ホンダはなぜ三菱自のトラックを売るのか…中国53%減、タイ日系シェア低下の先

●この記事のポイント
ホンダが三菱自動車から、タイで生産するピックアップトラック「トライトン」のOEM供給を受け、2028年にも東南アジアで発売すると報じられた。他社から車両を調達するのは約30年ぶり。9月の中国販売53.1%減、タイでの日系シェアの低下、日産とのSDV共通化契約を手がかりに、自前主義の転換と、資本に頼らない3社協業の勝算と課題を読み解く。
本田技研工業(ホンダ)が三菱自動車から完成車の供給を受ける――。10月9日、読売新聞や日本経済新聞などが報じたこのニュースは、業界関係者の間でも驚きをもって受け止められた。
対象は、三菱自がタイで生産する1トンピックアップトラック「トライトン」だ。ホンダのブランドを付け、2028年にも東南アジアで発売し、他地域への展開も検討するという。ホンダが他社からOEM(相手先ブランドによる生産)供給を受けるのは、1990年代にいすゞ自動車からSUVの供給を受けて以来、約30年ぶりになる。
エンジンから車体まで自分たちで手がけることを企業文化の核にしてきたホンダが、なぜ他社の車に自社のエンブレムを付けるのか。背景をたどると、中国市場の急縮小、東南アジアでの品ぞろえの空白、そして日産自動車を含む3社協業という三つの流れが重なって見えてくる。
●目次
中国「53%減」が突きつけたもの
ホンダの中国法人が10月12日に発表した9月の新車販売台数(登録ベース)は2万5564台。前年同月比53.1%減と、半分以下になった。1~9月の累計は28万3183台で、前年同期から約4割減っている。
ただし、この数字をホンダ固有の問題だけで説明するのは正確ではない。中国汽車工業協会によれば、9月の中国国内販売は190万4000台で前年同月26.0%減。11カ月連続の前年割れだ。新エネルギー車(NEV)の購入税が2026年から「全額免除」から「半額減免」に切り替わったことや、中東情勢を受けた原油高でガソリン車の需要が冷え込んだことが重なった。一方で輸出は61%増と好調で、中国勢の生産が国外へ向かう構図が鮮明になっている。
それでも、市場全体の約2倍のペースで販売が減っている事実は重い。ホンダの中国販売は2020年の約162万台をピークに、2025年には約64万台まで縮んだ。日経ビジネスは、2026年度の中国生産を35万台前後に絞る計画を報じている。
本体の業績も、この1年で大きく揺れた。ホンダは2026年3月、北米で計画していたEV3車種の開発中止を含む四輪電動化戦略の見直しを表明。26年3月期に四輪事業で1兆5778億円の損失・費用を計上し、上場以来初の最終赤字に転落した。27年3月期も約5200億円のEV関連損失を見込む。
一方で、4~6月期の連結営業利益は5307億円と四半期ベースで過去最高だった。牢引したのは過去最高の2339億円を稼いだ二輪事業と、北米のハイブリッド車(HV)。四輪事業の営業利益率は5.0%にとどまる。稼ぐ力がないわけではないが、四輪の投資にはこれまで以上に厳しい優先順位をつけざるを得ない。そういう局面だ。
「中国の月次の数字だけを見て『ホンダ失速』と結論づけるのは早計だと思います。問われているのは、中国で浮いた開発資源と資金をどこに振り向けるか。ソフトウェアやHVに重点を置くなら、自社に貯えの少ないラダーフレーム車を一から作る余裕は、今のホンダにはあまりない」(自動車アナリスト・荻野博文氏)
なぜ東南アジアで、なぜトライトンなのか
中国の次に重みを増すのが東南アジアだ。ただ、ここも「日系の牢城」と安心できる場所ではなくなりつつある。
タイの2025年の新車販売は62万1166台で、前年比8.5%増となった。ホンダは7万3942台(3.4%減)と、トヨタに次ぐ二番手を守っている。一方で日系ブランドの合計シェアは、24年の76.7%から25年は69.3%に下がった。BYDが47.5%増と伸ばすなど、中国勢がEVを軸に存在感を増している。
ホンダが抱える「空白」は、この市場の成り立ちを見るとわかりやすい。タイの25年販売のうち、乗用車が約24万台、商用車が38万台余り。商用車の大半を占めるのが、1トンピックアップだ。シティやHR-Vなど乗用車で強いホンダは、この領域に商品を持たない。北米には「リッジライン」があるが、モノコック構造の乗用車ベースで、新興国で好まれるラダーフレーム車とは性格が違う。
トライトンは、三菱自にとって世界戦略の柱となるモデルだ。ラダーフレームに2.4リットルディーゼルターボを組み合わせ、タイやインドネシアで高いシェアを持つ。ただタイの国内市場は2019年の約100万台から縮小し、生産台数もピークの13年(246万台)に対して25年は145万台。現地工場の稼働率をどう維持するかは、三菱自にとって切実な課題だ。
