが、また過去最多を更新した。レコフデータによると、2026年1〜9月の件数は3883件。前年同期から5.0%増え、同期間としては3年連続の最多だ。

 目を引くのは、海外勢による日本企業の買収(OUT-IN)である。件数は326件で21.2%増。日本経済新聞の報道によれば、金額は約6兆1957億円に達し、わずか9カ月で2025年の年間実績を上回った。

「円安で日本が安く買われている」。そう片付けるのは簡単だ。ただ、数字を追っていくと、為替だけでは説明しきれない部分が残る。買い手は何を見て、どこに値段をつけているのか。その構造を整理すると、日本企業とそこで働く人がこれから向き合う変化の輪郭が見えてくる。

●目次

円安、東証、事業承継――3つが同時に効いている

 まず為替だ。ドル円は10月中旬時点で1ドル=157〜158円台と、円安水準が続く。ドル建てで資金を集める海外ファンドにとって、円建ての資産は割安に映る。資金も厚い。日経の報道によれば、スウェーデンのEQTは4月に156億ドル規模のアジア太平洋ファンドを組成。米ベインキャピタルは5月、105億ドル規模のアジアファンドのおよそ半分を日本に投じる方針を示した。

 ただし、円安は2022年から続いている。今になって案件が積み上がっている理由は、ほかの2つの要因にある。

 1つは東京証券取引所の動きだ。東証は2023年3月、プライムとスタンダードの全上場企業に「資本コストや株価を意識した経営」を要請した。規則による義務ではなく、PBR(株価純資産倍率)1倍割れもあくまで「目安」だ。それでも効果は大きかった。2026年8月末にはプライム市場の94%が対応を開示し、PBR1倍割れの比率もプライムで50%(22年7月)から27%(26年3月)へ下がった。

 ただ、中身はまだ追いついていない。東証の調査では、事業ポートフォリオの見直しを「実施している」企業は28%にとどまる。一方、投資家の73%はそこを課題とみている。開示は進んだが、事業の組み替えまでは手が回らない。このギャップに、非公開化を前提とした買収提案が入り込む。

 もう1つが事業承継だ。帝国データバンクによると、2025年の後継者不在率は50.1%。7年連続で下がり、過去最低を更新した。注目したいのはその中身で、事業承継の経緯に占める「M&Aほか」は20.6%と、前年の19.2%から伸びた。後継者問題は、M&Aという出口を通じて解消されつつあるとも言える。日経によれば2026年1〜9月の事業承継目的のM&Aは833件で2007年以来の多さだった。2027年分から強化される高所得者向けの追加課税(いわゆるミニマムタックス)を前に、売却を急ぐオーナーもいるという。

「円安はきっかけにすぎません。買い手が見ているのは、資本効率を上げる余地がどれだけ残っているか。東証の要請をきっかけに、その余地が開示資料の数字で見えるようになった。買い手にとっては、以前より探しやすい市場になっています」(証券アナリスト・堀野剛志氏)

狙われるのは「地味」な素材・部材メーカー

 象徴的なのが太陽ホールディングスだ。プリント基板向けの保護膜インキで世界トップの化学メーカーだが、一般の知名度は高くない。米KKRは2026年3月、同社の非公開化を前提としたTOBで合意したと発表した。自己株取得を含めた買収総額は約4906億円。筆頭株主のDICは保有株を売却し、非公開化後には積水化学工業が9.99%を出資する。

 太陽ホールディングスは理由として、短期的な成果に過度にとらわれず中長期の戦略を遂行できる体制づくりを挙げた。物言う株主との対立が続いていたことも、背景にあるとみられている。米アポロ・グローバル・マネジメント系ファンドによる日本板硝子の非公開化(企業価値約5900億円、9月30日に手続き完了)も、成熟した素材産業に外資が値段をつけた例だ。

 こうした企業に共通するのは、技術や顧客基盤は強いのに、市場の評価がそれに見合っていない点だ。ファンドの価値向上策は、魔法ではない。製品ごとの採算を洗い出して価格を見直す。主力と関係の薄い事業や資産を整理する。海外の販路や追加のM&Aで規模を取りにいく。いずれも教科書に載っている施策だ。違いは、株主と経営が一体になり、数年という期限を切って実行するところにある。

 では、なぜ企業自身ではできなかったのか。値上げを切り出せば、長年の取引関係に響く。不採算事業を畳めば、社内の雇用や地元への配慮が要る。大株主や取引先との株の持ち合いが、資本の入れ替えを遅らせる。経営者個人の怠慢というより、合意形成を重んじる仕組みが生んだ結果と見るほうが実態に近い。

「日本の中堅メーカーには、品質では勝っているのに価格決定権を握れていない企業が少なくありません。外部株主の規律が入ると、意思決定の優先順位が変わる。価値向上の多くは、新しい技術よりもその優先順位の変化から生まれます」(同)

