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CATL、純利益3割増と株価1割安が同じ週に…「世界シェア4割」の電池メーカーの強さと限界

2026.10.26 06:00 2026.10.26 00:43 企業
文=BUSINESS JOURNAL編集部、協力=高野輝/戦略コンサルタント

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●この記事のポイント
中国の車載電池最大手CATLは2026年1〜9月期に純利益645億元(前年同期比31.6%増)を計上した。一方で7〜9月期は14.5%増に減速し、株価も急落している。本稿は、世界経済フォーラム(WEF)の先進工場認定4件の製造力、年221億元の研究開発、蓄電池の世界シェア30.4%から強さと課題を検証し、日本の製造業への示唆を探る。

 車載電池世界最大手の中国・寧徳時代新能源科技(CATL)が10月20日に発表した2026年1〜9月期決算は、純利益が前年同期比31.6%増の645億元だった。一方で7〜9月期単体の増益率は14.5%にとどまり、翌日の香港市場で株価は1割超下げた。好決算と市場の警戒が同居するこの数字から、同社の競争力の源泉と、その限界を冷静に読み解く。

●目次

「好決算」と「株価急落」が同じ週に起きた理由

 まず数字を確認しておきたい。2026年1〜9月期の売上高は4421億元(前年同期比56.2%増)、株主帰属純利益は645億元(同31.6%増)。研究開発費も185億元と、前年同期から2割強増えた。

 ただし中身を分解すると、景色は少し変わる。7〜9月期単体では売上高が58.6%増えたのに対し、純利益は14.5%増。前四半期比では5.8%減だ。四半期の粗利益率は20.7%と、2四半期続けて低下した。決算翌日の10月21日、香港上場株は10.6%、深セン上場株は約12%下落している。

 背景にあるのは主に中国の税制変更だ。2026年4月に電池製品の輸出増値税還付率が9%から6%に下がり、2027年1月には廃止される予定だ。9月にはリチウムイオン電池への消費税(移行期の税率2%、2027年9月から4%)も課税が再開された。同社は単位当たり利益の低下要因として、製品構成とこの2つの税制を挙げている。米国では連邦のEV税額控除が2025年9月末に終了し、欧州は中国製EVへの相殺関税を維持している。外部環境は追い風とは言いがたい。

 それでも利益の絶対額は伸び、シェアも減っていない。韓国SNEリサーチによれば、1〜8月の世界EV向け電池搭載量でCATLは333GWh、シェア39.4%。前年同期の37.7%からさらに上げた。2位のBYD(15.1%)との差は2倍以上ある。

 こうした強さは「政府補助金」「安い人件費」「廉売」といった言葉で片付けられがちだ。いずれも全くの無関係とは言えない。だが、それだけでは、同じ国内条件で競う中国勢がひしめくなかでのシェア拡大も、品質に厳しい欧州自動車各社との取引も説明しきれない。本稿では、「製造の精度」と「稼いだ現金を次の技術へ回す速度」の2点から同社を見ていく。

利益の土台は「不良を出さない」こと

 電池工場の収益を左右するのは、人件費よりも歩留まりだ。正極材や電解液など材料費の比重が大きく、不良セルはそのまま材料の廃棄になる。車両に組み込んだ後に不具合が見つかれば、リコール費用と信用の毀損はその比ではない。

 CATLはこの点を経営の中心に置いてきた。同社はセルの安全関連の不良率を、100万分の1(PPM)水準から10億分の1(PPB)水準へ下げたと説明している。第三者検証を経た数値ではなく会社の自己開示だが、品質を「家業の看板」として掲げていること自体に意味がある。

 その裏付けの一つが、世界経済フォーラム(WEF)が先進的な工場を認定する「グローバル・ライトハウス・ネットワーク」だ。CATLは寧徳(2021年)、宜賓(2022年)、溧陽(2023年)の各拠点が認定を受け、2026年1月には宜賓が「サステナビリティ・ライトハウス」にも選ばれた。計四つの認定は電池業界で最多だ。WEFは宜賓について、AIを使ったエネルギー管理や工程革新により、製品のカーボンフットプリントを56%削減したと評価している。

