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中国・南北トヨタ、20年の分業に幕…赤字の広汽が一汽トヨタ株50%取得へ

2026.10.09 06:00 2026.10.08 20:13 企業
文=BUSINESS JOURNAL編集部、協力=荻野博文/自動車アナリスト

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●この記事のポイント
広州汽車集団(広汽)は2026年9月28日、一汽股份が持つ一汽トヨタ株50%を1株5.75元の新株発行で取得する計画を開示した。赤字の広汽が年40億元超を稼ぐ合弁を取り込み、20年続いた「南北トヨタ」は中国側パートナーが一本化へ。国有車企業再編やトヨタの販売網統合、日系部品への影響を解説する。

 9月28日夜、広州汽車集団(広汽集団)が重大資産再編の予案を開示した。中国第一汽車股份(一汽股份)が保有する一汽トヨタの株式50%を、新株発行で取得するという内容だ。翌29日、2週間余りの売買停止が明けた広汽のA株は、値幅制限いっぱいの10.02%高で取引を終えた。

 一汽トヨタは2000年、広汽トヨタは2004年の設立。北を一汽、南を広汽が受け持つ「南北トヨタ」の体制は20年以上続いてきた。取引が成立すれば、トヨタの中国2大合弁の中国側パートナーは、どちらも広汽になる。

 中央政府直轄の名門・一汽が、広州市傘下の地方国有企業に合弁株を譲る。その構図だけを見れば「格下への屈服」とも映る。ただ、開示資料と各社の数字を並べると、浮かび上がるのはもっと実務的な事情だ。

●目次

現金は動かず、株式を交換

 対価は全額が広汽の新株で、発行価格は1株5.75元。追加の現金支払いは原則として予定されていない。監査と資産評価は終わっておらず、取引価格はまだ決まっていない。

 完了後、一汽トヨタの株主は広汽(50%)とトヨタ側(トヨタ自動車45.77%、トヨタ自動車〈中国〉4.23%)になる。一汽股份は一汽トヨタ株を手放す代わりに、広汽の第2位株主となる。広汽の実質的な支配者は広州市の国有資産当局のまま変わらない。一汽トヨタは広汽の連結対象には入らず、持分法による投資利益として取り込まれる。

 なお本件は、当局の審査や株主総会の承認を経る必要があり、広汽自身も中止や延期のリスクを開示している。現時点ではあくまで「予案」の段階だ。

赤字の広汽が「稼ぐ合弁」を取り込む

 まず押さえておきたいのは、収益面で優位にあるのは広汽ではないという点だ。広汽は2025年通期で87億8400万元の純損失を計上し、2026年1〜6月も44億6700万元の赤字だった。一方の一汽トヨタは、未監査ながら2024年に47.1億元、2025年に42.3億元、2026年上期に10.1億元の純利益を出している。

 広汽は開示資料で、取引完了後は投資収益と純利益の改善に寄与すると説明している。言い換えれば、黒字の合弁資産を取り込んで業績の下支えにする、という狙いが読み取れる。

 では、なぜ相手が広汽だったのか。カギはEV・知能化の「開発の仕組み」にある。広汽トヨタの電動車「bZ」シリーズは、中国人技術者が企画から検証まで関わる体制で開発された。中国の自動車情報サービス大手ガスグーによれば、「bZ3X」の累計販売は10万台を超え、上位車種の「bZ7」はファーウェイのコックピットOSと駆動ユニット、Momentaの運転支援システムを採用する。対して一汽トヨタのbZは、グローバル基盤をベースにした車両が中心で、知能化の装備で現地の嗜好とずれが生じていたとの分析がある。

 一汽側にも事情がある。一汽集団の2025年の生産台数は331万台と、2020年の373万台から減り、新エネルギー車の比率は13.5%にとどまった。新エネ転換で先行する広汽に株主として関わることには、自社の改革を後押しする意味合いもあると業界では受け止められている。

 販売の数字にも差が出ている。2026年1〜8月の累計で、広汽トヨタは約44.7万台(前年同期比10%減)、一汽トヨタは約37.9万台(同26.6%減)だった。

「中央か地方かという『格』より、どちらが現地で通用する開発体制を持っているかが優先された取引と見ています。一汽にとっても、現金ではなく株式を受け取ることで、トヨタ合弁から生まれる利益を広汽株を通じて間接的に持ち続けられる。一方的な敗北という整理は実態に合いません」(自動車アナリスト・荻野博文氏)

背景にある国の再編方針

 今回の動きは、中国政府が進める国有自動車メーカー再編の延長線上にある。国務院国有資産監督管理委員会(SASAC)は2025年3月、中央企業の自動車会社を戦略的に再編する方針を打ち出した。ただ、その目玉とみられた東風汽車と長安汽車の統合構想は、同年中に頓挫している。

 2026年9月11日には、工業情報化部など9部門が「スマートコネクテッド新エネルギー車産業発展 第15次5カ年計画」を公表し、合法的なM&Aや地域をまたぐ統合を進める方針を明記した。広汽が売買停止に入ったのは、その3日後である。中国の経済誌・財新は、今回の取り組みが規制当局主導だと関係者の話として報じている。

