TPP交渉参加をめぐる日米協議で、たびたび報じられた「米国側は軽自動車の規格や税制を問題視している」との報道。業界や自動車メーカの渉外担当者は確認に追われ、経済産業省はそのたびに「公式にそんな話はない」(自動車課)と否定した。結局、日本側がアメリカの関税撤廃に猶予を与え、簡素な手続きで輸入できる枠を年間3000台から5000台に増やすことで日米は大筋合意。「あっけない幕切れ」(メーカーの渉外担当者)となった。
運輸省令(当時)で規格が誕生してから60年以上がたつ軽自動車。以前は安い代わり性能の劣る「我慢の車」だったが、走行性能や快適性も向上し、車種も多様化。地方在住者だけでなく、都会の需要も取り込んで市場が拡大している。今や新車の3台に1台以上が軽だ。
●軽優遇を疑問視するトヨタら大手自動車
こうなると面白くないのが、排気量1リットル級の車を主力とするトヨタや日産、マツダなどのメーカーだ。OEM(相手先ブランドによる生産)で軽を扱ってはいるが、利益はほとんど見込めない。02年には日本自動車工業会の奥田碩会長(当時)が「(軽自動車を)優遇する時代じゃない」と発言するなど、これまでも何度か“軽優遇廃止論”が浮上した。ただ、自動車業界として仲間割れにはなんとか至らず、軽問題は業界のタブーとされてきた。
しかし今回、TPPで軽の優遇問題がメディアで報じられるにつれ、「どこかで入れ知恵している日系メーカーがいるのではないか」(軽自動車業界関係者)との疑念が出始めた。真っ先に疑われたのは国内外で屈指のロビー活動を展開するトヨタだ。公式には認めるはずもないが、同社の関係者は「日本は今も外圧に弱いから……」と、なんらかの関与をほのめかす。
国内にも意外な“伏兵”がいた。地方税を所管する総務省だ。
「軽自動車税率は20年以上変わっていない」と言い続けてきた総務省は、自動車税や自動車重量税を統合する「環境自動車税」構想の中で、10年に「軽自動車の税負担の引き上げ」を打ち出した。年間税収ベースで自動車税は1兆6000億円余りなのに対し、軽自動車税はわずか1810億円と10分の1。軽自動車市場の拡大は税収減に直結する。環境自動車税構想は業界やメディアの反発を浴びて頓挫したが、総務省はまだあきらめていない。水面下で制度案を手直ししつつ、通商交渉の行方や世論を注視している。
TPPに続き、日欧EPA(経済連携協定)の交渉も始まった。早くも「EUは軽規格を問題視している」との報道がチラホラ始まり、業界や軽メーカーは神経を尖らせている。「スズキと裁判沙汰になっているVW(フォルクスワーゲン)は格好の材料として揺さぶりに使うだろう。軽優遇が薄れれば、小型車が主力のVWにメリットもある」(業界関係者)。熾烈な駆け引きが繰り広げられる国際交渉の場に引きずり出されれば、さすがの軽も無傷ではいられないかもしれない。
(文=編集部)