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マルハン:なぜディーゼル車は発火したのか…自然発火の可能性も、ガソリン車も注意

文=Business Journal編集部、協力=桑野将二郎/自動車ライター
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マルハンのHPより

 20日に神奈川県厚木市のパチンコ店「マルハン厚木北店」の駐車場で発生した火事。火元となった車両はディーゼル車であり、駐車してから15~30分後にエンジン下部のあたりから発火したとのことだが、停車中の車が出火するという事故は、しばしば起こるものなのか。また、何かディーゼル車特有の事情に起因するものなのか。専門家に聞いた。

 火事が起きたのは2階建ての立体駐車場で、火元となった車両があった2階部分には、火事が発生した当時、日曜日の日中ということもあり、157台ある駐車スペースに155台が止められていた。この立体駐車場には消火器や自動火災報知設備は設置されていたが、面積などの構造上、スプリンクラーなどの設置義務はなく、設置されていなかった。開放型という建物の特性上、2階部分は風が入りやすいことも影響して、2階部分を中心に1階から屋上で計152台が燃えたという。

 自動車の火災は毎年、一定数発生している。国土交通省発表の「令和3年事故・火災情報の統計結果について」によれば、同年に起きた車の火災は1070件で、火災が発生した装置として最も多いのが「原動機」、次いで「電気装置」「走行装置」となっている。原因としては「点検・整備」によるものが最も多く、次いで「外部要因」「社外品・後付装置」となっている。また、JAF(日本自動車連盟)はHP上で車両火災の原因について次のように記載している。

「燃料やオイル漏れに起因するものやエンジンルーム内へのウエスの置き忘れ、バッテリーのターミナルが緩むことで発生するショートによっても発火の危険性が高まります」

「フロントウインドウにアクセサリーなどをつるす透明の吸盤を貼り付けたりすると、凸レンズ効果により太陽光が集光され、部分的に高温箇所を作り出すこともあります。そもそも、フロントウインドウに貼り付けを行なう場合は、道路運送車両・保安基準「第29条」の細目告示第3節「第195条」に則ったものでなければなりません。さらに水を入れたペットボトルなど光を集める作用をするものも、車内に置くときは注意する必要があります。ほかにはダッシュボード上など、車内の直射日光があたる場所にライターなどを放置したりすると車両火災の発生確率が高まり危険です」

ディーゼル車とガソリン車の違い

 近年では世界的にEV(電気自動車)の電気系統の不具合に起因する火災事故の増加がクローズアップされている。今年1月にはテスラの「モデルS」が米カリフォルニア州の高速道路を走行中に、突然発火して炎上するという事故を起こし、同社が事故の原因や経緯を説明しないことに批判が集まった。EVに限らず、人が乗っていない状態の車が突然、発火するという現象は、しばしば起こるものだろうか。中古車販売店経営者で自動車ライターの桑野将二郎氏はいう。

「消防の調べでは、比較的最近のディーゼル車から発火したという見立てのようですが、この現象について考える前に、まずディーゼルエンジン車の仕組みを知ることが必要かと思われます。ガソリン車とディーゼル車は当然のことながら使う燃料が異なります。ディーゼル車に使われる燃料は軽油で、精製される前の原油はガソリンと同じながら、精製段階で沸点を指標として分けられます。軽油の沸点は240℃~350℃、ガソリンの沸点は35℃~180℃で、沸点が高い軽油は、ガソリンに比べて揮発性は低いので、引火はしにくいのですが、熱を加えると着火しやすい(自然発火しやすい)。ガソリンは引火しやすく、軽油は着火しやすい、という特性があるわけです。ガソリン車はプラグで燃料に点火してエンジン内部の爆発を生みますが、ディーゼル車はプラグがなく、燃料を加圧することで温度上昇させ、着火点に達すると一気に爆発する仕組みです。

