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法人税、大企業を巨額負担軽減で実質優遇の実態 低税率への租税回避、節税、控除…

文=松井克明/CFP

法人税、大企業を巨額負担軽減で実質優遇の実態 低税率への租税回避、節税、控除…の画像1武田薬品工業・東京本社(「Wikipedia」より/Lombroso)
 「週刊ダイヤモンド」(ダイヤモンド社/7月26日号)は『法人税減税の不都合な真実』という第二特集を組んでいる。これが企業寄りの「ダイヤモンド」にしては珍しい企業への批判的なスタンスの記事なのだ。

「国際競争力の強化を目指して法人税の減税が検討されている。低い法人税率で海外の企業を日本に呼び込み、産業の海外流出を防ぐ狙いだ。しかし、声高に減税を叫ぶ大企業の中には、今も低い法人税負担率を実現している企業が少なからずある。法人税の減税にまつわる“不都合な真実”を明らかにする」という内容だ。

 現在の企業の課税所得に対する法定実効税率(法人税や住民税、事業税など加味した税率)は35.34%だ。安倍晋三首相は、これを数年以内に20%台に引き下げることを明言し、6月24日に閣議決定された「骨太の方針」にも法人税率を引き下げることが明記されている。

「日本の法人税率は他の主要国と比べて高い。日本より税率が高いのは米国のみである。シンガポールに至っては、日本の半分の17%だ」(同特集より。以下同)

 法人税率の水準は国の立地競争力に大きく影響する。「さらなる法人税率の引き下げが、企業の立地競争力を強化する上で避けられない状況――。これが、政財界がいう日本の法人税率引き下げの根拠である」

●実際の税負担は少ない?

 しかし、現実には、法人税には各種控除や特例など、さまざまな節税制度(欠損金の繰越控除など)があり、一部の企業にとっては日本の法人税率は必ずしも高くない。

「2012年度に、これらの節税制度がなかった場合の法人税収は16.2兆円。しかし、実際に納税された法人税額は10.4兆円に過ぎない。何と約6兆円が軽減された格好だ」

 今回は、各種控除や特例など、さまざまな節税制度を用いて、実質的に法人税が低負担率になっている大企業をランキングにしている。ランキングの対象は13年度の売上高が2000億円以上の上場企業だ。

 1位のレオパレス21が▲44.9%、2位の西松建設が▲42.7%など、「上位の会社では、平均法人税実質負担率がマイナスになっている。こうした会社では、過去に多額の赤字を計上し、繰越欠損金が発生していることが多い。このため、そもそも実支払いベースの法人税が少ない」のだ。

 欠損金の繰越控除とは、企業が税務上の赤字、すなわち欠損金を計上した場合、9年間にわたって税務上の(課税の対象となる)所得の80%(資本金1億円超の大企業の場合)と欠損金を相殺できる制度だ。

 10位には会社更生法の適用会社である日本航空も入っているが、会社更生法の適用会社の場合、7年間は全額控除が可能だ。

●さまざまな節税策

 また、このほかの節税の仕組みを利用して法人税を減らしている企業もある。

 例えば、武田薬品工業。製薬会社最大手の武田薬品工業は約240億円の節税(税額控除)を受けているという推計ができるが、この多くは、研究開発税制により試験研究費に税額控除が認められているためだ。これについて「ダイヤモンド」は、次のように疑問を投げかけている。

「最大手の武田薬品工業は、2014年3月期、連結で3416億円、実に売上高の2割に相当する研究開発費を投じている」
「研究開発税制を利用しているのは大手企業が中心だ」
「ただ、研究開発税制が抜本強化されて10年が過ぎたにもかかわらず、製薬会社が挙げた成果という点では、疑問符がつく」

 次に同誌が矛先を向けているのは、三井物産だ。大手総合商社の業績は絶好調。14年3月期、大手5社は、連結ベースで約2100~4450億円もの当期利益を計上しているが、単独ベースで見ると、大手5社がそろって営業赤字なのだ。その中でも、1732億円と営業赤字が極めて大きいのが三井物産。ちなみに、原発再稼動ができず赤字垂れ流しの関西電力でさえ1168億円の営業赤字だ。

 つまり、三井物産は営業収益(本業での儲け)が赤字で、営業外収益で黒字を出しているということになる。その秘密は、「受取配当金の益金不算入」制度を巧みに利用しているためではないか、という。

 この制度は「配当を支払う企業で法人税が課されるにもかかわらず、配当を受け取る企業でも税金が発生してしまう“二重課税”を防ぐために設けられた制度(なお、同時に、益金に算入しなければ、法人税の課税の対象となる所得に反映されなくなる)」だが、国境を越えることが容易になった現在、法人税率の低い国に事業を移し、日本では税金のかからない益金不算入の受取配当金としてだけ扱うことで租税回避がしやすくなっているというもの。なお、受取配当金は営業外収益であり、節税ができる。

「営業赤字が増えつつ、受取配当金が増えている背景については、一定の利益を上げていた事業や部門を法人税率の低い国に移し、現地で上げた利益を配当金で受け取っていることなどが考えられる。この点について三井物産に問い合わせたが、明確な回答は得られなかった」と鋭い取材を行っている。

「もちろん、各社のタックス・プランニングは合法である。しかし、日本を基盤とする巨大商社が、国内で少ない法人税しか払わず、海外にばかり税金を払っているとは、残念な話ではある」と皮肉を投げかける。

●トヨタ、豊田章男社長就任後初納税

 なお、この「受取配当金の益金不算入」制度は、海外に進出しているグループであればあるほど、メリットが大きくなる。例えば、トヨタ自動車だ。トヨタの場合「09年3月期の税引前損益は1825億円の黒字。しかし、受取配当金がその2倍強の3889億円計上されている(略)納税額は税引前利益の約13%の235億円に過ぎない」。現在の豊田章男社長が「就任した直後の10年3月期は、受取配当金が2425億円あったにもかかわらず会計上の税引前損益が771億円の赤字だった」。11年3月期は3312億円、12年3月期は4752億円と受取配当金は絶好調なのだが、実際に課税される所得は赤字で、納税しない状況が続いていた。

 ようやく、14年3月期には4912億円の法人税等を支払い「社長になってから国内で一度も税金を払っていなかった。納税ができる会社としてスタートラインに立てたことはうれしい」と豊田社長が語ることになったのは記憶に新しいところだ。

 つまり、多くの企業は税金をそれほど払っていないにもかかわらず、「法人税が高い、高い」といっているのではないか、と「ダイヤモンド」は指摘しているのだ。

 なお、安倍政権による法人税減税に関しては、税率を下げても、各種控除や特例など様々な節税制度を見直し、課税ベース(対象)を拡大する方法を提案する。これならば、同様の取り組みを行ったドイツなどにみられるように税収はそれほど減らない。さて、安倍政権はどのような施策を見せるだろうか。
(文=松井克明/CFP)

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