その解決策として、三菱自はすでに先例を作っている。25年12月20日から、トライトンをベースとする日産向け「ナバラ」をタイのレムチャバン工場で生産し、オセアニアへ供給している。ホンダ向けが加われば、同じラインでさらに量を積める計算になる。
ホンダ側から見れば、これは「時間と投資リスクを買う」判断といえる。商用需要の強いピックアップは、耐久性や整備体制で評価が決まる。実績のない新型車を自社で開発し、信頼を積み上げるまでの時間を考えれば、実績のある車両を借りる方が合理的だ。
「タイやインドネシアで、ピックアップは毎日の仕事の道具です。壊れにくさと、地方の販売店ですぐ直せるかどうかが全てと言っていい。そこに新参入のブランドが入るなら、実績のある車をベースにするのは理にかなっている。ただ、ホンダの販売網はこれまで個人客が中心。法人や自営業の客をどう取り込むかが、実際の勝負どころになるでしょう」(同)
「資本で縛らない」3社協業の現在地
今回のOEMは、単独の取引というより、3社協業の流れの中に置くと意味が見えやすい。
経緯を整理すると、ホンダと日産自動車は2024年8月から三菱自を交えた3社で協業を検討してきた。ホンダと日産の経営統合協議は25年2月に打ち切られたが、事業単位の協議は続いた。26年8月31日には、両社が次世代SDV(ソフトウェア定義車両)の中核となるECUとソフトウェアの共通化に向け、共同開発契約を結んだ。29年度以降の新型車への搭載を目指す。
そして今回のトライトンは、ホンダと三菱自の「提携第1弾」と報じられている。読売新聞によれば、ホンダは他車種のOEM供給や、メーター・ディスプレーなど運転席周りの部品の共同開発も検討しているという。
ここで注意したいのは資本関係だ。日産は三菱自株の26.67%(26年3月末時点)を持つ筆頭株主で、9月には出資を維持する方針も報じられた。一方、ホンダはどちらとも資本関係を持たない。3社の関係は、日産と三菱自の既存の資本提携に、ホンダが「案件ごとの契約」でつながる形だ。
対照的なのがトヨタ自動車だ。ダイハツを完全子会社とし、SUBARU、マツダ、スズキとは出資を伴う資本業務提携を結んでいる。出資という長期的なコミットメントを土台に、部品や技術の共通化を進めてきた。
どちらが優れているかは一概には言えない。資本を伴う提携は結びつきが強い一方、解消には大きなコストがかかる。契約ベースの協業は合意形成に手間がかかるが、条件が合わなければ見直しやすい。経営統合の破談を経た3社が、後者を選んだのは自然な流れともいえる。
「資本の裏付けがない協業は、案件ごとに利害を調整しなければならず、その度に交渉コストが生じます。ただ、押さえるべきは個々の案件の成否より、小さな成功を重ねて社間の信頼を制度として定着させられるかどうか。OEMはその入口としてはわかりやすい題材です」(戦略コンサルタント・高野輝氏)
割り切りの先にある課題
合理的な判断であっても、うまくいく保証はない。課題は少なくとも三つある。
一つ目は差別化だ。OEM車はコストを抑えるため、外観の違いがフロント周りなどに限られることが多い。同じ車が三菱自、日産、ホンダの3ブランドで並ぶ可能性もある中で、「ホンダで買う理由」をどう示すか。保証やアフターサービス、金融商品といった、車体の外側での工夫が問われそうだ。
二つ目は、利益配分と意思決定の調整だ。供給価格や引き取り台数、モデルチェンジの時期を巡って、供給する側と受ける側の利害は必ずしも一致しない。資本関係がない分、契約の設計と現場同士の信頼関係がそのまま協業の強度になる。
三つ目は時間軸。発売は28年以降と、まだ先の話だ。その間にも、中国メーカーは東南アジアやオセアニアで電動ピックアップの投入を進めている。ディーゼル車で市場に入るホンダが、電動化の波にどう備えるかも、いずれ問われるだろう。
それでも、今回の動きには経営の意思決定として学ぶべき点がある。自前主義を「捨てた」と見るより、「自前で持つ領域を絞り込んだ」と見る方が実態に近い。ホンダはソフトウェアやHV、二輪といった強みに資源を寄せ、貯えのないラダーフレーム車は得意な相手から調達する。中国の急変が、その線引きを前倒しで迫ったともいえる。
これは自動車業界に限らない問いだ。自社の強みと弱みを棚卸しし、事業ごとに「自ら作る」「借りる」「組む」を選び分ける。その判断をどれだけ早く、かつ冷静に下せるか。ホンダと三菱自の「第1弾」が成果を出せるかは、28年以降の現地の販売動向と、その後に続く協業の中身が示してくれるはずだ。
(文=BUSINESS JOURNAL編集部、協力=荻野博文/自動車アナリスト)
【主な参照データ・出典】
三菱自動車がトライトンをホンダにOEM供給?(マイナビニュース、10月14日)
四輪事業で苦戦のホンダ、三菱自動車からタイ生産の『トライトン』をOEM供給へ(レスポンス、10月9日、読売新聞報道の紹介)
ホンダ、2027年3月期第1四半期決算(MONOist、8月6日)











