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資本金500万円から3000万円へ…外国人経営の飲食店を揺らす制度改正と2年間の猶予

2026.11.04 06:00 2026.11.03 19:21 経済
文=BUSINESS JOURNAL編集部、協力=成瀬愛/行政書士・ファイナンシャルプランナー

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●この記事のポイント
2025年10月に在留資格「経営・管理」が改正され、資本金要件は500万円から3000万円に上がり、常勤職員の雇用と日本語能力も必須になった。2025年の飲食店倒産は過去最多の900件。全国4000〜5000店とされるインド・ネパール料理店は、2028年10月までの経過措置の間にどう立て直すのか。多言語POSや共同仕入れなど、テクノロジーの役割を探る。

 駅前のインド・ネパール料理店が、いつの間にかシャッターを下ろしている。そんな話を耳にする機会が増えた。物価高だけが理由ではない。2025年10月16日、外国人が日本で会社を経営するための在留資格「経営・管理」の許可基準が改正され、資本金等の要件が500万円から3000万円以上へと6倍に引き上げられたからだ。

 飲食業全体の風向きも厳しい。帝国データバンクによると、2025年の飲食店の倒産(負債1,000万円以上、法的整理)は900件で、3年連続の増加となり過去最多を更新した。2026年上半期も473件と、前年同期の458件を上回っている。

 外国人経営者への影響は数字にも表れ始めた。東京商工リサーチが2026年3〜4月に外国人経営者299社を対象に行った調査では、45.2%が改正で「何らかの影響を受ける」と答え、5.3%が「廃業を検討する」と回答した。同社の集計では、小規模なカレー店などを含む「その他の専門料理店」の2025年度の倒産は91件と、過去30年で最多だった。

 全国に4000〜5000店あるとされるインド・ネパール料理店(公的統計はなく、専門家や報道による推計値)は、その多くをネパール出身の経営者が支えている。街の食の多様性は、いま岐路にある。

●目次

営業実態があっても先行きが揺らぐ「3つの壁」

① 制度の変更:資本金だけではない

 改正の柱は資本金だけではない。従来は資本金500万円以上か、常勤職員2人以上の雇用のどちらかを満たせばよかった。出入国在留管理庁によれば、新基準では、(1)日本人や永住者などの常勤職員1人以上の雇用、(2)3000万円以上の資本金等、(3)申請者か常勤職員の日本語能力(B2相当。JLPT N2以上など)、(4)経営経験3年以上または修士等の学位、(5)中小企業診断士・公認会計士・税理士による事業計画の確認――がすべて求められる。自宅と事業所の兼用も原則認められない。

 更新時には、労働保険・社会保険の加入と納付、国税・地方税の納付状況も確認される。制度変更の狙いは、実態のない会社を使った在留への対策だ。ただ、その網は、日々料理を出している小さな店にもかかる。

 ここで誤解してはならない点がある。既存の在留者には経過措置がある。入管庁はQ&Aで、施行から3年後の2028年10月16日までは、新基準に満たないこと「のみをもって」不許可にはしないと明記している。その後も、経営状況が良好で納税も適切なら、基準を満たす見込みなどを総合的に判断するという。「2028年までに3000万円を用意できなければ帰国」という話についても、同庁は「事実ではありません」と答えている。

 それでも、経営者の心理は別だ。一度は助かっても、基準を満たす「見込み」を示す必要は残る。新規参入への影響はもっと直接的だ。TBSの報道(2026年5月)によれば、改正後の新規申請は改正前と比べて約96%減った。

「相談で多いのは、『3年後に強制的に帰国させられるのか』という不安です。実際には総合判断なので、まずは社会保険や税をきちんと納め、帳簿を整えることが出発点になります。ただ、その事務を日本語でこなすこと自体が、多くの店主にとって重い負担です」(行政書士・ファイナンシャルプランナーの成瀬愛氏)

② 言語と情報の壁

 制度の細部、補助金の公募、税や保険の手続き。いずれも日本語で届くのが基本だ。同郷の知人やSNSで又聞きした情報に頼ると、前述の「帰国しなければならない」のような誤解も広がりやすい。情報格差は、そのまま経営判断の差になる。

③ 薄利多売の限界

「ナンおかわり自由」のランチは、安さと量で常連をつかんできた。だが、小麦や食用油、輸入スパイス、光熱費が上がる局面では、この価格設計が重荷になる。帝国データバンクも、25年の倒産増の背景に食材・光熱費の高騰と賃上げを挙げている。常勤職員の雇用義務は、ここに人件費を上乗せする。

生き残りの第一歩…「言語と人手」を補う現場テック

 先に断っておくと、テクノロジーが3000万円の資本金を生むわけではない。効くのは「経営の中身を整え、それを証明する」部分だ。更新審査で問われるのも、経営状況、納税、保険加入という「記録で示せるもの」だ。

 多言語モバイルオーダーとセルフ会計。客が卓上のQRコードから注文し、厨房側は母国語で内容を確認できる。注文の聞き間違いが減り、ホール担当の負担も軽くなる。少人数で回す小さな店ほど効果は大きい。

