トヨタ、資生堂…なぜ日本企業は消費者ニーズに“疎い”のか?ブランド戦略が“ない”理由
日本企業はマーケティングが下手だと、海外市場でいわれることが多い。これは、別に海外市場に限ったことではない。国内市場においてさえ、消費者の心理を洞察した上で、その考え方や感じ方の枠組みを自社のマーケティング活動で変えていこうとする強い意図が感じられないことがよくある。
しかし、10月に上梓した『合理的なのに愚かな戦略』(日本実業出版社)で考察したとおり、よく考えてみると日本企業が消費者の心理や行動に疎いのは、ある意味で当然のことだろう。なぜなら、驚くべきことに消費財を製造販売している日本の大手企業の中には、「消費者と直に売買交渉をしている」という自覚や経験のない企業が多いからだ。自動車、化粧品、家電、ビールなどのメーカーの中には、戦後いち早く垂直型の流通チャネルを構築するのに成功した結果として、その業界においてトップの地位を築いた企業が多い。卸問屋の特約店化や小売販売店の系列化を進めることで全国各地に進出を果たし、なおかつ競合他社の参入を難しくして競争を排除することで、高度成長時代に繁栄を謳歌したのだ。
例えば、化粧品でいえば資生堂、ビールにおいてはキリンが長年トップの座にあり続けることができたのは、商品(ブランド)力というよりは、流通チャネルの系列化を競合他社よりも早く確立するのに成功したからだ。その結果、メーカーにとって客は消費者ではなく特約店や系列販売店ということになってしまった。「あの会社だったら一流だし信頼できるから取引してもよい」と卸売業の社長や小売店のオーナーに思ってもらうことが大切であり、必然的に商品ブランドよりは企業ブランドが重要になる。
資生堂では、2001年まで店頭売り上げではなく小売店の仕入れの数字が社としての売り上げとされていた。つまり、消費者がどれだけ買ってくれたかではなく、小売店がどれだけ仕入れてくれたかで売り上げが決められていたのである。そのため、店頭では売れていなくてもノルマを達成するために小売店に「押し売り販売」する習慣があった。つまり、B2C(対消費者販売)をしていたようで実はB2B(対企業販売)だったのだ。