都心マンション中古価格が4カ月連続下落…金利上昇・円安鈍化・二極化する不動産市場

●この記事のポイント
東京カンテイによると、2026年8月の都心6区の中古マンション売り出し価格(70㎡換算)は1億8068万円で、4カ月連続の下落となった。背景には、日銀の政策金利1.25%への利上げ、米金利高による利回りの見劣り、年収倍率の限界がある。一方、都心3区の成約価格は前年比4.5%上昇しており、市場は全面安ではなく物件ごとの選別局面に入った。
「都心マンションもついに頭打ち」。最近、似たような見出しを何度も目にしてきた読者は多いだろう。今年2月分のデータでも都心6区の中古価格が前月比でわずかに下がり話題になったが、当時は「一時的な足踏み」との見方も根強かった。
ただ、今回は少し事情が違う。不動産調査会社の東京カンテイが9月24日に公表した8月の中古マンション売り出し価格(70㎡換算)は、千代田・中央・港・新宿・文京・渋谷の都心6区で前月比0.7%安の1億8068万円。5月から4カ月続けて下がった。東京23区全体も1億2677万円と3カ月連続のマイナスで、5月まで25カ月続いた最高値の更新は途切れている。
下げ幅そのものは小さい。それでも「いつもの調整」と片づけにくいのは、これまで価格を押し上げてきた3つの条件――低金利、円安を背景にした海外マネー、そして共働き高収入世帯(パワーカップル)の購買力――が、そろって効きにくくなっているからだ。
●目次
- 金利は31年ぶりの水準、しかも利上げのペースが加速
- 円安は続いているが、利回りが見劣りする
- 価格がパワーカップルの「年収の物差し」を超えた
- 「全面安」ではない データに表れた二極化
- 売り手と買い手の力関係はどう変わったか
- これからどう向き合うか
金利は31年ぶりの水準、しかも利上げのペースが加速
日本銀行は9月17〜18日の金融政策決定会合で、政策金利を1.0%から1.25%へ引き上げた。6月以来わずか3カ月での追加利上げで、約31年ぶりの水準になる。これまでおおむね半年に1度だったペースと比べると明らかに速い。民間のエコノミストの間では、12月にもう一段の利上げを見込む予測も出ている。
住宅ローンの借り手の多くは変動金利を選んでいる。政策金利が動けば、時間差を置いて返済額に跳ね返る。固定金利のフラット35も9月時点で年3.46%と、数年前とは水準がまるで違う。
「金利が上がると、銀行が審査で使う金利も上がるので、同じ年収でも借りられる上限が下がります。購入を検討する人の関心が『いくらまで借りられるか』から『この先も返し続けられるか』に移ってきた。この変化は小さくありません」(住宅ローンに詳しいファイナンシャルプランナーの田中真一氏)
円安は続いているが、利回りが見劣りする
意外に思われるかもしれないが、円安は終わっていない。ドル円相場は9月末時点で1ドル=157円前後と、円安水準のままだ。
それでも追い風が弱まったとみられるのは、比べる相手である海外の金利が高いからだ。米10年国債利回りは9月下旬に一時5.29%と、2007年以来の高さをつけた。一方、東京都心の賃貸マンションの利回りは、築浅なら3%台が目安とされる。借り入れを使う投資家にとって、為替の割安感だけでは埋めにくい差である。
制度面でも変化がある。政府は2026年度から、不動産登記の際に国籍の申告を求める仕組みを導入する方針を示している。取得そのものを禁じるものではないが、いずれ売却して利益を確定させたい海外投資家にとっては、今後のルールの行方を見極める材料が増えた。
もっとも、海外勢の住宅売買を月次で追える公的統計は限られている。「海外マネーが一斉に引いた」と言い切れるデータは、現時点では見当たらない。正確には、「新たに買い上がる理由が乏しくなった」段階と見るのが妥当だろう。
「海外の機関投資家は、為替だけでなく金利差や売却時の流動性をセットで見ます。米国債で5%前後が取れる局面で、利回り3%台の住宅を借り入れで買う合理性は薄い。円安だけを理由に買い増す局面ではなくなっています」(不動産アナリストの伊藤健吾氏)
価格がパワーカップルの「年収の物差し」を超えた
都心6区の中古マンション(70㎡換算)1億8068万円は、世帯年収2000万円の夫婦でも年収の9倍を超える。東京カンテイの集計では、2024年に東京都で供給された新築マンションの価格は平均年収の17.00倍と、全国で最も高かった。同社は資金計画の目安として「世帯年収の7倍」を基準にしており、都心の価格はそこから大きく離れている。
高収入の共働き世帯は確かに増えた。ただ、その層の上限に価格が張り付いてしまえば、次の買い手は現れにくい。実需の買い手はすでに外側へ動いている。首都圏(1都3県)の中古価格は8月も前月比0.8%上がって7606万円となり、さいたま市や千葉市などで需要が底堅いという。