 構造面では、2019年に実用化した「CTP(セル・トゥ・パック)」が効いている。セルをモジュールにまとめる工程を省き、部品点数と組立工数を減らす設計だ。製造の工夫と設計の工夫が重なり、「作れば作るほど安く、壊れにくくなる」という底力になっている。

「電池は『作れる』ことと『大量に、同じ品質で作れる』ことの間に大きな壁があります。年間数百GWhという規模で不良を抑え込んでいることこそが、価格競争に巻き込まれても利益が残る理由です」(戦略コンサルタント・高野輝氏)

 日本の製造業にとって、歩留まりへのこだわり自体は目新しい話ではない。違いがあるとすれば、それを現場の職人芸ではなくデータと仕組みとして組み上げ、新工場へそのまま横展開している点だ。自社の「うまくいっているライン」は、別の拠点で何カ月で再現できるだろうか。

稼ぐ技術と仕込む技術を同時に回す

 製造で生んだ現金の行き先が、研究開発だ。2025年の研究開発費は221億元で、売上高4237億元の約5.2%に当たる。過去10年の累計は900億元を超え、研究開発人員は約2万3000人、申請中を含む特許は5万4538件にのぼる。2025年の営業キャッシュフローは1332億元あり、この規模の投資を自前で賄える。

 使い方には役割分担が見える。第一に、今の稼ぎ頭を磨き続ける投資だ。安価で安全性の高いLFP(リン酸鉄リチウム)電池を、超急速充電に対応した「神行」へと発展させた。2025年には神行の第2世代や「神行Pro」、「骁遠(Freevoy)」などを相次いで投入している。商品名がつくことで、汎用品の価格競争から一歩距離を取りやすくなる。10月の決算説明でも、経営陣は「利益率の高い新製品の販売」を今後の収益の鍵に挙げている。

 第二に、次の技術への布石だ。ナトリウムイオン電池「Naxtra(納新)」は、リチウムを使わず低温にも強い。同社は2026年末までの累計出荷を1GWhと見込み、本格量産も年内に始める計画を示している。リチウム価格の変動への備えという意味合いも大きい。一方、全固体電池については同社自身が「大量生産はまだ先」という慵重な見方を崩していない。技術の成熟度に応じて投入の速度を変えていると読める。

 第三に、車載以外の柱だ。定置用蓄電池(ESS)では、SNEリサーチの集計で2025年の出荷シェアが30.4%、5年連続の世界首位だった。再生可能エネルギーやAIデータセンター向けの需要は、EV販売とは異なる景気サイクルで動く。車載電池の波を和らげる役割を果たしている。

「既存事業が好調なうちに次の技術へ資金を回すのは、理屈では分かっていても実行が難しい。既存部門の反発もある。CATLは『利益の大きい主力品』と『市場が立ち上がる前の新技術』に、同じペースで人と金を入れ続けている点が特徴的です」(同)

 経営学でいう「両利きの経営」を、年間数十億ドル規模の設備と研究開発で実行している格好だ。自社の研究開発費は、今年の利益と、五年後の利益のどちらにより多く配分されているだろうか。

課題は数字に出始めている。それでも崩れにくい理由

 楽観だけでは語れない。1〜9月期の粗利益率は22.7%で、前年同期から2.6ポイント下がった。営業キャッシュフローは616億元と前年同期比23.6%減。売掛金は前年末比47.8%、棚卸資産は53.2%増えている。売上高の伸びより現金の回収が遅れている状態で、米JPモルガンは香港上場株の投資判断を「中立」に引き下げた。税負担を顧客とどう分け合うかの交渉も続いており、消費税が通期で効く10〜12月期は、利益率の底堅さが問われる四半期になる。

 海外展開にも時間がかかっている。年産100GWhを計画するハンガリー・デブレツェン工場は、2026年9月にようやくセルの試験生産を始めた。当初の見通しより遅れた格好だ。米中対立や欧州の現地化要件も、今後さらに厳しくなる可能性がある。

