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1.2億口座が株式市場への入り口になる?ゆうちょ銀行と松井証券、提携検討する両社の計算

2026.10.31 06:00 2026.10.30 18:50 企業
文=BUSINESS JOURNAL編集部、協力=川﨑一幸/金融アナリスト

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●この記事のポイント
ゆうちょ銀行が松井証券に約20%出資する方針だと、2026年10月28日に報じられた。両社は検討を認めつつ「未決定」と発表している。貯金残高186.2兆円・約1.2億口座のゆうちょ銀行と、独立系ネット証券の松井証券が描くのは、2027年中にもアプリで株式売買を仲介する構想だ。その狙いと、顧客保護・業界再編の論点を公表データで読み解く。

 ゆうちょ銀行がネット証券の松井証券に約20%出資する方針を固めたと10月28日、主要メディアが一斉に報じた。両社は同日、出資を含む提携を検討していることは認めつつ、「現時点で決定した事実はない」との見解を出している。報道どおりに進めば、ゆうちょ銀行は松井証券の筆頭株主となり、2027年中にも自社アプリで株式売買を仲介する見通しだ。通常貯金口座は約1.2億、貯金残高は186.2兆円(2026年6月末)。国内最大級の個人顧客基盤を持つ銀行と、1918年創業の老舗ネット証券。規模がまるで違う両社は、なぜ手を組もうとしているのか。公表データをもとに、双方の事情と今後の論点を整理する。

●目次

ネット証券「2強」と経済圏の時代――なぜ「松井」なのか

 まず、いまのネット証券業界の勢力図を確認しておきたい。SBIグループの証券総合口座数は2026年10月に国内初の1700万口座に達し、楽天証券も同年4月に証券単体で1400万口座を突破した。対する松井証券の総口座数は約184万(2026年9月末)。上位2社とは口座数で8〜9倍ほどの開きがある。

 差を広げた要因の一つが手数料競争だ。SBI証券は2023年9月30日発注分から国内株式の売買手数料を無料化し、楽天証券も追随した。売買手数料で稼ぐ従来のモデルは、中堅以下の会社ほど厳しくなった。

 もう一つの変化は、ネット証券が通信や銀行の「経済圏」に組み込まれたことだ。NTTドコモは2024年1月にマネックス証券を連結子会社化。auカブコム証券は2025年1月に三菱UFJ銀行の完全子会社となり、翌2月に「三菱UFJ eスマート証券」へ社名を変えた。主要なネット証券の多くは、すでにどこかの陣営と深く結びついている。

 その中で松井証券は、特定の銀行・通信グループに属さない独立系だ。ゆうちょ銀行の側から見ると、ここに一つの合理性がある。口座数が1千万を超える大手と組めば、仕組みづくりの主導権を握るのは難しい。松井証券の規模なら、報道されている約20%の出資でも筆頭株主になり得る。出資比率が20%以上になれば、会計上は原則として持分法適用の関連会社となり、松井証券の利益のうち出資比率分がゆうちょ銀行の連結業績に取り込まれる。

 松井証券の地力も見ておきたい。2027年3月期上期(2026年4〜9月)の純利益は104億円で、前年同期比60%増えた。顧客対応では、HDI-Japanの格付けベンチマーク(証券業界)で「問合せ窓口」「Webサポート」の2部門において15年連続で最高評価の三つ星を得ている(2025年)。

「ゆうちょ銀行にとって、提携先が特定のメガバンクや通信グループの色を帯びていないことは大きな条件だったはずです。規模で大手に及ばない分、ゆうちょ側の要望に合わせて仕組みを作り込みやすい。松井証券にとっても、広告費をかけて自前で口座を積み上げるより効率のよい成長の道筋になり得ます」(金融アナリスト・川﨑一幸氏)

