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ホンダN-BOX、販売1位陥落危機…未使用車を中古に大量流出の裏技も限界

文=萩原文博/自動車ライター
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ホンダN-BOX
ホンダ「N-BOX」

 本田技研工業(ホンダ)の人気軽自動車「N-BOX」は今期も国内新車販売台数で第1位となるなど売れ行き好調と伝えられるが、一方では人気に陰りがみられ始めているとの指摘もある。相反する情報が流れる理由はどこにあるのだろうか。

 2024年4月、ホンダ「N-BOX」が2023年度(2023年4月~2024年3月)の新車販売台数で第1位を獲得したと発表した。これにより、N-BOXは3年連続登録車を含む国内新車販売台数第1位(全軽自協・自販連調べ)と同時に軽四輪車新車販売台数において9年連続の首位に輝いた。

 2011年11月に登場した初代ホンダN-BOXは、新設計のプラットフォームとパワートレインを採用し、「日本にベストな新しいのりものを創造したい」という想いを込めた新型軽乗用車「N」シリーズの第1弾として販売開始された。2012年度の軽四輪車販売台数第1位に輝いて以降、2014年度にダイハツ工業「タント」に譲った以外は、2023年度まで第1位を続けている軽自動車のベストセラーモデルとなっている。

 2023年10月に3代目となる現行モデルを販売開始し、同年12月には累計販売台数250万台を達成し、2023年度新車販売台数第1位に輝くなど相変わらずの強さを見せつけるホンダN-BOXだが、様々な資料や販売現場から聞こえる声はこれまでのような盤石ではないようだ。

 現在、新車販売台数の約40%を占めている軽自動車。そのなかでも販売台数上位を占めているのがホンダN-BOXをはじめとしたスーパーハイトワゴンと呼ばれるモデルだ。2024年3月の新車販売台数を見ても、2万360台で第1位のホンダN-BOXをはじめ、1万7869台で第2位のスズキ「スペーシア」。そして第5位の日産自動車「ルークス」は、すべてスーパーハイトワゴンだ。あいにくダイハツ「タント」は、認証不正問題でランク外となっているが、第4位のスズキ「ワゴンR」も、その多くは「ワゴンRスマイル」というリアにスライドドアを採用したモデルだし、第6位の三菱自動車「デリカミニ」もスーパーハイトワゴン。つまり、スーパーハイトワゴンは現在、軽自動車の主力モデルとなっているのだ。

 そのなかでホンダN-BOXは、2023年10月にフルモデルチェンジを行い、現行モデルが登場したばかり。またN-BOXを追うスズキスペーシアも2023年11月にフルモデルチェンジを行い、商品力を向上させている。フルモデルチェンジを行ったばかりなので、モデル末期だった昨年より販売台数が多くなるのは当然のこと。しかし、N-BOXの数値を見ると、決してそうなっていないのだ。

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旧型のホンダN-BOX

 フルモデルチェンジを実施したホンダN-BOXとスズキスペーシアの新車販売台数と対前年比を見てみると、2023年12月はN-BOXの新車販売台数が1万9681台、対前年比117.4%。スペーシアが1万1089台、119.5%とフルモデルチェンジの効果が表れている。しかし2024年になると、N-BOXは1月の販売台数が1万7446台、対前年比88.1%、2月の販売台数は1万6542台、対前年比84.2%。そして3月の販売台数は2万360台、対前年比73.2%と、モデル末期だった対前年比割れとなっているのだ。

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スズキ「スペーシア」

 これに対してスペーシアは、1月の販売台数が1万1316台、対前年比111.1%、2月の販売台数は1万5066台、対前年比153.9%。そして3月の販売台数は1万7869台、対前年比136%と、すべて対前年比100%以上となっている。しかも、これまでN-BOXは圧倒的な販売台数を誇っていたが、2024年2月の新車販売台数はわずか1500台差までスペーシアに近づかれた。

 筆者の知り合いの中古車販売店スタッフに聞いてみると、現行型N-BOXはオーダーすると通常の納期で新車が来るとのこと。そして中古車販売店は新車だけでなく、未使用車として在庫を買っているという。ただ、売れ行きはボチボチという感じで旧型と比べると勢いはないと話す。

 そこで、大手中古車検索サイトで現行型N-BOXの中古車を検索すると、約1970台がヒット。その内、走行距離500km以下、すなわち未使用中古車に絞ると、約1834台もヒット。現行型N-NOXの中古車のうち約93%が未使用中古車となっているのだ。同様に現行型スペーシアも検索すると、約560台がヒット。その内、走行距離500km以下に絞ると約97%の543台がヒットした。新車販売台数の差はかなり縮まっているにもかかわらず、3倍以上の未使用中古車が市場に出回っているということからも、N-BOXが苦戦していることがわかる。

 現行型N-BOXは、シャシーやエンジンといったコンポーネンツを歴代モデルで初めてキャリーオーバーとした。つまり、旧モデルをベースに改良を加えたのだ。また、外観デザインはカスタムだけが大きく変わったが、標準車はキープコンセプトで旧モデルと区別が付かないほど変わってはいない。走りの質感などは向上しているが、軽自動車ユーザーは、やはり外観デザインは旧型との差別化を求めていると考えられる。さらに、旧モデルに設定されていた、標準車のターボエンジン搭載グレードや助手席ロングスライド仕様のEXが廃止されるなどバリエーションを減らしたのも影響していると考えられる。

 現行型N-BOXの新車価格は、N-BOX 2WDの164万8900円~N-BOXカスタムターボコーディネイトスタイル2トーン4WDの236万2800円となっており、予算200万円以上が必要となっている。そんなN-BOXのライバルが、同じホンダから2024年3月に登場した。それがコンパクトSUVの「WR-V」だ。

 インドで生産され輸入されているWR-Vの新車価格は、Xの209万8800円~Z+の248万9300円と、現行型N-BOXとバッティングしている。このリーズナブルな価格設定がユーザーに支持され、発売から約1カ月で月販販売台数4倍以上の約1万3000台の受注をしているのだ。購入層は軽自動車やコンパクトカー、ミニバンなどからの乗り換えが中心となっているので、N-BOX購入層も見た目が変わらない現行型N-BOXではなく、同じ価格帯だったらとWR-Vを選ぶユーザー少なくないはずだ。

 これまで、圧倒的な販売台数を誇りベストセラーカーとして君臨してきたN-BOXだが、スペーシアなどのライバルが追従。さらにWR-Vという新しい選択肢が生まれたことで、これまでのような販売台数をキープできなくなっているのだ。未使用車として市場に流通させることにも限界があるので、今後は販売台数が下がる可能性もある。現在、ホンダはN-BOXとフリード以外にヒット商品がない状況なので、N-BOXの苦戦はホンダにとってかなりの痛手となる。まもなくフリードがフルモデルチェンジするという噂だが、N-BOXもなんらかのてこ入れを行う可能性は高い。

萩原文博/モータージャーナリスト

萩原文博/モータージャーナリスト

モータージャーナリスト。1970年生まれ。10代後半で走り屋デビューを果たし、大学在学中に中古車雑誌編集部のアルバイトに加入し、中古車業界デビュー。1995年より編集部員として本格的に携わり、2006年からフリーで活動。中古車の流通、販売の造詣が深く、新車でも多くの広報車両に乗車するなど精力的に取材を行っている。

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