「筑波サーキットでのラップタイムが0.9秒、短縮しました」
ブリヂストンの開発リーダーは、そう言って興奮を隠しきれないでいた。ブリヂストン最強のスポーツブランドである「ポテンザ」の新製品である「ポテンザRE-71RS」のサーキット試乗会での出来事である。
「ポテンザRE-71RS」は、レース専用タイヤではない。一般公道の走行が許された量産タイヤである。晴れの日だけでなく雨の日も走るし、サーキットだけでなく市街地走行もしなければならない。そんな一般市販タイヤであるにもかかわらず、開発担当者はサーキットでのコンマ数秒のゲインに喜んだのだ。
門外漢には不思議なことのように思われるだろう。だが、クルマ好きのなかで、特にサーキットを攻めたてるような硬派な層には、サーキットでのコンマ1秒は重要なことなのである。そんな世界があるのだ。
「ポテンザRE-71RS」は、いわゆる「スポーツタイヤ」と呼ばれ、「トヨタ86」や「インプレッサWRXSTi」といったスポーツ性能の尖ったモデルとの相性がいい。タイヤの溝を限りなく減らすことでグリップ力を高めた。溝を減らすことは、タイヤが路面に触れる面積が増えることと同義だ。それまでよりも高い速度でカーブを旋回できるようになるわけだ。
しかも、「トレッドパターン」と呼ばれる接地面の溝は、左右非対称の模様を描く。コーナリングする際に強く車重がのしかかる接地面外側に、特にグリップ力が稼げるようにという配慮である。
ゴムの材質も改められた。アスファルトの凹凸に爪を立てるように食い込み、遠心力に打ち勝とうというわけである。
これらによって、これまでより格段に高いスポーツ性能を実現している。実際のドライでは、開発リーダーが言うほどラップタイムは上がらなかったものの、コントロール幅は際立っていた。
コーナーに飛び込み、ハンドルを切り込む。本格的に限界まで追い込み、タイヤが激しく悲鳴を上げそうになる瞬間になっても、タイヤがしっかりと路面に吸い付いていてくれる。ハンドルを切り込んで、これ以上は曲がれないだろというタイミングで、さらにハンドルを切り足しても、グリップ力が衰えないことには驚かされた。多少のドライビングミスにも寛容なのである。
それでいて、耐摩耗性も向上しているというから不思議である。グリップ性能が上がれば摩耗は進む、それが一般的な相関関係である。「速いタイヤは、すり減るのも早い」というのが常識なのだ。だが、「ポテンザRE-71RS」は耐摩耗性にも進化があるという。サーキット派にとってタイヤ摩耗は、経済的に気になるところである。一日の走行で十数万円もするタイヤをツルツルにしてしまうほどで、大きな出費の原因になっているからだ。熱心なサーキット派にとっては、ラップタイムの伸び代以上に喜ばしいことかもしれない。
この時代に、まだ「ポテンザRE-71RS」のような熱いタイヤが存在していることを、素直に喜びたい。
(文=木下隆之/レーシングドライバー)