日立・東京ガスら4社、電源併設型データセンター構想…AI時代の電力制約に異業種連合はどう挑むか

●この記事のポイント
日立製作所、東京ガス、Brookfield Japan、Hartree Partnersの4社は、2026年10月に「電源併設型グリーンデータセンター」の協業を発表した。敷地内の発電設備に蓄電池と系統電力を組み合わせ、安定稼働と脱炭素の両立をめざす。初号案件は関東と九州で検討する。IEAと広域機関(OCCTO)のデータをもとに、AI時代の電力制約と協業の狙い・課題を読み解く。
AIの普及で、データセンター(DC)の電力需要が膨らんでいる。国際エネルギー機関(IEA)によれば、世界のDCが2024年に消費した電力は約415TWhで、世界の電力消費の約1.5%。2030年には約945TWhと倍以上になる見通しだ。この945TWhは、日本の現在の年間電力消費をわずかに上回る量だという。
DCは止められない設備だ。一方で、利用企業からは脱炭素も強く求められる。安定と脱炭素を両立できる電源を、どう確保するか。
この問いに対し10月19日、日立製作所と東京ガス、Brookfield Japan、Hartree Partnersのシンガポール法人の4社が協業を発表した。テーマは「電源併設型グリーンデータセンター」。発電設備を後から探すのではなく、DCとセットで用意するという発想である。狙いはどこにあり、何が難しいのか。発表内容と公的データをもとに整理する。
●目次
壁は電力の「量」より「時間」
国内も例外ではない。電力広域的運営推進機関(OCCTO)が2026年1月に公表した需要想定では、主要7エリアでDCや半導体工場の新増設に伴う需要電力量が、2026年度の6,700GWhから2035年度には56,800GWhと約8.5倍に膨らむ。うちDCが49,400GWhを占める。全国の需要電力量は2035年度で約846TWh、2025年度推計の約803TWhから約5%の増加にとどまる。全体の伸びは穏やかに見えるが、DCの新増設需要(約49TWh)だけで全国の増加幅(約43TWh)を上回る規模だ。人口減少や省エネで減る需要を、DCが押し返す構図といえる。
ただ、現場で重いのは量よりも時間のほうだ。10月19日の発表資料も、都市圏を中心にDC建設が急増し、電力系統の制約から電源確保までの期間が長引いていると指摘している。建物は建っても、電気が来るのを待つ。そうした順番待ちが事業計画そのものを左右しはじめている。
脱炭素も簡単ではない。太陽光や風力は天候と時間帯で出力が変わる。昼夜を問わずほぼ一定の電力を使うDCとは、そのままでは噛み合わない。蓄電池で埋めるにしても、長時間分を備えればコストは重くなる。政府も、総務省と経済産業省が2025年3月に「ワット・ビット連携官民懇談会」を立ち上げ、電力と通信のインフラを一体で捉えたDCの地方分散を議論している。
「DC計画を縛るのは、土地や建物よりも『いつ電気が来るか』になりつつある。系統増強を待つ以外に手がなければ、計画はその分だけ後ろにずれる。自前の電源を持つことは、その待ち時間を縮める現実的な選択肢の一つだ」(エネルギー政策研究家・佐伯俊也氏)
なぜこの4社なのか
今回の協業は、ゼロからの組成ではない。2025年7月に日立、ブルックフィールド、ハートリーの3社が始めた協業に、東京ガスが加わった形だ。覚書の締結は2026年9月30日。各社の担う部分は、発表資料では次のように整理されている。
日立製作所:冷却・発電設備の設計、関連機器と保守。Lumadaを活用したエンジニアリングと、DC運用支援の「HMAX Data Center」
Brookfield Japan:グループとして世界150超のDC(運用容量約2GW)、約47GWの再エネ発電設備を保有・運営
Hartree Partners:蓄電所を含む再エネ開発と、エネルギーのコモディティ取引
東京ガス:ソリューションブランド「IGNITURE」のもと、オンサイト電源の設計・開発・運用とエネルギー供給。グループの東京ガスエンジニアリングソリューションズ(TGES)は、系統電力とガスコージェネレーション(ガスで発電し、排熱も活用する設備)を組み合わせる「電源ハイブリッド型DCソリューション」を展開している
並べると、DCを動かすのに要る要素がきれいに分かれている。設備とデジタルは日立、資金とDC運営はブルックフィールド、電源開発と調達はハートリー。東京ガスの加入で厚みが増すのは、日本国内で発電設備を敷地に置き、燃料を届け、長期にわたって運転するという現場の実務だ。資本力や機器の技術だけではカバーしにくい領域であり、国内のエネルギー事業者が加わる意味はここにある。
東京ガスの上中孝之常務執行役員は、系統電力にオンサイト電源、蓄電池、再エネを組み合わせ、早期の立ち上げと安定稼働、脱炭素の同時実現をめざすと発表で述べている。日立の細矢良智執行役常務も、DCの競争力は電力の確保と運用の在り方に大きく左右されるとの認識を示した。