 市場環境は厳しい。中国乗用車協会(CPCA)によると、2026年1〜5月の自動車業界の利益率は3.4%、完成車メーカーに限ると1.5%まで落ち込んだ。同協会の崔東樹事務局長は、20万元の車を売ってもメーカーの手元に残るのは3000元程度だと語っている。乗用車の国内小売販売も2026年1〜5月に前年同期比19.5%減と落ち込んだ。中国汽車流通協会の専門家である李顔偉氏の試算では、2023〜25年の値下げ競争で業界の売上高は4710億元目減りしたという。当局はたびたびメーカー幹部を呼び出して過度な値引きをけん制しているが、無金利ローンや装備の上乗せといった形で実質的な値下げは続いている。米コンサルティング会社のアリックスパートナーズは、EV専業メーカー30社のうち2030年までに採算が取れるのは7社にとどまるとの見通しを示した。

 ただし、政府が「何社まで減らす」といった具体的な数値目標を掲げているわけではない。グループ同士の大型合併が政治的な調整の難しさで行き詰まった経緯を踏まえれば、合弁事業という「部分」から資本を結び付けていく今回の手法は、抵抗の少ない現実的な選択肢と見ることもできる。

「東風・長安の件で、トップダウンの全面合併は地方政府の利害や人事の問題で進みにくいことがはっきりしました。事業単位で資産と株式を組み替える方式は、今後の国有企業再編のひとつの型になる可能性があります」(同)

トヨタにとっての意味:「双子車」の解消

 トヨタ側から見れば、最大の課題は南北の重複だ。両合弁はこれまで、ほぼ同じ基盤の車をそれぞれ別の名前で売ってきた。一汽の「カローラ」と広汽の「レビン」、「RAV4」と「ワイルドランダー」といった「双子車」が典型で、販売店は両社合わせて約1400店に及ぶ。市場が伸びていた時代には、地域と顧客を分け合う合理的な仕組みだった。

 だが2026年上期、トヨタの中国販売は69.5万台と前年同期比17%減った。この規模に対して、二重の開発・調達・販売網はさすがに重い。

 国営の経済日報は関係者の話として、トヨタ50%、広汽と一汽が各25%を出資する統合販売会社を設け、販売網を一本化する案が検討されていると報じた。これは会社側が正式に発表した内容ではないが、実現すれば1つの店舗で全車種を扱えるようになり、合弁同士が在庫を押し付け合う構図は解消に向かう。

 人事面ではすでに布石がある。2025年、トヨタの中国法人は初めて中国人を総経理に起用し、その後、広汽トヨタのトップが一汽トヨタのトップに就いた。トヨタの合弁の間では珍しい異動だ。

 制度面の背景も押さえておきたい。中国は2022年、乗用車分野で外資の出資比率上限と「合弁は2社まで」の制限を撤廃した。南北の二重体制は、制度で縛られていたというより、歴史的な経緯で続いてきた面が大きい。マツダは2021年、一汽マツダを長安マツダの完全子会社にする形で南北の合弁を一本化している。

「焦点は、広汽トヨタで成果が出た現地主導の開発体制を、北の工場や商品にどこまで広げられるかです。資本を一本化しただけでは、開発や調達の重複はすぐには消えません。生産拠点の役割分担を含め、数年単位の作業になるでしょう」(同)

残る課題と日本企業への示唆

 影響はトヨタ本体にとどまらない。南北それぞれに張り巡らされた部品の調達網が一本化に向かえば、取引の集約や価格交渉の見直しが起きる可能性がある。現時点で具体的な調達方針は公表されていないが、両合弁に部品を納める日系サプライヤーは、無関係ではいられないだろう。

 同じ構造を抱えるのはトヨタだけではない。ホンダも広汽ホンダと東風ホンダの2つの合弁で、車種の重なりを抱えている。今回の取引がうまく機能するかどうかは、他の外資合弁の今後を占う材料にもなる。

 一方で、課題も残る。第2位株主となる一汽が広汽の経営にどこまで関与するのか、意思決定が遅くならないかは未知数だ。取引自体も、審査次第で条件が変わる余地がある。

「調達の一本化は、規模のメリットを生む一方、どちらかの系列で取引を失うサプライヤーも出てきます。中国の現地メーカーと価格で競える体制をつくれるかどうかが、日系各社に問われることになります」(同)

 今回の再編は、トヨタが中国から手を引く兆しではない。むしろ、縮む既存市場で戦い続けるために、20年来の体制を組み替える動きと見るのが妥当だろう。

 南北トヨタは、成長期の中国市場では間違いなく機能した仕組みだった。うまくいった仕組みほど、畳む判断は難しい。前提が変わったときに、過去の成功体験とどう折り合いをつけるか。今回の取引は、中国事業を持つ日本企業すべてにとって、その問いを突きつけている。

(文=BUSINESS JOURNAL編集部、協力=荻野博文/自動車アナリスト)

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公開:2026.10.09 06:00