東京エレクトロン、営業益1兆円が視野に…「市況の波」に頼らず積み上げてきた3つの経営判断

●この記事のポイント
東京エレクトロンは2026年7月の決算資料で、営業利益1兆円が「視野に入ってきた」と記した。売上高が17%減った2024年3月期にも研究開発費を2,028億円に増やし、5年間で研究開発費1.5兆円・採用1万人を計画している。宮城・岩手・熊本の新拠点や取引先707社との協働も含め、AI特需を支える経営判断を開示資料から読み解く。
東京エレクトロン(TEL)が、2027年3月期に営業利益1兆円をうかがう位置まで来た。同社は2026年7月の決算説明資料で「1兆円の営業利益が視野に入ってきた」と記している。ただ、ここまでの道のりは一直線ではない。前期は売上高こそ過去最高を更新したが、営業利益は1割減った。景気の谷でも研究開発費を削らず、人と拠点に先回りして投じてきた判断の積み重ねを、同社の開示資料から追ってみる。
●目次
追い風だけでは説明できない数字
2027年3月期第1四半期(2026年4〜6月)の売上高は7,323億円で前年同期比33.3%増、営業利益は2,114億円で46.1%増だった。同社は上期(4〜9月)の予想も売上高1兆6,200億円、営業利益4,580億円へ引き上げている。
背景にAIがあるのは間違いない。同社はWFE(半導体前工程製造装置)市場を2026年に1,500億ドル以上、2027年に1,900億ドル以上と見込み、AIデータセンター向けがWFE全体の半分に迫る勢いで伸びているとする。
とはいえ、追い風は同業他社にも同じように吹いている。差がつくのは、風が吹く前に何を準備していたかだ。2022年に掲げた中期目標は「2027年3月期までに売上高3兆円以上、営業利益率35%以上、ROE30%以上」。このうち利益率35%について、同社自身が「チャレンジング」と表現している。足元の利益率は3割に届いていない。目標との距離を認めたうえで、何を積み上げてきたのか。戦略・組織・エコシステムの3つの切り口で見ていく。
不況期に研究開発費を増やす戦略
数字で見るとわかりやすい。メモリ不況が直撃した2024年3月期、売上高は前期の2兆2,090億円から1兆8,305億円へ約17%減った。それでも研究開発費は1,911億円から2,028億円に増え、設備投資は744億円から1,218億円へと大きく積み増している。
同社は2024年5月、2025年3月期からの5年間で研究開発費1.5兆円、設備投資7,000億円、人材採用1万人という投資計画を公表した。2026年3月期の研究開発費は2,778億円、今期は3,300億円を計画する。売上高の1割強を、市況にかかわらず技術に回し続けている計算になる。
こうした判断を支えているのが、顧客との長期的な技術ロードマップの共有だ。7月の決算説明会で同社は、顧客から約2年分の投資計画を受け取っていると説明した。ベルギーの研究機関imecとは1995年から提携を続け、2025年6月には2nm世代以降を見据えた5年間の延長を発表している。High NA露光に対応したパターニングや、次世代トランジスタ構造CFET向けの成膜・エッチングが重点テーマだ。
もう一つの特徴は、戦う場所の選び方にある。TELは露光装置を手がけていない。露光機とつながって感光材の塗布・現像を担うコータ/デベロッパに加え、エッチング、成膜、洗浄など前工程の複数領域で製品を持つ。露光装置メーカーとは、ぶつかるよりも補い合う関係にある。工程をまたいで装置を持てば、組み合わせによる提案の幅も広がる。同社が次の中期計画で掲げる「技術の組み合わせによるSAM(獲得可能市場)の拡大」は、この延長線上にある。
「半導体装置は、量産の何世代も前から顧客と開発を始めないと採用されない世界です。不況だからと開発を止めれば、回復期に出す製品がなくなる。TELの研究開発費の推移は、その構造を経営判断として織り込んでいることを示しています」(半導体アナリスト・岩井裕介氏)
短期業績で投資を上下させないためには、顧客と数年先の課題を共有する仕組みが要る。問われるのは投資額の大小より、長期投資を社内外に説明できる根拠を持っているかどうかだ。
人件費を「投資」として扱う
足元で利益率の伸びを抑えている要因の一つは、人件費を含む固定費の増加だ。同社は7〜9月期の利益率が4〜6月期より下がる見通しを示し、その理由に製品構成と固定費の増加を挙げた。利益率35%を目指す企業が、あえて固定費を積み増しているわけだ。
採用は2024年度から5年で約1万人を計画し、国内では2024年度に1,031人、2025年度に855人を採った。グループの従業員は約2万800人で、その大半をエンジニアが占める。
報酬は競合企業の水準をベンチマークに置き、業績が好調なときはそれを大きく上回るように設計しているという。評価は相対評価ではなく絶対評価で、目標とコンピテンシーの2軸で見る。同僚同士で評価の枠を取り合う構図にはなりにくい。
