●トヨタ自動車
トヨタ自動車の豊田章男氏は2009年に社長に就任し、最近では「ワンマン体制を確立し、経営者としての凄味が出てきた」(業界関係者)と評されている。
2015年のグループ(ダイハツ工業、日野自動車を含む)の世界販売台数を、前年より8万台(1%)少ない1015万台とする。東日本大震災があった11年以来、4年ぶりの前年割れとなる。軽自動車税の引き上げの影響で、ダイハツ工業の国内販売が15%落ち込むためだ。14年の世界販売台数は前年比3%増の1023万台と、初めて暦年で1000万台の大台を突破。2位の独フォルクスワーゲン(VW、1014万台)を抑え、3年連続で世界首位の座を守った。
しかし、世界最大の中国市場で高いシェアを持つVWは、4年前倒しで1000万台を達成しており、15年は首位が交代する公算が高い。米ゼネラルモーターズ(GM)も1000万台乗せを目標にしており、ハイレベルでの戦いが続きそうだ。豊田氏には、無理をして販売台数を伸ばし、世界トップの座を死守するつもりはない。
「5年後、いや3年後を見据えて、経営の舵取りを始めたということだろう。問題は豊田氏に直言できる側近がいないことだ。役員が完全に上ばかり見るヒラメ状態になっている」(業界関係者)
トヨタは生産・開発体制を見直しており、15年度末までは新しい工場をつくらず、既存工場を有効活用して損益分岐点を引き下げる方針だ。系列の自動車部品会社の再編に乗り出したのもその表れ。製造業は急激な円安に伴う国内回帰と再編がメインテーマになるが、トヨタ系自動車部品メーカーの再編は嚆矢となるだろう。
タカタ製エアバッグ事故をめぐり第三者機関に調査を依頼することで日米欧の自動車メーカー10社が歩調を揃えたが、“日本車叩き”に波及することを恐れたトヨタが他社に呼び掛け主導した。
世界初の量産向けセダン型燃料電池車(FCV)「ミライ」は、1カ月で国内年間販売目標(400台)の4倍の注文が殺到、「納車は3年先」といわれている。米カリフォルニア州が排気ガスを出さない車の販売を義務づける規制強化に17年秋に乗り出すのを、先取りした動きだ。燃料電池車の特許を無料で公開するという大胆な方針を打ち出し、FCVの普及を図る。
●富士重工業
ブランド「スバル」を展開する富士重工業は、引き続き今年も注目株だ。米国販売が絶好調で、昨年末には米誌「ワーズオートワールド」主催の「10ベストエンジン2015」で日本車として唯一受賞。北米で「最も安全な車」との評価が定着した。センサーで車庫入れや縦列駐車をサポートする機能が女性ユーザーに支持されており、ディーラーが「車が足りない」と不満を漏らすほどの売れ行きだ。大手ディーラーがスバルを扱うようになり、もともと良い車に販売力がついた効果は大きい。
富士重の15年の世界販売台数は94万台と3%の伸びを見込み、4年連続で過去最高となる。20年までの中期計画で世界販売台数110万台以上という目標を掲げる。スバルは長く販売不振で苦労した。「100万台+α」で、オリジナルな車づくりから、もっと売れる車を追求するようになると、「スバルらしさが失われ、スバルのトヨタ化が起こる」(自動車ジャーナリスト)懸念がある。
●カルビー
スナック菓子大手のカルビーは、売上高営業利益率が長らく1%台と低迷していたが、15年3月期には10.5%になる。株価は1月23日、一時4535円まで上昇し、上場来高値を更新した。1月27日の終値は4500円。15年3月期連結決算の売上高は前年同期比6%増の2130億円、営業利益は14%増の225億円を見込み、過去最高を更新予定である。
カルビーは同族企業から経営スタイルを転換して成功した希有な例である。09年に米ペプシコと提携、現在はペプシコ傘下の投資会社がカルビー株の約20%を保有する筆頭株主になった。同時にジョンソン・エンド・ジョンソン日本法人の社長を務めた松本晃氏が会長兼CEOに就任した。松本氏はメディアの寵児になるような派手なパフォーマンスはせず、企業文化を変え、高収益企業に変身させたため「プロ経営者」と評されている。その松本氏が2月1日付で鎌田由美子氏を上級執行役員に迎えた。鎌田氏は「駅ナカ」と呼ばれる東日本旅客鉄道(JR東日本)駅構内の商業施設(エキュート)の仕掛け人として知られ、カルビーでは新規事業を担当する。
●ケーズホールディングス
家電量販店ケーズホールディングスの動向も注目されている。19年3月期までの5年間で240店以上の中小型店を新規に出店。19年3月期に連結売上高1兆円(14年3月期比43%増)を目指す。家電量販業界は消費増税後の反動減で苦戦が続く。最大手のヤマダ電機などが新規出店を抑制するのに対して、ケーズは攻めの姿勢を貫く。ヤマダからケーズへの主役交代も囁かれている。
●出光興産
巨象が目覚めたと話題になったのが出光興産だ。石油メジャーの英蘭ロイヤル・ダッチ・シェル系の昭和シェル石油にTOB(株式公開買い付け)を行うことが明らかとなった。経済産業省がシナリオを練った官製再編の流れに乗った。ロイヤル・ダッチ・シェルは原油安が業績の重荷になっており、昭和シェルへのTOB提案に応じる方針とされる。
出光興産はこれまで、石油元売り大手として独立路線を歩んできた。資本と経営を分離したとはいえ創業家の資産管理会社、日章興産が筆頭株主で、創業者の孫である出光正和氏は第10位の大株主。出光一族の持ち株比率は31.21%に達する。正和氏と隠然たる影響力を持つ天坊昭彦相談役が再編に舵を切ったとの見方もある。
出光を核とする業界再編に、米エクソンモービルの日本法人を買収し新体制に移行した東燃ゼネラル石油がどう絡むのか。単独の経営を続けられるかどうかの岐路に立つコスモ石油を含め、今年は石油関連企業トップの動向から目が離せない。
(文=編集部)