「全面安」ではない データに表れた二極化
ここで押さえておきたいのは、都心のすべてが一様に下がっているわけではないという点だ。
東京カンテイのデータは「売り出し価格」、つまり売り主の希望価格である。実際に取引が成立した価格を集計する東日本不動産流通機構(レインズ)の8月データを見ると、東京都区部の中古マンション成約㎡単価は132.69万円で、前年同月比0.3%下落した。2020年4月以来、76カ月ぶりのマイナスだ。首都圏全体では成約件数が前年同月比10.5%減と5カ月連続で減り、在庫は6カ月続けて増えている。
一方、千代田・中央・港の都心3区に絞ると、8月の成約価格は1億4175万円で前年同月比4.5%上昇した(ダイヤモンド不動産研究所の集計)。ただし成約件数は154件と、前年より4割近く少ない。
売れる物件は高値のまま売れ、そうでない物件は売れ残る。平均値の動きの裏で起きているのは、こうした選別だ。
新築も構図は似ている。不動産経済研究所によると、7月の首都圏の新築マンション平均価格は1億6493万円で過去最高を更新した。23区内で大規模物件の販売が始まったことが押し上げ、初月契約率も好不調の目安とされる70%に迫る69.5%だった。立地や事業者のブランド、規模で選ばれる物件には、今も買い手がついている。
「いま起きているのは、『都心』という住所ではなく、物件ごとの実力が値段に反映される動きです。駅からの距離、管理の状態、修繕積立金の水準、建物の規模。上昇局面では見過ごされていた差が、買い手が慎重になったことで価格差として表に出てきています」(同)
売り手と買い手の力関係はどう変わったか
変化がはっきり出ているのは値下げの頻度だ。東京カンテイによれば、6月時点で都心部では価格を改定(値下げ)した物件が過半数を占めるまでになり、8月も流通戸数、価格改定の割合、値下げ率がそろって悪化方向に振れた。売り出し価格と成約価格の開き(いわゆる「ワニの口」)は都心3区で縮まりつつあるものの、なお5000万円前後ある。強気の価格を付けても、その通りには売れていないということだ。
一方で、賃料は底堅い。東京23区の分譲マンション賃料は8月に1㎡あたり5170円と、3カ月連続で上昇した。価格が下がり、賃料が上がれば、利回りは少しずつ改善する。急落というより、価格が収益力に見合う水準へゆっくり近づいていく――現時点のデータから読み取れるのは、そうした調整の姿である。
これからどう向き合うか
「下がり始めたから待つ」も「都心だから買う」も、判断としては単純すぎる。
投資目的であれば、表面利回りではなく、管理費や修繕積立金の上昇、借入金利の上昇まで織り込んだ実際の収支で物件を見直す必要がある。建築費の高騰を受けて、修繕積立金が引き上げられるマンションは少なくない。
自宅として探している人にとっては、交渉の余地が出てきたのは確かだ。売り出しから時間がたっている物件ほど、価格見直しの可能性は高い。ただ、値下がりしている物件には、それなりの理由がある場合も多い。長期修繕計画や積立金の残高、管理組合の議事録までは目を通しておきたい。
「金利が上がる局面では、物件価格だけでなく返済総額で比べてほしい。数百万円値引きしてもらえても、金利が0.5%上がれば返済総額ではすぐに相殺されてしまう。変動か固定かも含め、返済計画に余裕があるかどうかが一番の判断材料です」(同)
都心マンション市場が崩れ始めたわけではない。ただ、低金利と円安、高収入世帯の購買力という追い風に乗って「何を買っても上がる」時期は、終わりに近づいている。この先は、立地や管理、建物の質といった不動産本来の物差しで値段が決まる局面に入っていくはずだ。
(文=BUSINESS JOURNAL編集部、協力=伊藤健吾/不動産アナリスト)
【主な参照データ・出典】
東京カンテイ「三大都市圏・主要都市別/中古マンション70㎡価格月別推移」2026年6〜8月(2026年7月23日、8月24日、9月24日公表)、同「分譲マンション賃料月別推移」2026年8月
東日本不動産流通機構「月例速報 Market Watch サマリーレポート」2026年8月度(2026年9月10日公表)
不動産経済研究所「首都圏 新築分譲マンション市場動向」2026年7月(2026年8月20日公表)
日本銀行 金融政策決定会合(2026年9月17〜18日)関連報道、第一ライフ資産運用経済研究所レポート
東京カンテイ「新築・中古マンション価格の年収倍率 2024」(2025年12月8日公表)
ダイヤモンド不動産研究所「2026年8月の東京都の中古マンション価格」
法務省・政府発表(不動産登記における国籍把握、2025年12月16日)関連報道











