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吉野家HDの業績をラーメン事業が牽引?利幅の確保しやすさ、ラーメン店へのM&Aが活発化

2025.07.12 2025.07.11 16:32 企業
吉野家「牛玉スタミナまぜそば」
吉野家「牛玉スタミナまぜそば」

●この記事のポイント
・吉野家HD、25年3~5月期連結決算では苦戦した牛丼事業を、うどん・ラーメン事業の伸長で補う
・「ラーメン世界一」を目指すと宣言し、ラーメン事業の売上高400億円、店舗数500を目標に
・「吉野家」初の麺メニューが好評、新規客層の拡大を狙う

 吉野家ホールディングス(HD)のラーメン事業が伸びている。2025年3~5月期連結決算の事業別の営業利益では牛丼の「吉野家」が前年同期比9.5%減だった一方、うどんチェーン「はなまる」は同9.3%増、ラーメン事業が入る「その他」は同約5倍に増加。全社の営業利益としては同20%増の約10億円となっており、苦戦した牛丼事業を、うどん・ラーメン事業の伸長で補うかたちとなった。「ラーメン世界一」を目指すと宣言し、ラーメン事業を第3の事業ドメインと定めて2029年度に売上高400億円、店舗数500を目標とする吉野家HD。その背景には何があるのか。専門家の見解を交えて追ってみたい。

●目次

低価格競争が続く牛丼業界とは対照的

 7月4日、同チェーンとしては初の麺メニューとなる「牛玉スタミナまぜそば」(税込767円/店舗によって異なる)が発売され、話題を呼んでいる「吉野家」。その吉野家を展開する吉野家HDは現在、急速に“ラーメン企業化”を進めている。ここ数年、全国各地の比較的小規模なラーメン店・チェーンなどの買収を重ね、2024年にはラーメンに必要な原材料をひととおり製造してラーメン店に販売している宝産業を買収。中長期的にはラーメン事業を牛丼、うどんと並ぶ柱の事業に成長させていくシナリオを描いている。

「大きな背景としては、牛丼チェーンとして競合する『すき家』の運営元であるゼンショーホールディングス、『松屋』の運営元である松屋フーズホールディングスは今や総合外食企業となった一方、吉野家HDは牛丼とうどんの2本に依存している傾向があります。現在のように米と牛肉の価格が高騰して牛丼事業が苦しくなると、それをリカバリーする事業がなく、会社全体として業績が悪化してしまうリスクがあります。少し前から『吉野家』チェーン内で第2の柱として鶏の唐揚げに注力していますが、やはり『吉野家』というチェーンのほかに柱をつくっていく必要があるということでしょう。

 低価格競争が続く牛丼業界とは対照的に、今やラーメンは1000円超えが当たり前になっており、高い付加価値を付けることで比較的高価格帯の設定が可能になり、利幅を確保しやすいのも運営企業側としてはメリットです。また、全国では各地域で知名度の高い小規模なラーメン店・チェーンへのM&Aが活発化していることで、買収を進めやすい土壌が整ってきているといえます」(外食チェーン関係者)

「既存客を飽きさせない」「新規客層の拡大」「話題性」

「吉野家」がラーメン系メニューを発売した理由について、自身でも飲食店経営を手掛ける飲食プロデューサーで東京未来倶楽部(株)代表の江間正和氏はいう。

「その理由は、

・既存客を飽きさせない
・新規客層の拡大
・話題性

を考慮したためだと考えられます。私たちは日々の食事で『何を食べようかな』と考えますが、ずっと同じものばかり食べる人は少なく、『昨日は〇〇を食べたから、今日は〇〇を食べよう』といったようにバリエーションを求める傾向があります。そのため町場の飲食店は日替わりランチを用意したりして、来店回数増加のための工夫をしています。本来はメニュー数を絞り、オペレーションを簡略化したほうが効率的ですが、お客さんに飽きられないよう、来店頻度を上げるために『茹でる』というオペレーションくらいなら加えられると判断してラーメン系のメニューを用意したのでしょう。

