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国税・検察特捜部、完全敗北の衝撃 恐ろしく異様な捜査・取り調べの手口を被害者が告発

文=編集部
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国税・検察特捜部、完全敗北の衝撃 恐ろしく異様な捜査・取り調べの手口を被害者が告発の画像1国税庁
「Wikipedia」より/つ)
 脱税の罪に問われて2011年12月に起訴され、今年2月、無罪が確定した元クレディスイス証券外国債券部長・八田隆氏が、一連のいきさつを記した書籍『勝率ゼロへの挑戦~史上初の無罪はいかにして生まれたか』(光文社)を5月に上梓した。日本の刑事裁判の有罪率が99.9%を超えるということは広く知られているが、中でも国税局査察部が告発し、検察特捜部が起訴した事件はこれまで有罪率100%だった。今回は、史上初めて査察部告発の特捜部案件で無罪を勝ち取った八田氏に、一連の経緯や、事件と裁判を通じて感じた国税局および検察捜査の問題点などについて話を聞いた。

–まずは無罪確定、おめでとうございます。

八田隆氏(以下、八田) ありがとうございます。

–本書の出版に至ったきっかけについて教えてください。

八田 無罪確定後すぐに複数の出版社からお話をいただき、一番早くお話をいただいた光文社さんにお願いしました。実は昨年、別の出版社からもお話をいただいていました。私が書きたかったのは事件の一部始終でしたが、その出版社側の要望は外資系証券マンの浮沈で、事件本ではなくビジネス書にしたいとのことでした。一通り原稿は執筆し、何度か書き直したりもしたのですが、結局先方の要望に応えることができませんでした。ですが、無罪確定後にいただいた出版のお話は、いずれも事件のいきさつを記したものでということでしたので、すでに書き上がっている原稿を手直しするだけで済み、短期間に仕上げることができました。

–八田さんの事件は、何から何まで異例ずくめでした。ずいぶん前、ストックオプションを受け取った外資系証券マンが、税務署の窓口に出向いて申告方法の指示を仰ぎ、税務署職員の指示通りに申告したのに、1年後に更正処分を受け、加算税、延滞税を課されたケースがありました。のちに加算税、延滞税は取り消されましたが、あのケースとはまったく違うんですよね。

八田 私の過少申告の対象にはストックオプションも含まれてはいましたが、その件とはまったく別です。当時、クレディスイスでは現金以外に株でも報酬を支給していたのですが、クレディスイスは株で支払った分を源泉徴収していなかったのです。私が脱税したとされた所得金額は3億5000万円だったのですが、このうちストックオプションは5000万円だけです。

–容疑は故意の過少申告でしたね。

八田 私は大学卒業後、すぐに外資系証券に就職し、以来法人を顧客とする取引を仕事としてきたので、税法、特に個人の所得税に関してはまったく門外漢でした。会社員ですから、会社からもらう報酬はすべて会社が源泉徴収していると思い込んでいたんです。もちろん知らなかったこと自体が反省すべきものだという認識はありましたし、すぐに修正申告をしたかったのですが、税務署がなかなか受け付けてくれませんでしたので、予定納税という手段でとにかく納税だけは先に済ませました。

八田氏一人が告発対象になった理由

–承服できなかったのは、“故意”だと指摘された点ですね。

八田 その1点に尽きます。私はクレディスイスの日本法人所属の社員でしたが、当時日本法人の社員のうち、株式報酬を受け取る社員は全員、それを受け取るための証券口座を米国のクレディスイスに開設させられていました。株式もその口座に入るので、支払地は米国でした。しかし、あとでわかったことですが、その分の人件費の費用認識は日本法人で行っていたそうなので、実質的な支払者は日本法人ということになります。従って、今となってはクレディスイスの日本法人には源泉徴収義務があったのではないかと私は考えています。

–ですが、八田さんはクレディスイスを訴えてはいませんね。

八田 私は、国税検察に故意ではないということさえ認めてもらえればよかったし、当初は実際に説明すればわかってもらえると思っていたので、それはしませんでした。当時日本に進出していた外資系証券の多くは株式での報酬支給を行っていましたが、源泉徴収していた会社とそうではない会社が混在していました。08年11月に国税が外資系証券各社に一斉に税務調査に入り、クレディスイスでも税務調査対象者300人のほとんどに過少申告が指摘され、そのうち100人がまったく株式報酬をまったく無申告だったのですが、刑事告発の対象になったのは私一人でした。

–なぜ八田さん一人が刑事告発の対象になったのでしょうか?