河合利樹社長は「やる気重視経営」を掲げ、2015年度から全グループ会社でエンゲージメント調査を続けてきた。2024年度のスコアは2015年度比で19ポイント上昇した。各社は地域・業界の上位25%を目標水準に置いている。
装置ビジネスでは、顧客の工場で装置を立ち上げ、トラブルに対応するフィールドエンジニアの力が次の採用を左右する。TELは国内にその専門子会社を置き、グローバルにフィールドエンジニアのトレーニング拠点も設けている。現場にどこまで判断を任せているか、制度としての公開情報は多くない。ただ、評価・報酬・研修を一体で回そうとする姿勢は、開示された数字からも読み取れる。
「固定費を増やせば、短期の利益率は下がります。それでも採用を続けるのは、装置の立ち上げや保守を担う人材が、次の受注の前提になる業界だからでしょう。人への投資が回収されるまでの時間を、株主や社員にどう説明するかが問われます」(同)
人件費を削るべきコストと見るか、受注の前提として投じるか。後者を選ぶなら、評価の透明性と還元の仕組みをセットで示す必要がある。
地方拠点と取引先を巻き込むエコシステム
TELの開発・生産の中心は東北と九州にある。この1年半ほどで、大型拠点が相次いで完成した。
拠点:所在地、用途、建設費、時期
東京エレクトロン宮城 生産新棟:宮城県大和町、プラズマエッチング装置などの製造、約1,040億円、2027年夏竣工予定
TELテクノロジーソリューションズ 東北生産・物流センター:岩手県奥州市、成膜装置の製造・物流、約240億円、2025年11月竣工
東京エレクトロン九州 新開発棟:熊本県合志市、コータ/デベロッパ・洗浄装置の開発、約470億円、2025年10月竣工
東京エレクトロン宮城 新開発棟:宮城県大和町、プラズマエッチング装置などの開発、約520億円、2025年4月竣工
宮城の生産新棟(宮城生産革新センター)では、労働生産性4倍、生産リードタイム3分の1といった目標を掲げる。稼働後はエッチング装置の生産能力を現状の約3倍にする計画だ。
ただし、装置1台は多数の部品やユニットでできている。自社工場を広げるだけでは生産は増えない。同社の国内製造会社は年2回「生産動向説明会」を開き、需要の見通しを取引先と共有している。年1回の「TELパートナーズデイ」では優秀な取引先を表彰し、2024年度からはコア技術に絞った「TELサプライヤーサミット」も始めた。
取引先への評価も、切り捨てるためではなく改善を促す形で回している。2025年度は707社を対象にサステナビリティ評価を実施し、重点的な改善が必要な48社のうち37社で是正を確認した。取引の見直しに至った企業はなかった。環境面では2021年に「E-COMPASS」を立ち上げ、物流や施設管理を担う取引先とも温室効果ガスの削減に取り組んでいる。
外部の研究者や学生との接点も広げている。大学などからテーマを募る共同研究公募制度を設け、日米の大学間パートナーシップ「UPWARDS」にも参画している。
「装置メーカーの増産は、部品を供給する地域の中小企業の設備投資とセットです。発注側が需要の見通しを早めに開示すれば、取引先は判断しやすくなる。地方に開発拠点を置き続けることは、理工系の若い人が地元で働く選択肢を増やす意味もあります」(同)
増産計画を取引先と共有し、評価と改善を一緒に回す。1社だけでは完結しない能力増強を、連携でどう実現するかが問われる。
リスクを抱えたまま、投資を続ける
先行きは平坦ではない。2026年3月期の地域別売上高では中国が34.1%を占め、輸出規制など地政学リスクの影響を受けやすい。四半期ごとの中国比率は、2024年4〜6月期の49.9%から2026年4〜6月期は30.4%まで下がった。AI投資の勢いがいつまで続くかも読み切れない。同社自身、2027年3月期から業績予想の開示を半期ごとに切り替えており、通期予想は中間決算の発表時に示すとしている。
それでもTELは、谷で研究開発費を増やし、人を採り、拠点を建ててきた。営業利益1兆円に届くかどうかは、今期後半の需要と生産の立ち上がり次第だろう。
ただ、その成否とは別に、ここまでの経緯から読み取れることがある。景気の谷で長期投資を続けるには、顧客と数年先を共有すること、人への投資を説明できる評価制度を持つこと、取引先と見通しを分け合うことが要る。いずれも豪華な施策ではない。規模や業種を問わず、自社の条件に当てはめて考えてみる価値はある。
(文=BUSINESS JOURNAL編集部、協力=岩井裕介/半導体アナリスト・経済コンサルタント)
【主な参照データ・出典】(いずれも東京エレクトロン公式)
2027年3月期 第1四半期決算短信・決算説明資料・質疑応答集(2026年7月30日)
業績予想
2026年3月期 決算説明資料・2024年3月期 決算説明資料
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