東京港・大井コンテナふ頭再編の全体像…船の大型化、2024年問題、脱炭素を止めずに解く

●この記事のポイント
東京港のコンテナ貨物の約半数を扱う大井コンテナふ頭について、2028年度着手をめざす再編整備を解説する。水深15〜16m・8バース化の計画、欧州直航便の日本抜港、CONPAS予約制によるゲート処理時間の短縮、FC換装型RTGなどの脱炭素策を取り上げ、名古屋港へのサイバー攻撃を踏まえたリスクと2030年代の展望も整理した。
東京港の大井コンテナふ頭が、およそ20年ぶりの大がかりな作り直しに向けて動き出している。東京都は2024年3月、ふ頭を管理する東京港埠頭と、借受者である日本郵船、商船三井、川崎汽船、台湾のワンハイラインズの計5社と、再編整備の具体的な検討に入ることで合意した。大井は東京港のコンテナ貨物の約半数を扱う主力ターミナルである。
岸壁を深く、長くするだけの工事ではない。欧米と日本を結ぶ直航便をどうつなぎとめるか。ゲート前で待たされるトレーラーをどう減らすか。荷役機械の脱炭素をどう進めるか。物流の現場が抱えてきた課題が、ひとつの工事計画に重なっている。
●目次
- 何が決まっていて、何がまだ決まっていないのか
- なぜ今か――「寄ってもらえる港」であり続けるために
- ゲート前の滞留をどう減らすか
- 脱炭素は「選ばれる条件」になりつつある
- 課題――電力、サイバー、そして「止めずに造る」
- タイムラインと、その先の東京港
何が決まっていて、何がまだ決まっていないのか
まず事実関係を整理しておきたい。都の発表によれば、中央防波堤外側で整備中の新ターミナル「Y3」をいったん工事用の“種地”として使い、大井のターミナルを順番に入れ替えながら再編を進める。当初示された目途は「2027年度末までにY3の整備を完了、2028年度に大井の再編に着手、2030年代半ばから後半に完了」。具体的な工程は関係者の協議で決めるとしており、現時点で確定した工程表はない。2026年5月の業界紙報道では、Y3の供用開始は2028年度の予定とされている。
施設規模の手がかりは、2023年度に策定された「東京港第9次改訂港湾計画」だ。現在の大井は連続7バース、岸壁延長2,354m、水深15m。計画ではこれを8バース、延長2,754m、水深15〜16mへ拡充する姿が描かれている。水深を一気に18m級まで掘り下げる計画ではない点は押さえておきたい。
実は、大井の大改修は今回が初めてではない。1996年度から2004年1月にかけて、8バースを7バースに組み替え、水深を13mから15mに深くした。このときも常時6バースを稼働させたまま工事を進めている。今回はそれを、より大きな船と、より貨物の多い港で繰り返すことになる。
なぜ今か――「寄ってもらえる港」であり続けるために
東京港の2025年のコンテナ取扱個数(外内貿合計、速報値)は486万TEUで、前年から3.3%増えた。国内の港湾では首位である。数字だけを見れば堅調だ。
ただ、世界の中での立ち位置は変わってきた。経団連の提言資料によると、東京港のコンテナ取扱量の世界順位は1990年の13位から2022年には46位まで下がっている。日本政策投資銀行のレポートが引く国土交通省の集計では、京浜港と阪神港への基幹航路(北米・欧州航路)の寄港回数は、2021年に2010年比で半減した。
背景にあるのが船の大型化だ。基幹航路では、水深16mの岸壁を必要とする8,000TEU級以上の船の割合が増えている。現在の大井に着岸しているのは1万TEU級。世界最大級の船は2万4,000TEUを超える。
2025年12月には象徴的な発表があった。ONE(オーシャン・ネットワーク・エクスプレス)などで構成するプレミア・アライアンスが、2026年度の航路体制で、欧州・日本・北米西岸を結んでいた振り子配船「FP1」を分離し、北欧州向けは日本への母船寄港をやめて釜山での積み替えで対応すると公表したのだ。各社は定時性の確保を最も重視したと説明している。遅延が常態化した長大航路の立て直しという事情があり、特定の港や企業の評価に単純に結びつけられる話ではない。それでも荷主から見れば、欧州向け貨物のリードタイムと積み替えに伴うリスクは確実に増える。
「岸壁を深くしただけで船が戻ってくるわけではありません。船社が寄港地を選ぶときに見ているのは、まとまった貨物量があるか、荷役のスピードが読めるか、総コストに見合うか、です。水深はその前提条件にすぎない。大井の再編が意味を持つのは、ターミナルの生産性まで一体で引き上げられた場合でしょう」(物流コンサルタント・斎藤直樹氏)
首都圏約3,700万人の消費地を背後に抱えることは、東京港ならではの強みだ。輸入貨物の比重が大きいこの港にとって、船が「寄る理由」を保ち続けられるかどうかが、再編の最初の問いになる。
ゲート前の滞留をどう減らすか
大井ふ頭の周辺では、ターミナルへの搬出入を待つトレーラーの滞留が長年の課題とされてきた。2024年4月にトラック運転者の時間外労働の上限規制が適用されて以降、待機時間は単なる不便ではなく、輸送力そのものを削る問題になっている。
対策の柱が、コンテナ搬出入予約システム「CONPAS」だ。東京港では2022年度から試験運用を重ね、2025年8月に大井1・2号ターミナルで常時運用に移行。2026年1月からは大井3・4号でも常時運用が始まった。試験運用では、搬出時のゲート処理時間が約2割、搬入時は推計で約6割短くなったとされる。到着時刻が平準化され、ヤード側が荷役の準備を前もって進められるようになったことが効いた。