八田 これもあとからわかったことですが、私よりも過少申告額が多かった人もいたのですが、その人たちは全員、国税から故意であることを認めるよう言われ、その通りにしていたからです。中には個人の税務に詳しい人もいたかもしれませんが、私同様、税務に疎く、会社が源泉徴収しているものと思っていた人もいたはずです。結局私は国税の意向に逆らったから告発されたと思っています。

–08年11月に税務調査が入った時点で、同僚や上司、部下の人たちと情報交換はしなかったのでしょうか。

八田 私は07年に会社都合でクレディを辞めていて、転職先のベアー・スターンズも転職後半年で、サブプライムショックの影響で会社がなくなってしまいました。証券市場は最悪の時期でしたので、しばらく休養し、証券市場が落ち着いたらまた仕事を始めようと思って、息子の留学にくっついて行ってカナダに住んでいたんですよ。そもそも会社からもらう報酬はすべて源泉徴収されているという思い込みがありましたから、税務調査なんて自分には関係ないと思っていました。他の社員との情報交換の必要性など感じていませんでした。

重なったいくつもの不運

–それにしても源泉徴収票や給与明細を見たら、源泉徴収されているかどうかはわからないものですか?

八田 それらの中身をちゃんと見るなんてことは、したことがないんです。給与明細を開封してファイリングしてはいましたが、それは手元に紙が来たら機械的にやっていたことであって、中身まで見てなかったですし、途中からペーパーレスになったことも、あとから国税の人に聞いて知ったくらいです。国税の人からは、給与明細をもらって、中身をちゃんと見ない人はいませんと言われましたが、開封もせずほったらかしにする人はいくらでもいますよね。開封してる人でも、全員が全員、中身をちゃんとチェックしてるわけではないと思いますよ。外資系の証券マンは、年に一度年俸交渉を会社側とやって総額を決め、それが月割りされ払われたりする。つまり、交渉で勝ち取った年俸総額が最大の関心事であって、支払い方にはもはや関心は示さないものだと思います。第一、中身をちゃんと見たら支給金額が増えるわけじゃないでしょう。

–八田さんの年収だと、会社員といえども確定申告をしなければならないわけですが、税理士は気づかなかったのでしょうか?

八田 現金支給の給与は日本語で書かれた源泉徴収票が年末に出ていましたが、株式支給分はA4判の英文の簡単な書式1枚の支給通知が支給時の夏頃に出されていました。それが申告に必要な書類だという認識はまったくありませんでしたので、税理士にもそのペーパーは渡していないから、税理士も気づかなかったのです。外資系証券マンの申告に慣れた人だったら、株式で受け取っている報酬はないのか、くらいのことは聞いてくれたのかもしれません。

–一斉税務調査の1カ月後の08年12月、八田さんのご自宅などが強制調査を受けています。

八田 私は日本を離れるとき、税理士のアドバイスでその税理士を税務管理人にしていたので、最初は彼から連絡をもらいました。すぐに帰国し、まずは一人で国税に出向き、修正申告のために次回は税理士を同伴する約束をしましたが、国税側の都合でキャンセルになり、そして突然国税局査察部がやってきました。

起訴に至るまでの異例続きのプロセス

–国税から刑事告発されたのは、その1年後の09年12月です。強制調査から告発までの期間は異例の長さですね。

八田 告発されるまでの1年間のうち、最初の半年近くは国税の査察官との不毛なやりとりが延々と続きました。取り調べのためにカナダと日本を往復することになったのですが、取り調べは一週間に3回ペースで、朝は10時から始まり、終わりは大体18時から20時頃。取り調べは数カ月間続き、延べ100時間以上に及びましたが、同じ質問を繰り返し何時間もされ、そのたびに同じことを答えるわけです。強制調査の時には捜査官から取り調べは2~3カ月はかかると言われていましたが、4カ月を過ぎても終わる気配がない。捜査官に理由を問いただすと、「上司が納得しない」と言うんですね。だから上司に会わせてくれと言ったのですが、実現しないまま半年間、国税からは何も言ってこない状態が続きました。

–途中で納税されてますね。

八田 延滞税がかかるということに気づきましたので。国税は修正申告額が確定しないので待てという。でも延滞税はかかってしまうので、こちらの計算で無理やり予定納税したんです。故意だろうという点に納得できなかっただけで、納税自体はすべきものと考えていましたから。

–告発は報道で知ったとか。

八田 そうです。告発は09年12月ですが、知ったのは報道があった10年2月です。全世界に実名報道され、このせいで再就職の道は閉ざされました。

–告発の直前に修正申告をされています。

八田 告発の少し前、国税が修正申告をするように言ってきたのです。税理士はこれで刑事告発はないと思い、押収物件の返還を求めたところ、依然告発に向けて捜査中だからダメだと。その後にお会いした査察部の統括官が言った、「証拠が見つかっていないから時間がかかっている。私たちの仕事は、あなたを告発することだ」という言葉は忘れられませんね。

–告発から起訴まではさらに2年かかっていますが、これも異例ですね。

八田 この2年はまさに死闘でした。検察は検察の解釈と持論でモノを言ってくる。でもそれは真実じゃないから全部言い返すということが続きました。人生の中であんなに大声で、それも敬語で怒鳴り合ったことはありません。

–たいていは早くラクになりたくて、検察のストーリーを認めてしまいます。

八田 告発によって覚悟が決まったんですよ。シロをクロにする組織なんだとわかって、徹底的に戦う覚悟ができました。それに告発以降は弁護士や支援者のサポートがあったので、むしろ税理士と二人きりだった国税の段階の時のほうがつらかったですね。

–弁護士は、どうやって見つけたのでしょうか?

