トイレの手洗い場に設置されているハンドドライヤーのメーカー、東京エレクトロンがネット上で注目されている。新型コロナウイルスの感染拡大の影響を受けて、売上が従来の約1割にまで減少したと報じられ、ハンドドライヤーに対する必要論・不要論などが噴出するなど、さまざまな見解が出ているのだ。今後、ハンドドライヤーは再び普及していくのだろうか。
洗面所で手を洗い、その濡れた手を入れると、風が吹き出て乾かしてくれるハンドドライヤー。スーパーやレストラン、デパートのほか、高速道路のサービスエリアなど、さまざまなトイレに設置されている。だが、新型コロナウイルスが蔓延した2020年以降、「使用禁止」などの貼り紙が貼られ、使えなくなったり、撤去されたりした。再び使えるようになったのは、ほとんどの場所で、昨年5月に新型コロナが5類感染症に移行してからだ。
ハンドドライヤーは、手についた菌を拡散させ、感染を広げる恐れがあるとの指摘があり、新型コロナ対策として使用が制限されたわけだが、世界保健機関(WHO)はむしろ使用を奨励していたという。さらに、使用禁止の対応を取っているのは日本だけだったと報じられている。
そんななかで打撃を被ったのは、ハンドドライヤーのメーカーだ。ハンドドライヤーの中小メーカーである東京エレクトロンは、売り上げが従前の1割にまで急減し、社員も半減したという。同社は世界最大の半導体製造装置メーカーと同名だが、別会社で資本関係などもない。本社を移転するなど経費削減を進めたが、今も売り上げはコロナ前の4割ほどだという。
同社は、ハンドドライヤーがコロナの感染拡大にはつながらないことを証明するため、独自に実験を行い、インターネット上に結果を公表している。一方で、ハンドドライヤーについては、手洗いが不十分な場合、大腸菌など手についた菌やウイルスが空気中に放出されるとの研究論文もある。
ハンドドライヤーが菌やウイルスを拡散するとの研究論文も
英オックスフォード大学出版局が刊行する科学雑誌「Journal of Applied Microbiology」に掲載された研究論文によると、ハンドドライヤーは多くのウイルスを空気中に放出し、放出されたウイルスははるか遠くにまで到達し、長い時間残存するという。
この実験は、手袋をはめた手にウイルスを塗布し、温風ドライヤー、ジェットドライヤーで乾かし、ペーパータオルで拭いた場合と比べるという内容。その結果、ジェットドライヤーが放出したウイルスの大半は約0.25m離れた場所に着地したが、3m離れた場所で温風ドライヤーの500倍のウイルスが検出された。ちなみに、ペーパータオルは、3mに到達したウイルスはゼロだった。すべての距離を合計すると、ジェットドライヤーは温風ドライヤーの20倍、ペーパータオルの190倍以上の量のウイルスを拡散していたという。
さらに、ジェットドライヤーの場合、送風から15分が経過しても、温風ドライヤーを使用した場合の50倍、ペーパータオルを使用した場合の100倍の数のウイルス粒子が空気中に存在していたと報告している。
つまり、手洗いで十分にウイルスや細菌を落としきれなかった場合、ハンドドライヤーによってウイルスが拡散する可能性はあるのではないだろうか。この実験に関し、ハンドドライヤーメーカーとして、言及すべきことはあるのか。
Business Journal編集部は東京エレクトロンに、件の研究結果を示しつつ、懸念する声に対して、どのように対応されていくのか、また、落ち込んだ売り上げを回復される施策はあるのかについて、話を聞かせてほしいと取材を申し込んだが、「取材には答えられない」との回答であった。
東京エレクトロンの売り上げが激減したことに対し、ネット上では同情的な声が多い。一方で、空気中に菌やウイルスを巻き散らす恐れを懸念する声も多く、使用に懐疑的な人は一定数いるようだ。また、「ハンドドライヤーでは手があまり乾かない」との指摘も少なくない。そのため、「ペーパータオルを置いてもらうのが一番ありがたい」といった意見も散見される。
ハンドドライヤーが使えるようになった施設も増えてきたが、いまだに再開に踏み切っていない施設もある。今後、社会の潮流としてはどのようになっていくのだろうか。
(文=Business Journal編集部)