再編では、これをターミナル単位の改善にとどめず、AIなど先端技術の活用、荷役機械の遠隔操作化、複数ターミナルの一体利用まで進める方針が港湾計画に盛り込まれている。隣の青海ふ頭では、ヤード拡張とあわせて遠隔操作のタイヤ式トランスファークレーン(RTG)を導入し、荷役方式を切り替えた。
「予約制は確かに効果が出ています。ただ、ターミナルの中だけで完結する話ではありません。荷主の出荷時刻、倉庫の受け入れ枠、ドレージ会社の配車がかみ合わなければ、予約枠が空いていても使えない。港のDXが成果を出せるかは、データを荷主の側まで通せるかにかかっています」(同)
脱炭素は「選ばれる条件」になりつつある
環境対応も再編の柱の一つだ。都は「東京港カーボンニュートラルポート(CNP)形成計画」で、2030年に温室効果ガスを2000年比で半減、2050年に実質ゼロとする目標を掲げた。2024年4月には東京港の全コンテナふ頭に再生可能エネルギー由来の電力を導入している。港内に約140台あるRTGは、すべて水素燃料電池(FC)に換装できる型などへ切り替える方針で、接岸中の船に陸から電気を送る陸上電力供給設備の整備にも取り組むとしている。
民間の動きもある。日本郵船とユニエツクスNCTは2022年、大井の東京コンテナ・ターミナルで、将来FCに換装できる新型RTG4基の稼働を始めた。2023年11月には、ターミナルの脱炭素の取り組みを評価する国のCNP認証制度の試行が、大井でも始まった。
荷主企業が取引先を含むサプライチェーン全体の排出量の把握と開示を求められるなかで、港の排出削減は「あれば望ましいもの」から、港や航路を選ぶ際の確認項目へと位置づけが変わりつつある。
課題――電力、サイバー、そして「止めずに造る」
期待ばかりではない。課題は少なくとも三つある。
一つ目はエネルギーの確保だ。荷役機械の電動化やFC化が進めば、港湾エリアの電力・水素の需要は大きく膨らむ。CNP形成計画は、東京港の2050年時点の水素需要を年約1.3万トンと推計し、電力がひっ迫したときに備えて水素などを使う自立分散型の発電設備を整える方針を示している。国交省も水素を燃料とする荷役機械の導入ガイドラインづくりを進めているが、供給網と調達価格の見通しはまだ固まっていない。
二つ目はサイバーリスクである。2023年7月、名古屋港のターミナルシステムがランサムウェア攻撃を受け、約3日間にわたってコンテナの搬出入が止まった。自動化や遠隔操作、ターミナル間の一体運用が進むほど、システムが止まったときの影響範囲は広がる。
「自動化ターミナルは、情報システムと現場の機械制御がつながる分、攻撃を受けたときの止まり方が深刻になります。ネットワークをどう区切るか、バックアップから何時間で戻すか、手作業に切り替える手順をどう訓練しておくか。これを後付けではなく、再編の仕様の段階で組み込めるかが分かれ目です」(ITジャーナリスト・小平貴裕氏)
三つ目が、貨物を止めずに造ることの難しさだ。大井は東京港の貨物の半分近くを担っている。Y3を仮の受け皿にして順に入れ替える段取りは、Y3の完成時期がずれれば全体がずれる構造でもある。当初「2027年度末までに整備完了」とされたY3は、2028年度の供用予定と報じられている。
加えて、荷役の自動化は港で働く人の雇用や働き方にも関わる。2026年10月には国交省と日本港運協会が自動荷役機械の導入指針を策定し、関係者との協議を重視する姿勢を示した。技術を入れるだけでは進まない、という認識の表れと読める。
タイムラインと、その先の東京港
公表情報をもとに、主な節目を並べておく。
2024年3月:都と東京港埠頭・借受者4社が再編整備の検討で合意
2025年8月〜:大井でCONPASの常時運用を順次開始
2028年度:Y3供用予定、大井の再編に着手(目途)
2030年代半ば〜後半:大井の再編完了(目途)
都は2030年代半ばの外内貿コンテナ取扱量を650万TEUと見込んでいる。2025年の実績から3割強の増加にあたる。
再編が目指すのは、大型船が無理なく着岸し、トレーラーが予約した時刻にゲートを通り、荷役機械が再エネや水素で動くターミナルだ。ただ、それは工事が終われば自然に手に入る姿ではない。船社の航路判断、荷主の出荷のしかた、港で働く人たちの合意、電力と水素の供給。どれか一つが欠けても、新しい岸壁は力を出し切れない。
港の改修は完成までに10年単位の時間がかかり、その成果も物流コストやリードタイムの安定といった、目立たない形でしか表に出てこない。だからこそ、港を使う企業の側も「港湾当局の事業」として遠目に眺めるのではなく、自社のサプライチェーンの前提条件として、節目ごとに中身を確かめておく価値がある。
(文=BUSINESS JOURNAL編集部、協力=斎藤直樹/物流コンサルタント)
【主な参照データ・出典】
東京都「大井コンテナふ頭の再編整備について、検討を進めていきます」(2024年3月27日)
東京都港湾局「東京港第9次改訂港湾計画 概要版」
東京都「令和7年(2025年)東京港港勢(速報値)」
海事プレス「キーマンに聞く東京港の港湾運営① 東京都港湾局・田中彰局長」(2026年5月13日)
経団連「2030年に向けた物流のあり方」(2025年10月)/日本政策投資銀行レポート(2024年5月)
日本海事新聞「ONE、26年度サービス体制」(2025年12月)