八田 ここまで共に戦ってきた小松正和弁護士と出会う前、とある記者の方の紹介で、有名なヤメ検弁護士に相談に行ったんですよ。そうしたら、「国税が告発したら起訴は確実、無罪も難しいから、痴漢のえん罪と同じだと思って認めてしまえ」と言うんですよ。そのほうが早くラクになれるというわけです。別の知人からも、否認すると逮捕される、そうなるとまた実名報道されて子供がかわいそうだと言われました。

子供のために徹底抗戦を決意

–普通なら、そこで否認はあきらめるのではないでしょうか?

八田 私は逆に、とことん戦ってやると決めたんです。認めてしまったら、子供が世間から後ろ指さされます。幸い、ウチは子供が海外の学校に行っていたので、いじめには遭わずに済みましたが。

–小松弁護士には、どうやってたどり着いたのでしょうか?

八田 知人の紹介です。企業法務専門だというので断ろうと思って電話をしたのですが、実際に話してみたら、とにかく頭がいい。刑事事件の経験はあまりないとのことでしたが、ひらめくものがあり、お願いしました。

–結局起訴も在宅で、逮捕はされませんでした。これも異例ですね。

八田 でも、取り調べで呼ばれる都度、逮捕は覚悟していました。小菅の拘置所は取り調べがない時は、立ってちゃだめで、座ってなきゃいけない。だから母に大名が座るようなふかふかの座布団を縫ってもらい、毎回持参していました。

無罪が確定、その勝因とは?

–1審も2審も無罪、検察が控訴せず2審判決が確定したわけですが、勝因を挙げるとするとなんでしょうか?

八田 国税の取り調べ段階から一貫して、その日のやりとりはその日のうちになんらかのかたちで文書化し、第三者に送っておいたことだと思っています。国税の取り調べ段階では毎回その日のうちに税理士にその日のやりとりをメールで送っていましたし、告発後は支援者の方全員に経過報告の意味でメールを送っていました。起訴後はブログを立ち上げ、進展があるごとにリアルタイムで発信していました。

–その日のうちにやっておくということが大切なのでしょうか?

八田 そうです。たとえば国税の査察官に「上司が納得しない」と言われた件など、あとから「そういえば、以前こんなことを言われた」なんて言ってもつくり話として一蹴されてしまいます。でもあの時点では、私は告発されるなんて思ってなかったわけですから。統括官に「証拠はないが、あなたを告発することが仕事だ」と言われた時点でもそうですからね。

–支援者の方は、どのように集められたのでしょうか?

八田 小松先生のアイディアです。まず署名は何の効果もないから不要だと。その代わり、とにかくあなたの人柄を知っている人に、あなたの人柄を嘆願書にしてもらえと言われたんです。ただし無罪の嘆願じゃなくていいと。小松先生は10人も集まればよいと思っておられたようですが、最終的に146通集めました。50通を超えたあたりから、小松先生も驚かれていました。

–メディアにも積極的にアプローチされたようですね。書籍にはジャーナリストの江川紹子さんが13ページも後書きを執筆されていますし、帯には堀江貴文さんや田原総一朗さんが推薦文を載せていますね。

八田 実名報道した記者に、私という人間を直に知ってもらうため、アプローチしました。報道が事実じゃないということも伝えたかったですから。結果的に多くの方に支援していただくことになり、本当に感謝しています。

–八田さんは5月15日には国家賠償請求訴訟を起こされています。弁護団は小松弁護士に加え、控訴審から弁護団に参加された、刑事弁護のエキスパート・喜田村洋一弁護士、元裁判官の森炎弁護士、それにコンプライアンスの大家で元検事の郷原信郎弁護士という最強の布陣ですね。

八田 私は逮捕・勾留を免れはしましたが、この5年間に多くのものを失いました。私自身、自分がえん罪に巻き込まれるまで、刑事司法の実態をまったく理解していませんでしたので、その矛盾を世に知らしめることが、自分の使命だと思っています。弁護士報酬の支払いは大変ですが、今回の国家賠償請求訴訟を通じ、それが実現できればと思っています。

–ありがとうございました。
(構成=編集部)

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