 それでも、事業の土台がすぐに揺らぐとは考えにくい。理由は三つある。

1.電池の「前後」まで押さえている。乗用車向け電池交換ステーション「Choco-Swap」は2025年末で中国45都市に1000拠点超。大型トラック向けも300拠点を超える。使用済み電池のリサイクル量は2025年に21万トンに達し、リチウム塩2.4万トンを再生した。「売って終わり」ではない収益源と資源の確保を同時に進めている。

2.地政学に合わせて「商売の形」を変えられる。米国では自社で工場を持たず、フォードに技術をライセンスする形を取った。ミシガン州の同社工場は2026年6月にLFPセルの生産を始めている。スペインではステランティスとの折半出資で、最大50GWhのLFP工場を2026年末に稼働させる計画だ。自社工場、合弁、ライセンスを地域ごとに使い分けている。

3.不況期にも投資を止めない体力がある。営業CFは減ったとはいえ、9カ月で616億元を稼いでいる。市況が悪化したとき、資金力の弱い競合は研究開発や設備投資を絞らざるを得ない。その間も投資を続けられることが、次の回復期の差になる。

「直近の減速は、競争力の低下というより政策と製品構成の影響が大きい。ただし、税負担を価格に転嫁できるかどうかはまだ分からない。注目すべきは売上より、営業キャッシュフローと在庫の推移です」(同)

 同社経営陣は、2027年の世界の車載・蓄電池需要について20〜30%の成長が可能だとの見方を示している。その通りになるかは別として、短期の利益率低下と中長期の競争力は、分けて見る必要がある。

日本のものづくりが持ち帰れるもの

 CATLの歩みを振り返ると、強さは一つの秘策ではなく、「不良を減らす→利益が残る→研究開発と新工場に回す→新製品でまた稼ぐ」という循環の回転数にある。個々の要素は、日本企業がかつて得意としてきたことと重なる部分が多い。

 差が出ているのは、その循環を回す速さと規模だろう。現場のノウハウをデータとして標準化し、新拠点へ素早く移す。好調な事業の利益を、まだ市場のない技術へとめらわず振り向ける。どちらも技術力より経営判断の問題であり、業種を問わず応用できる考え方だ。

 勝機のある領域も具体的に存在する。セパレーターや電解液などの素材、高精度の塗工・検査装置、全固体電池の要素技術などだ。PPB水準の品質を目指すメーカーほど、それを支える材料と装置には厳しい要求を課す。そこに応えることは、日本企業が本来得意としてきた戦い方だ。

「競合を脚威とだけ見ると、守りの発想になりやすい。何を内製し、何を外部から買い、どこに自社の技術を差し込めるのか。その設計図を描き直す材料として使うべきです」(同)

 日本の現場には、品質への執着と改善の積み重ねという強みが今もある。そこに「稼いだ現金を次へ回す速さ」を掛け合わせられるかどうか。CATLの決算書は、その問いを日本企業に突きつけているようにも読める。

(文=BUSINESS JOURNAL編集部、協力=高野輝/戦略コンサルタント)

【主な参照データ・出典】
CATL Q3 net profit reaches $3.16 billion, with growth trailing revenue(CnEVPost、2026年10月20日)
CATL shares fall over 10% in Hong Kong as tax changes add to profit pressure(CnEVPost、2026年10月21日)
Global EV battery market share in January-August 2026(CnEVPost/SNEリサーチ、2026年10月2日)
Zero-Carbon Technology Powers “All-Domain Growth”: CATL Releases 2025 Annual Report(CATL、2026年3月10日)
CATL’s Yibin Plant Recognized by World Economic Forum as a Sustainability Lighthouse(CATL、2026年1月16日)
CATL begins trial cell production at planned 100 GWh Hungary plant(CnEVPost、2026年9月22日)
PPB不良率:CATLの各種ニュースリリースおよび2025年ESG報告書(会社開示値)
ナトリウムイオン電池の出荷見通し:CATL発表(2026年6月22日)、Battery Technology(2026年8月5日)
フォードのLFPセル生産開始:electrive(2026年6月18日)。ステランティス合弁:両社発表(2024年12月10日)

高野輝/戦略コンサルタント

大手総合商社を経て独立。流通・小売から食品・飲料、自動車、エネルギー産業など、多様な領域で経営コンサルティングサービスを提供。

公開:2026.10.26 06:00