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/Chris 73)
7月1日、名古屋市中村区のトヨタ・名古屋オフィスで開いた新体制披露会で、それが如実に表れていた。
「グローバルビジョンの進捗状況はどうか。具体的な数値で示してほしい」。記者会見形式をとった披露会の質疑応答で、トヨタ首脳陣は海外メディアからこのように質問を投げかけられたが、豊田社長は「『お客様の期待を越えて、笑顔を頂けるように』というビジョンは浸透してきたと思う」という当たり障りのない回答に終始。
次の収益目標を問われていると察した小澤哲副社長も「グローバルビジョンを策定した当時、CFO(最高財務責任者)として『為替が1ドル=85円、世界販売750万台でも単独収益を黒字化し、連結営業利益1兆円を確保する』という目標を打ち出した。その目標は達成できたと思う。社内的には当然、今後の数値目標を持っているが、公表するのは控えたい」などとと、控えめな応答に終始した。
ここで具体的な目標を打ち出していれば、周囲の目は「トヨタの復活もいよいよ本物」という見方になったかもしれない。ただ、トヨタはあえて数値目標を外部に公表するのを見送った。
●“神風”による収益改善
現在、トヨタが置かれている環境は「豊田社長が09年にトップに就任して以降、最も良い状況」といってもいい。昨年まで1ドル=80円台を割る水準で定着する気配を見せていた為替相場は、アベノミクスへの期待感などで急激に円安に振れ、1ドル=100円前後まで修正が進んだ。輸出採算の悪化に苦しんでいたトヨタにとってみれば“神風”が吹いたようなもの。13年3月期の収益改善にも大きく貢献した。
12年に974万8000台に達した世界販売も増加基調で推移しており、今年、前人未踏の1000万台に到達するのは確実とみられている。それでもトヨタ首脳陣が慎重な姿勢を崩さないのは「社員の油断や慢心こそが最大のリスク要因」と見ているためだ。
リーマンショック以前、「最強」の名をほしいままにしたトヨタは、収益拡大のため生産能力が過剰になるリスクを顧みずに、海外工場を増やしていった。販売台数の増加に酔いしれたトヨタは設備投資にブレーキをかけられず、結果として世界同時不況の際に赤字転落の憂き目に遭った。また、10年に相次いだ品質問題も単純な技術ミスではなく、「外部の批判的な目が影響した」と見ている節がある。この2つのトラウマが、再び世界販売が拡大する局面を前にして、トヨタ首脳陣を身構えさせる形になった。
今年、1500万台規模まで回復するといわれる北米市場と、得意とする東南アジア市場で販売が好調に推移すれば、遅かれ早かれ世界販売1000万台の達成は確実だ。ただ、これからのトヨタには、社内に生まれる「油断の芽」を辛抱強く摘み取るという根気のいる作業が待ち受けている。
(文=編集部)