東京証券取引所の市場再編に伴い、4月1日が東証1部銘柄の最終取引日となったが、横浜ゴム株の終値は前日比40円(2%)高の1732円。売買高はほぼ倍増した。北欧の農機タイヤ会社を買収することを好感した買い物が入った。農業用タイヤのスウェーデン、トレルボルグ・ホイール・システムズ(TWS)を2672億円で手に入れる。横浜ゴムにとって過去最大の買い物だ。
TWSの親会社でシーリング材などを扱うトレルボルグから全株を取得する。欧州連合(EU)など各国の競争法に基づいて手続きを進め、22年下期(7~12月)をメドに買収を完了したいとしている。生産しているのは農業機械用タイヤが6割、フォークリフトなど産業車両用が2割。21年12月期の売上高は9億9300万ユーロ(約1290億円)、営業利益は1億2000万ユーロ(約156億円)。
横浜ゴムは16年7月、オランダの農業機械用タイヤメーカー、アライアンス・タイヤ・グループ(ATG)の全株式を米投資ファンドのコールバーグ・クラビス・ロバーツ(KKR)などから取得した。買収額は1332億円だった。ATGは農機用や建設機械用、林業機械用のタイヤを中心に製造し、欧州や北米など120カ国以上で販売している。
ATGに続く大型買収がTWSだ。「農機用のラインアップが増え、コスト競争力を強化できる」。3月25日、オンラインで記者会見した山石昌孝社長はこう述べた。TWSのM&Aで、横浜ゴムの農機タイヤ部門の事業規模は拡大する。世界的な人口増で食糧の需要が高まっている。農機やそれに使用するタイヤは今後も伸びると期待できる。
一方、自動車用のシーリング材や接着剤などを扱うハマタイト事業を21年11月、スイスの化学メーカーSika(シーカ)に売却した。21年10~12月期に売却益(税引き後)を50億円計上した。ハマタイト事業の20年12月期の事業売上高は195億円、営業利益は9億円あげており、お荷物ではない。経営資源を集中するため、ハマタイト事業は売却した。
21年2月に発表した中期経営計画で非タイヤ部門の油圧ホースや自動車配管を成長の柱に据えるポートフォリオを掲げた。
農機用タイヤ事業が業績に寄与
21年12月期の連結決算(国際会計基準)は、売上高にあたる売上収益が20年12月期比22%増の6708億円、事業利益は73%増の621億円。純利益は2.5倍の655億円と過去最高となった。本社ビル(東京・港区)の売却など固定資産売却益を208億円計上したことが寄与した。本社は今年3月、ゴム製品をつくる平塚製造所(神奈川平塚市)に移転した。
主力のタイヤの売上収益は18%増の4702億円で全体の70%を占める。事業利益は78%増の426億円。新車用タイヤは世界的な半導体不足などの生産調整の影響を受けたが、冬用タイヤなど高機能製品の販売増や値上げで原材料高を吸収した。
農機向けタイヤの販売も伸びた。子会社に組み入れたATGの売上収益は65%増の1072億円となり、連結売上収益の16%を占めた。事業利益は67%増の147億円。農機向けタイヤは売上収益、事業利益とも過去最高を記録した。ATGの売上収益は買収時の1.8倍になり、M&Aは成功したといえる。
22年12月期の連結業績見通しは、売上収益が21年12月期比12%増の7500億円、純利益は39%減の400億円。本社ビルの売却益がなくなるため、最終減益となる。TWSの買収手続きが完了すれば、22年12月期にTWS分が一部、上乗せできる。TWSの21年12月期の売上高は1290億円だった。
国内首位で世界有数のタイヤメーカーのブリヂストンの22年12月期の連結売上収益(国際会計基準、3兆6500億円)には遠く及ばないものの、国内2位の住友ゴム工業(22年12月期の連結売上収益、1兆500億円)との差は、TWS分がフルにオンされれば、さらに縮まる。
タイヤ業界は乗用車だけでは生き残りが難しくなっている。横浜ゴムは農機用というニッチだが需要が底堅い市場に活路を求める。
(文=Business Journal編集部)