 クラウドPOSと会計の連携。売上や仕入れを日々データで残し、会計ソフトとつなぐ。確定申告や決算書類の準備が楽になるだけでなく、税理士など専門家に事業計画を確認してもらう際の「根拠の数字」にもなる。納税や社会保険の支払い履歴を整理しておけば、更新書類をそろえる手間も減る。

 地図アプリとSNSの運用。2025年の訪日外客数は4,268万人と過去最高だった(日本政府観光局)。地図アプリ上の店舗情報を整え、レビューに複数言語で返信する。地味だが、広告費をかけずに新しい客層に届く手段だ。料理の由来やスパイスの説明を添えれば、「安いから行く店」から「理由があって選ばれる店」への転換にもつながる。

「ツールを入れること自体が目的になってしまうと、月額の利用料だけが残ります。先に『どの作業に何時間取られているか』を洗い出す。小さな店では、会計と注文の2つを押さえるだけでも、店主が経営を考える時間が生まれます」(中小企業診断士の村上達哉氏)

次世代テックが拓く「分散型の食エコシステム」

 ここからは展望だ。衛星通信や自動運転、ロボティクスの分野で進む「デジタルとフィジカルの融合」は、いずれ小さな飲食店の形も変えうる。ただし、どれも初期投資や法規制の課題を抱えており、個人店がすぐに単独で導入できる段階にはない。

 調理自動化とシェアキッチン。スパイスの配合や加熱の工程を機器に任せれば、職人の勘に頼る部分を減らせる。厨房を複数の事業者で共有し、デリバリー中心に運営する形も考えられる。家賃と人件費を抑えつつ、味の再現性を保つ発想だ。

 共同仕入れと需給マッチング。低軌道衛星通信のような新しいインフラも広がりつつあり、地方の店や複数拠点で在庫情報を共有する環境は整ってきている。同業の店どうしでスパイスや米、油をまとめて仕入れれば、単独では得られない価格交渉力が生まれる。既存の同郷ネットワークを「購買組合」に変えるようなものだ。

 固定店舗から移動型へ。需要予測に基づいて出店場所を変えるキッチンカーは、既に実現可能な選択肢だ。自動運転との組み合わせはまだ先の話だが、「家賃に縛られない飲食」という方向性自体は現実味を帯びている。ただし、経営・管理の新基準では「規模に応じた事業所の確保」が求められる。展開には、在留資格との整合を専門家と確認する必要がある。

「調理ロボットやシェアキッチンは、単店で買うものではなく、複数店で使い回すものと考えたほうが現実的です。技術よりも、共同利用のルールを誰が設計し、誰が責任を持つかが普及の分かれ目になるでしょう」(外食産業コンサルタントの杉田誠氏)

他業種の経営者が読み取るべきこと

 制度は変わる前提で設計する。TBSが「10月中旬ごろの施行を目指す」と報じたのは2025年8月26日。実際の施行はその約7週間後だった。特定の制度や一人のキーパーソンに依存する事業は、前提が崩れたときの逃げ道がない。東京商工リサーチの調査で「事業売却・合併を検討」が11.7%、「経営権を日本人や永住資格者へ移譲」が6.3%あったことは、自社単独にこだわらない選択肢を探る動きとも読める。

「黒子」になることも市場になる。多言語の会計支援、在留手続きと連動した書類管理、共同仕入れ、事業承継の仲介。外国人経営の店を「淘汰される側」として見るのではなく、支える側に回ると、そこにB2Bの需要が見えてくる。制度が求める「実態ある経営」を裏方として支える仕組みは、制度の趣旨とも矛盾しない。

「不正対策という目的には合理性がある。その一方で、地域に根づいた小規模事業者への影響をどう把握し、どう支えるかは別の問題として議論すべきです。経過措置の3年間は、行政と民間の双方にとってその検証期間でもあります」(成瀬氏)

多様な食文化が共存する街へ

 街のあちこちにある小さな異国料理店は、勤め人の昼食を支え、商店街の灯りを保ってきた。その役割は統計には現れにくい。

 制度のハードルが上がったいま、問われているのは「実態のある経営を、どう証明し、どう続けるか」だ。テクノロジーは人を減らすためだけの道具ではない。異なる文化を背負った担い手が、日本の制度の中で挑戦を続けられる足場にもなる。経過措置が終わる2028年10月までの時間をどう使うか。それは店主だけでなく、周りにいる私たちにも問われている。

(文=BUSINESS JOURNAL編集部、協力=成瀬愛/行政書士・ファイナンシャルプランナー)

【主な参照データ・出典】
出入国在留管理庁「在留資格「経営・管理」に係る上陸基準省令等の改正について」(2026年6月26日更新)
東京商工リサーチ TSRデータインサイト「「在留資格の厳格化」 企業の5%が廃業検討」(2026年4月23日)
帝国データバンク「「飲食店」の倒産動向(2025年)」(2026年1月13日)、同「(2026年上半期)」(2026年7月22日)
日本政府観光局(JNTO)「訪日外客数(2025年12月推計値)」(2026年1月21日)
TBS NEWS DIG「在留資格「経営・管理」の許可基準厳格化 新規申請…」(2026年5月8日)、同「外国人在留資格「経営・管理」厳格化へ」(2025年8月26日)

BusinessJournal編集部

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公開:2026.11.04 06:00