「異業種連携がうまくいかないのは、役割が重なるところで主導権争いが起きるときです。今回は担当がはっきり分かれており、構想段階としては理にかなっています。ただ、事業化に進めば、燃料価格や停電のリスクを最終的に誰が負うのかを詰めることになるでしょう」(戦略コンサルタント・高野輝氏)
「再エネだけ」に頼らない設計
では、何をつくろうとしているのか。4社が掲げる標準モデルの検討項目は4つある。
1.敷地内の発電設備をベース電源とし、蓄電池や系統電力を組み合わせる
2.冷却や配電を含め、インフラ全体を冗長化する
3.カーボンクレジット、環境価値、再エネの活用を含めて脱炭素の要件を定める
4.建屋、設備、オンサイト発電をパッケージ化・モジュール化し、立ち上げを早める
ここで注意したいのは、「再エネ100%で安定稼働」をうたっているわけではない点だ。安定の土台は敷地内の発電設備と蓄電池、系統の組み合わせでつくり、脱炭素は再エネや環境価値で上乗せする。安定と脱炭素を一つの電源で同時に満たそうとせず、役割を分けて解く設計だ。日本の系統事情を踏まえた、地に足のついた判断といえる。
裏を返せば、「グリーン」の中身が問われる。オンサイト電源がガス火力であれば、それ自体はCO2を出す。クレジットや非化石証書(再エネなど非化石電源の環境価値を証書にしたもの)でどこまで補うのか、利用企業が自社の脱炭素目標と照らして納得できる水準にできるか。3つ目の「要件の定義」は地味に見えて、この構想の信頼性を左右する項目だ。都市ガスそのものの脱炭素化(合成メタンなど)が将来進めば、同じ設備のまま排出を減らせる余地もあるが、現時点では今回の構想に組み込まれたとは発表されていない。
佐伯氏は、2つ目の項目に注目する。
「DCの可用性は電源だけでは決まらない。冷却が止まれば、サーバーは長くは動かせない。電源と冷却を一体で冗長化するという方針は、運用の現場感覚に合っている。標準化は工期短縮に効くが、立地ごとに異なる系統条件や燃料インフラをどこまで吸収できるかが問われる」
電源を「買う」から「設計する」へ
初号案件の対象は関東と九州だ。デューデリジェンスから、エネルギーインフラを含む設備構成、事業スキームまでの開発計画をこれから策定する。今後はIT企業や製造業、金融機関にも参加を呼びかけるという。対象地の選定理由は明らかにされていないが、九州は太陽光の出力制御が繰り返し実施されてきた地域であり、電源のある場所に需要を寄せる政策の方向性とも重なる。つまり現時点は覚書に基づく構想段階であり、投資額や稼働時期、電力コストは示されていない。
それでも、他業界の読者にとって参考になる点は少なくない。
ひとつは、電源を「調達するもの」から「事業と一緒に設計するもの」へと捉え直している点だ。大口の電力を使う施設では、立地も工期も、電力の当てがつくかで決まる局面が増えている。OCCTOの想定がDCと並んで半導体工場を挙げているように、この課題はDCに限らない。今回の標準モデルが形になれば、工場や物流拠点などへの応用も検討に値するだろう。
もうひとつは、役割分担を前提にした座組みだ。自社にない機能を自前で揃えるのではなく、「そこを本業にする相手」と組む。新事業やGXの担当者なら、自社の案件でも「どの要素を自分たちが持ち、どこを外に任せるか」を先に書き出してみる価値はある。
脱炭素をめぐる収益性について、高野氏は冷静に見ている。
「電力の確実性と環境価値をセットで示せれば、利用企業が選ぶ理由にはなる。ただし、その差にどこまで対価が支払われるかは、市場がまだ答えを出していない。結局は初号案件の契約条件が証明することになる」
構想から実装へ
AIの普及は、データの問題を電力の問題に変えつつある。系統を待つだけでは間に合わず、再エネだけでは安定が守れない。その隙間を、設備、資本、電源開発、現場の運転という異なる強みを寄せて埋めようというのが、今回の4社の試みだ。
標準モデルが本当に「早く、止まらず、脱炭素できる」DCを生むのか。その答えは、関東と九州の初号案件で少しずつ見えてくる。日本の電力制約のもとで、異業種の連携がどこまで実用に耐える仕組みをつくれるか。電力の制約を「待つ」のではなく「設計で越える」という発想は、業種を問わず応用が利く。4社の挑戦が実装までたどり着くか、期待を込めて見守りたい。
(文=BUSINESS JOURNAL編集部、協力=佐伯俊也/エネルギー政策研究家)
【主な参照データ・出典】
東京ガス プレスリリース(2026年10月19日)「AI需要を支える電源併設型グリーンデータセンター実現に向けた協業を開始」(同内容の日立発表PDF)
IEA「Energy and AI」Executive summary
広域機関の需要想定(2026年1月公表)に関するenehub記事(入稿時はOCCTOの原資料で数値を再確認推奨)











