トヨタ、資生堂…なぜ日本企業は消費者ニーズに“疎い”のか?ブランド戦略が“ない”理由
●ブランド戦略などなかった理由
自動車業界も同じで、1950年代に特約販売店(ディーラー)のネットワーク構築にいち早く着手したトヨタ自動車や日産自動車が市場の50%以上のシェアを占有し、その後も長い間、首位争いをする歴史が続いた。最初は「1県1ディーラー」のシステムをとっていたが、60年代になり個人の自家用車保有が急激に伸びると、これでは対応できなくなる。より幅広い層に訴求してシェアを拡大するために、1県1ディーラーの建前を守りながらも販売チャネルを増やす方策として、次から次へと新ブランドを発売した。
ブランドが違えば新チャネルをつくっても既存チャネルからの苦情に対処できるし、新しいブランドを既存のモノと差別化するためにも同一のチャネルで販売しないほうがよい。実際のところ、異なるチャネルで販売されるブランド間の違いはあまりなく、極端なケースでは、同一コンセプトの車種をネーミングを変更することで、異なるブランドとして異なるチャネルで販売するようなこともあった。
つまり、日本の自動車メーカーには販売チャネル戦略はあってもブランド戦略などなかった、そもそもブランドの役割など眼中になかったのだ。
●成功ゆえのツケ
こういった戦後の垂直型流通チャネル構築で成功した企業は、その成功ゆえに、のちに重いツケを払わされることになる。
例えば資生堂は、創業以来140年を超す長い歴史の中で、これといったブランドを育てることに成功していない。小売店に「押し売り販売」や「お願い販売」をするということは、ギブ&テイクの関係で小売店の要望も聞かなくてはいけないということになる。小売店側からいえば、常に目新しい新製品が発売されるほうが売り上げは上げやすい。こういった要望に応えるかたちで、資生堂は11年頃まで年間500~600もの新製品を発売し、08年時点で100以上のブランドがあった。
これでは、消費者は新商品やブランドの名前を覚えることもできない。実際、1年前に発売されたブランドが、消費者に名前を覚えられる前に新ブランドへ取って代わられることが最近まで続いていた。
日経BP社が01年から毎年実施しているブランドランキング調査「ブランド・ジャパン」では、資生堂は化粧品最大手でありながら、過去10年に消費者による評価では30位以内に一度も入っていない。一方、ビジネスパーソンによる評価では30位以内に5回入っている。B2Bビジネスをしてきたので、企業ブランドとしてはある程度評価されているということだろう。