野村総研、強制わいせつ裁判で敗訴〜被害者女性への組織ぐるみの脅迫行為が認定
「ブラック企業アナリスト」として、テレビ番組『さんまのホンマでっか!?TV』(フジテレビ系)、「週刊SPA!」(扶桑社)などでもお馴染みの新田龍氏。計100社以上の人事/採用戦略に携わり、数多くの企業の裏側を知り尽くした新田氏が、ほかでは書けない「あの企業の裏側」を暴きます。
日本を代表するシンクタンク・株式会社野村総合研究所(以下、野村総研)北京社副総経理(日本の副社長に相当)・Y氏が、2007年12月に知り合った取引先の女性営業担当者に強制わいせつ行為を働いたとされる、いわゆる「野村総研強制わいせつ事件」(事件の詳細はこちら)。わいせつ行為の被害者が多数であることを通知された野村総研が、わいせつ行為の被害者個人に対して名誉棄損だと起こした恫喝的な民事裁判は、同社が無条件で訴えの全部を取り下げ、実質上の野村総研全面敗訴となった(『野村総研、社員によるわいせつ被害女性を“逆に”訴えた恫喝訴訟で実質上の全面敗訴』)。
そしてこのほど、野村総研社員の性犯罪を告発し、被害者女性たちへの支援活動を行っている人物に対し、同社が名誉棄損だと起こしていた裁判の判決が東京地裁で出された。
判決において、東京地裁民事15部の三角比呂裁判長、ほか裁判官2名は「野村総研の中国社副総経理・Y氏のわいせつ行為、その上での被害者側への脅迫、つきまとい行為は真実の通りである」という内容を認定し、「事実無根だ」とする同社の主張を退け、名誉棄損も業務妨害も成立しないと認定する主旨の判決を下した。
判決の詳細を見ると、要点としては次の3点が挙げられる。
・Y氏による性犯罪等の実態の告発は、野村総研が刑事でも立件されうる行為を含めて行っていることを告発するものであり、この告発は公共性、公益性が認定される。
・Y氏が行った取引候補先の女性社員へのわいせつ行為は真実の通りである。
・わいせつ行為を通知された野村総研側が、今度は被害者女性側に対して「法的措置をとる」「裁判にするなら、友達を法廷に呼び出してやる」等と恫喝した行為は真実の通りであり、さらにY氏が被害者女性につきまとっていることも真実の通りである。脅迫については、刑法の脅迫罪をただちに構成するかどうかは別としても、一般の感覚で脅迫と感じられるのは当然であり、これは正当な告発であり名誉棄損等にならない。
なお、今回の判決で脅迫と認定された行為は、野村総研の代理人を務めた森・濱田松本法律事務所の高谷知佐子弁護士など、野村総研代理人の弁護士が行った行為まで含めて認定されている。
その上で、裁判の公判が開始から2年以上たったためか、その他の内容については裁判を途中で無理やりに結審(裁判の終了)しており、議論しなかった箇所については真実相当性の証明が足りないとした部分もあったが、判決における訴訟費用の負担割合でいえば9:1という大差をつけられて野村総研側が大敗する判決が下った。
●本裁判の興味深い点
ここまでの流れを俯瞰し、この裁判で興味深いのは次のような点だといえる。
・日本最大のシンクタンクで東証一部上場の野村総研が、Y氏のわいせつ行為を知ると、同社人事部のT氏が被害者側に舌打ちなどの行為を行いながら対応。
・同社は4大法律事務所の「森・濱田松本法律事務所」のパートナーである高谷知佐子弁護士に依頼し、被害者側を脅迫した。
・それでもY氏のわいせつ行為を隠ぺいできないと知ると、野村総研は取引先の野村ホールディングスやセブン&アイホールディングスまで巻き込み、高谷氏、上村哲史氏、山内洋嗣氏、増田雅史氏の合計4名の弁護団を結成させ、会社の資金を使い、被害者女性の支援活動を行う個人に対し名誉毀損裁判を起こした。
・裁判所では「野村総研の強制わいせつ行為や脅迫行為などの内容は真実であり、正当な告発である」と認定され、名誉棄損には当たらないという判決となった。
ちなみに、オリンパスで内部通報を行った社員に対し同社が報復人事をしたとして、この社員が同社を訴えた裁判で、昨年6月に同社の敗訴が確定しているが、この裁判で同社側の代理人を務めていたのも今回の高谷弁護士である。
今回の野村総研の裁判では、被告(=被害者女性を支援した個人)が「本人訴訟」という方法をとり、弁護士もつけずに法律の素人が一人で裁判を闘ったのも興味深い点だ。さらに判決においては高谷弁護士が野村総研の代理人として行った行為まで含めて「脅迫行為」が認定された点も特徴といえよう。
東証一部上場企業であり、その資金は公的な面が非常に強い野村総研が、莫大な裁判費用をかけ裁判に敗訴したことを受け、株主から集めた資金を無駄にした責任を問われかねない事態となっている。
さらにY氏は、三菱商事と共同出資するアイビジョン社の資金を、ミスキャンパスのイベントに提供すると言いながら、中国でミスの女子大生たちを水着にして写真撮影をしたり、個人的な旅行に同伴させることなどに使おうとしていた疑いも報じられている(http://www.cyzo.com/2010/08/post_5334.html)。もし事実であれば、特別背任未遂に当たる可能性があるために、野村総研は隠ぺいをするためにも被害者女性を脅迫した疑いが強まっている。
裁判は控訴、高裁へ
今回の東京地裁判決で野村総研側の主張が1割程度認容されていることを受けて、被告は、「猥褻、脅迫、つきまといまでしている同社の行為が認定されているのに、同社の名誉棄損主張がたとえ一部でも認定されてしまったら、このような恫喝訴訟を助長することになってしまう」として控訴。次は東京高裁での審議となることがわかった。控訴審では野村総研の裁判に協力してきた野村ホールディングス、セブン&アイホールディングスの経営トップに証人尋問が申請される予定である。そして筆者の取材によれば、野村総研は今でも被害者女性への謝罪も、つきいまといが認定されたY氏を被害者の近辺から異動させる処置も拒絶し続けているという。