 また、麺のようなメニューの選択肢が増えると、女性や家族連れのお客さんが来店しやすくなります。女性にもラーメン好きは多いです。私のクライアント店では日替わりランチでラーメンを出すと女性客が多く来店されますし、子供たちはもちろん麺類大好きです。今までとは違った客層の拡大も狙っていることと思います。

 そして、吉野家のような大手チェーン店が新しいことを始めると、ニュースで取り上げられ、SNSでも話題となります。話題を耳にした人のなかで一定割合の人は来店します。存在を忘れられてしまうと他のお店にお客さんを取られてしまいますので、絶えず自分たちの存在をお客さんに意識してもらう必要がありますが、新商品は『試しに行ってみよう』『最近行ってなかったから久々に行ってみよう』と来店へのきっかけを生み出します。

 このように今回の吉野家の新商品投入は、どんな商売でも大事な『既存客を飽きさせない』『新規客層の拡大』『話題性』を狙ったものであり、『牛玉スタミナまぜそば』が絶対的なエースといえる商品になるかは分かりませんが、そのような試みが重要であることは間違いないと思います。この先に発売される新商品の中から、もしかしたらヒット商品が生まれるかもしれませんし、期待したほどの反応なく麺商品の提供が終わってしまうかもしれませんが、テスティングを込みにして絶えずチャレンジすることが大事ではないでしょうか」

コスパ的には妥当

 ちなみに、「牛玉スタミナまぜそば」は767円という価格を勘案すると、そのクオリティやコスパはどう評価できるのか。

「パッと見た感じでは、牛丼のお肉と刻みネギ、天かすが麺の上に乗せられ、シンプルなつくりです。それに玉子が別盛で提供されました。途中、お好みで備え付けの紅しょうがもトッピング。味は、だし粉のような節系が効いた濃い醤油だれが特徴的です。ちゃんと絡めると牛肉の味を包み込むほど塩味の強い醤油だれで、あっさりしたライスが欲しくなる方も多いのではないでしょうか。麺は細すぎず太すぎず、ほどよく醤油だれに絡みます。コシもまずまずあって良い食感です。

 コスパに関しては、他のラーメン店との比較や吉野家の他メニューとの比較がポイントになると思います。町場のラーメン店が1000円の壁を超え始めた昨今、今回の『まぜそば』は安いといえます。また、日高屋のような他チェーンには600円台後半くらいで各種麺商品を選べるところもあるので、牛丼のお肉がトッピングされていることを考慮すれば、他チェーンとはいい勝負かなと思います。

 一方、吉野家の他商品との比較としては、私の好きな『ねぎ玉牛丼 並』(660円)とトッピングの内容が似ており、約100円の差は米か麺かの違いと、天かすや調味料が加わったことによるものでしょう。よって、吉野家の他商品と比較としても、ほどよい値決めといえるのではないでしょうか。以上より、牛丼屋の麺商品としてはコスパ的には妥当といえ、麺好きがオーダーしやすい商品だと思います」(江間氏)

(文=BUSINESS JOURNAL編集部、協力=江間正和/東京未来倶楽部(株)代表)

江間正和/飲食プロデューサー、東京未来倶楽部(株)代表

江間正和/飲食プロデューサー、東京未来倶楽部(株)代表

東京未来倶楽部(株)代表
5年間大手信託銀行のファンドマネージャーとして勤務後、1998年独立。14年間、夜は直営店(新宿20坪30席)ダイニングバーの現場に出続けながら、昼間、プロデューサー・コンサル業。コンサル先の増加と好業績先の次の展開のため、2012年5月からプロデューサー・コンサル業に専念。
「数字(経営者側)と現場(スタッフ・オペレーション)の融合」「各種アイデア・提案」が得意。また、現場とのメニュー開発等、自称<「実践」料理研究家>。
・著書:『ランチは儲からない、飲み放題は儲かる』『とりあえず生!が儲かるワケ』『ド素人OLが飲食店を開業しちゃダメですか?』

Instagram:@masakazuema