 そしてもうひとつポイントとなるのが、高い熱を発する補機類がディーゼル車に装着されているという点です。最近のクリーンディーゼル車は、排ガス浄化装置・ディーゼル微粒子捕集フィルターが装着されています。これはDiesel particulate filter=DPFと呼ばれ、排気ガスに含まれる煤(すす)などを一時的に捕集し、一定量が溜まったら燃焼させて除去するという装置です。有害な物質を除去するためには、フィルター内部を600度くらいまで上昇させるため、周辺の排気系部品も高温状態となります。グラスウールなどで保護はされていても、部品の外側が300度近くになるため、過去にもDPFの故障による火災事故が起こっています。部品本体の不具合だけでなく、高熱部分に枯葉が接触し、排気ガスに炙られて発火したというケースもあります。

 今年7月27日には、BMWおよびMINIのディーゼルエンジン車27車種について、火災事故に至るおそれがあるとして、国土交通省へリコールの届け出がありました。これは、排気ガス再循環装置の耐久性が不十分であったため、経年劣化で漏れ出た冷却水が排気ガスに含まれる煤(すす)と混合して、排気ガス再循環装置内部に堆積し、高温になった堆積物がマニホールドに流入し、熔損や最悪の場合は火災に至るというもので、各国で火災事故が起きていました。

 ここで、今回のマルハンでの火災事故の話に戻ります。原因として考えられるのは、なんらかの理由で漏れ出た燃料が、DPFなど高温にさらされた部品に垂れ落ちて発火したというパターンや、DPFに何かが付着して発火した、あるいはそういったトラブルに昨今の猛暑が追い打ちをかけてしまった、などということも可能性として拭い去れません。消防の話では、車体下部の樹脂部品が激しく燃えていたという検証結果があり、また駐車後15分後くらいから火災が起こっているということから、排気管やDPFの周辺など高温にさらされる部分からの自然発火が想像しやすいかと思われます。ただ、15分も経過してから自然発火するというのはやや考えにくいところもあり、室内の物や他の要因として、例えばバッテリーを備えた電子機器(ノートパソコンや携帯電話など)が発火した可能性なども考えられるかと思います」(同)

日頃の日常点検が事故を防ぐ

 では、ガソリン車と比べて、ディーゼル車は出火のリスクが高いのか。

「前述のとおり、軽油がガソリンよりも自然発火しやすい特性であること、そしてDPFのように高温状態になる部品が備わっているという点では、ディーゼル車のほうが火災のリスクが高いと思われがちですが、ガソリンも揮発性が高いため、燃料漏れから火災につながっているケースも少なくはなく、必ずしもディーゼル車が危険だというわけでもありません。自動車は機械ですから、突然トラブルが起こることもありますし、猛暑の夏場には意外な落とし穴もあります。冷却系の不具合によるオーバーヒートからのエンジン異常発熱、下り坂でブレーキを使い過ぎたことによるフェード現象から落ち葉を拾い発火など、『自分の愛車が燃えるなんて……』と他人事のように思わず、日常点検を常に意識していただきたいと思います」(同)

 保有する車が出火事故を起こさないためには、日頃からどのようなことに注意すべきなのか。

「これは注意しようにも難しい面が多いと思いますが、愛車の日常点検をもっと誰もが常に留意すべきではないかと思います。日本人はボンネットを開けたことのない人が多いともいわれており、愛車のコンディションやメンテナンスに無頓着な方がマジョリティなのかもしれません。走行前にパッと下回りを覗いて、何か漏れたりしていないか、普段と違うことがないか目視したり、エンジンをかけた時や走行中に異音や異臭、違和感がないかに気を払っていただくだけで構いません。また、駐車後に異臭がしないか(燃料の臭いがする、何かが焼けたような臭いがする、など)、下回りに何か漏れていないか、一目見るだけでもトラブルは意外と未然に防げたりするものです」(同)

(文=Business Journal編集部、協力=桑野将二郎/自動車ライター)

桑野将二郎/自動車ライター

桑野将二郎/自動車ライター

1968年、大阪府生まれ。愛車遍歴は120台以上、そのうち新車はたったの2台というUカー・ジャンキー。中古車情報誌「カーセンサー」の編集デスクを務めた後、現在はヴィンテージカー雑誌を中心に寄稿。70~80年代の希少車を眺めながら珈琲が飲めるマニアックなガレージカフェを大阪に構えつつ、自動車雑誌のライター兼カメラマンとして西日本を中心に活動する。
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