規制は強まっているのに止まらない理由

 国も手をこまねいているわけではない。2026年6月には改正外為法が公布された。日本企業の株を持つ外国法人を買収し、間接的に支配する行為も審査対象に加えるなど、対内直接投資の審査を一段と細かくした内容だ。

 ただ、財務省は改正の目的を「我が国経済の健全な発展に寄与する対内直接投資を一層促進」しつつ、安全保障上のリスクに対応することだと説明している。外資を一律に締め出す仕組みではなく、守るべき領域を絞り込んだうえで、それ以外の投資は受け入れる設計なのだ。規制の強化と買収の増加は、矛盾しているようで実は両立している。

 もう一つの理由は、国内に大型案件の買い手が少ないことだ。国内の投資会社も数千億円規模のファンドを組むようになったが、海外大手が一度に集める資金とはなお桁が違う。数千億円の非公開化に、エクイティで単独で応じられる国内勢は限られる。事業会社による同業買収も選択肢だが、独占禁止法や統合後の調整を考えると、どの案件にも使えるわけではない。

「外資規制を、経営改革を先送りする理由に使う企業もあります。ただ、それで企業価値が上がらなければ、株主の不満は別の形で出てきます。問われているのは資本の国籍ではなく、その資本をどう生かすかです」(同)

これから起きる3つの変化

(1)非公開化は「例外」ではなくなる
 レコフデータによると、M&Aやグループ内再編で上場廃止を前提とした案件は2025年に142件。前年から51%増え、新規上場の66件を76件上回った。うちMBOは30件で、上場企業数は2023年をピークに減少に転じている。上場を続ける意味を問い直す企業は、今後も増えるだろう。一方で、東証の施策が企業をMBOへ追い込んでいるという指摘もある。少数株主の保護や買収価格の公正さは、引き続き議論の焦点になる。

(2)グループ再編と取引関係の見直し
 太陽ホールディングスの例のように、大株主の持ち分整理と非公開化はセットで起きやすい。親子上場や株の持ち合いの解消が進めば、系列を前提にした取引慣行も見直しを迫られる。仕入れ先や販売先にとっては、価格交渉の前提そのものが変わる可能性がある。

(3)「買われる」ことの意味が変わる
 PEファンドは、数年後に売却することを前提に投資する。再上場や事業会社への売却を経て、企業がどう変わったか。その実績が積み上がるにつれて、外資による買収は「身売り」ではなく、成長資金と経営の知見を取り入れる手段として見られるようになっていくだろう。ただし、それは買収後に成果が伴った場合に限られる。市場の評価を決めるのは、これから数年の「出口」の中身だ。

「自社が買われる日」に備える

 外資による日本企業の買収が増えているのは、為替だけで説明できる一過性の現象ではない。資本効率を問う市場改革と、経営者の世代交代という人口構造の変化が重なった結果だ。金利上昇による資金調達コストの増加は制約になりうるが、当面はこの流れが続くとみるのが自然だろう。

 働く側にとって、変化は評価のあり方に表れやすい。ファンドの傘下では、事業ごとの採算と目標がはっきりし、それに対する成果が問われる。社内の調整力よりも、自分の仕事がどれだけの利益やキャッシュを生んでいるかを数字で説明できる力が重みを増すだろう。取引先が買収されれば、自社が当事者でなくても交渉の前提は変わる。

「買収は悪」とも、「外資が入ればうまくいく」とも言い切れない。確かなのは、自社の事業がどれだけの資本を使い、どれだけのリターンを生んでいるのか。それを自分の言葉で説明できる人の価値は、株主がどこの国の資本であっても上がっていくということだ。

(文=BUSINESS JOURNAL編集部、協力=堀野剛志/証券アナリスト)

【主な参照データ・出典】
レコフデータ「2026年1-9月期のM&A件数、3883件で最多更新」(2026年10月2日)
レコフデータ「M&A・グループ内再編による上場廃止案件数、2025年142件」(2026年2月13日)
日本経済新聞「日本企業M&A、1〜9月は過去最多 外資による買収額はや前年超え」(2026年10月13日)
政経フォーカス「外資の買収額6.2兆円、過去最多ペース」(日経報道の紹介、2026年10月13日)
帝国データバンク「全国『後継者不在率』動向調査(2025年)」(2025年11月21日)
ジェイ・フェニックス・リサーチ「資本コスト開示の2026年アップデート」(東証資料の整理。一次資料は東証2023年3月31日・2026年4月28日公表)
財務省「外国為替及び外国貿易法の一部を改正する法律」について
M&A Online「太陽ホールディングス、米投資ファンドKKRによるTOBで株式を非公開化」(2026年4月1日)

BusinessJournal編集部

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公開:2026.10.18 06:00