ゆうちょ銀行の狙い――貯金の「減り方」に表れた課題

 ゆうちょ銀行の貯金残高は186兆2558億円(2026年6月末、連結)。巨額であることに変わりはないが、推移を追うと別の姿が見えてくる。2026年3月末の残高は、前年度末から4兆3530億円減った。6月末は3月末比で1471億円増えたものの、前年同月末と比べればなお約4兆7000億円少ない。減少が目立つのは定額貯金で、前年同月末比9.4%減と報じられている。

 減少の理由は一つではない。金利のある世界に戻り、他行や他の運用先と比べられやすくなったこと。新NISAを機に、資金の一部が投資に向かっていること。相続をきっかけに、預金が相続人の使う金融機関へ移っていく動きも、業界では以前から指摘されてきた。いずれも、貯金という商品だけでは引き止めにくい資金だ。

 ゆうちょ銀行も投資の受け皿づくりは進めてきた。投資信託の残高は3兆5797億円(6月末)、4〜6月の販売額は2032億円で、前年同期の1364億円から約5割増えた。ただし個別株の売買はこれまで扱っていない。各紙の報道によれば、松井証券との提携は、ゆうちょ銀行の顧客に対する株式売買の仲介が柱になる。決め手になりそうなのがアプリだ。通帳アプリの登録口座数は1749万(6月末)で、同行は2029年3月末に2500万口座を目標に掲げている。

 収益面の意味もある。ゆうちょ銀行の利益の大半は、国債などの有価証券運用から生まれている。4〜6月の役務取引等利益(単体)は424億円で、同期の純利益1784億円に比べれば小さい。株式売買の仲介は、金利水準に左右されにくい手数料収入を積み上げる手段にもなる。

 同行は今回の報道を受け、証券会社との提携の検討は中期経営計画に掲げたコンサルティング事業戦略の一環だと説明している。

「預金を守るというより、顧客との接点をグループ内に残す発想だと思います。親の口座が相続で解約されても、子や孫が同じアプリで投資を続けていれば関係は切れない。大事なのは個別株そのものより、資産形成の入り口を自社のアプリに持つことです」(同)

松井証券の狙い――1.2億口座への「入り口」

 松井証券の課題は、顧客基盤の広がりだ。新規口座の開設は直近で月1万2000件前後(2026年8月は1万2032件、9月は1万2152件)にとどまり、上位2社との差はなかなか縮まらない。ネット証券の顧客獲得は、広告やポイント還元のコストがかさみやすい。体力勝負になれば、規模の大きい会社が有利だ。

 ゆうちょ銀行のアプリから口座開設に進める導線ができれば、この構図は変わる。通常貯金の約1.2億口座のうち1%が利用するだけでも120万口座となり、松井証券の現在の総口座数の6割強に当たる。休眠口座や同一人物の重複を考えればあくまで概算にすぎないが、規模感をつかむ目安にはなる。

 接点の質も見逃せない。ゆうちょ銀行の利用者には、証券口座を持たない人も相当数いるとみられる。初めて株を買う人は、取引画面の操作や税制の仕組みでつまずきやすい。電話やチャットでの対応に力を入れてきた松井証券の体制が生きるのは、まさにこうした場面だ。同社は決算資料でも、コールセンターの応答率を高い水準で保っていると説明している。

 ただし課題もある。仲介を通じた取引では、手数料収入の配分や顧客データの扱いをどう設計するかが、収益を大きく左右する。システム連携の負担も軽くない。投資経験の浅い顧客が増えれば、相場が急変したときに問い合わせが集中することへの備えも要る。

「初めて株を買う人にとって、見慣れた銀行のアプリから入れる安心感は大きい。ただ、入りやすさはリスクを軽く見てしまうことと裏表一体です。少額から始める、分散する、といった基本を、売買画面と同じ場所で伝えられるかが問われます」(同)

今後の焦点と業界への影響

 正式な決定はこれからで、出資比率や提携の範囲、スケジュールは両社の発表を待つしかない。そのうえで、実現した場合に注目したい論点を三つ挙げておく。

 第1に、アプリの使い勝手だ。貯金口座から証券口座への資金移動がどれだけ手間なくできるか。口座開設から最初の取引までの手順は短いか。銀行と証券の連携は他社も先行しており、楽天銀行と楽天証券の口座連携「マネーブリッジ」は設定口座数が700万を超えた(2026年8月)。利用者はこうしたサービスと比べることになる。

 第2に、顧客保護だ。ゆうちょ銀行では2019年、高齢の顧客への投資信託の勧誘で、社内規定に定めた確認を怠る事例が多数判明した。同行はその後、高齢の投信利用者へのアフターフォローなどを続けている。個別株は投資信託より価格変動が大きくなりやすい。どの顧客に、どんな形で案内するのか。その設計が事業の息の長さを決める。

 第3に、業界再編への波及だ。メガバンクとネット証券、通信とネット証券という組み合わせに、全国に顧客を持つ銀行と独立系ネット証券という形が加わる。証券会社との提携を進めてきた地方銀行にとっても、提携先を選ぶ際の参考例になり得る。ただし、それが新たな再編の連鎖につながるかどうかは、今回の提携が実際に成果を出せるかにかかっている。

「金融商品仲介は多くの地銀がすでに使っている仕組みで、仕組み自体に目新しさはありません。違うのは規模です。1億を超える口座を持つ銀行のアプリに株の売買機能が入ることが、業界にとっての試金石になるでしょう」(同)

「貯蓄から投資へ」の現実的な一歩になるか

 報道段階とはいえ、両社の利害は分かりやすく重なっている。ゆうちょ銀行は、顧客との接点を投資の領域まで広げたい。松井証券は、自力では届きにくい層への入り口がほしい。規模ではなく、欠けているものを補い合う関係だ。

 個人の金融資産の多くは、いまも預貯金にある。その大きな受け皿であるゆうちょ銀行のアプリで株式が買えるようになれば、「貯蓄から投資へ」の流れに新しい経路が一つ加わる。一方で、使いやすさと顧客保護をどう両立させるかに、まだ答えは出ていない。正式発表で示される提携の中身を、落ち着いて見ていきたい。

(文=BUSINESS JOURNAL編集部、協力=川﨑一幸/金融アナリスト)

【主な参照データ・出典】
松井証券「一部報道について」(2026年10月28日)
CNET Japan「ゆうちょ銀行、松井証券へ20%出資報道 「提携の検討は事実」とコメント」(2026年10月28日)
NHK「ゆうちょ銀行が松井証券に2割出資へ 株売買で連携」(2026年10月28日)
日本経済新聞、ブルームバーグ、読売新聞、共同通信、時事通信の同日付報道(見出し・要旨を確認)
ゆうちょ銀行「2027年3月期 第1四半期決算説明資料」(2026年8月7日)、同「2026年3月期 決算短信」「2027年3月期 第1四半期決算短信」
ニッキンONLINE「ゆうちょ銀、四半期純利益87%増益」(定額貯金の前年同月比)
松井証券「2027年3月期 第2四半期 決算報告資料」(2026年10月28日)、「2026年9月の月間売買実績・取引口座数等」
松井証券「HDI格付けベンチマーク2025年【証券業界】にて2部門で15年連続三つ星獲得」(2025年9月4日)
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楽天グループ「楽天証券、証券総合口座数1,400万口座突破」(2026年4月30日)、「マネーブリッジ設定口座数700万突破」(2026年8月25日)
KDDI・三菱UFJ銀行「協業2.0」発表(2024年11月14日)、三菱UFJ eスマート証券の社名変更リリース(2025年1月31日)
NTTドコモ「マネックスグループ・マネックス証券との資本業務提携契約を締結」(2023年10月4日)
ゆうちょ銀行の高齢者向け投資信託販売に関する2019年の報道(日本経済新聞、テレビ東京ほか)

BusinessJournal編集部

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公開:2026.10.31 06:00