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BYD、中国失速の中でも過去最高輸出のワケ…トヨタ・日産・ホンダは中国で2桁減

2026.09.08 06:00 2026.09.07 17:36 企業
文=BUSINESS JOURNAL編集部、協力=荻野博文/自動車アナリスト

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●この記事のポイント
中国国内販売が前年比14.3%減となるなか、BYDは2026年8月に輸出を134%増の過去最高水準へ伸ばし、NEV販売全体で44万台超・前年比17.8%増を確保した。電池・半導体を自社内製する「逆垂直統合」と地域分散戦略が、中国販売が2桁減のトヨタ・日産・ホンダとの明暗を分けた構造を、最新データから読み解く。

 中国国内では個人消費の伸び悩みと電気自動車(EV)各社による値下げ競争、いわゆる「内巻(ネイジュエン)」が続いている。そうした逆風の中でも、BYD(比亜迪)の勢いは衰えていない。2026年8月の新エネルギー車(NEV)販売台数は44万293台と前年同月比17.8%増を記録した。牽引したのは輸出で、18万9466台、前年同月比134%増という驚異的な伸びとなり、総販売に占める輸出比率は約43%に達した。国内販売が前年同月比14.3%減という厳しい数字だったことを踏まえれば、BYDが海外市場の急拡大によって国内の落ち込みを即座に相殺した構図が浮かび上がる。

 一方、日本の自動車大手は中国事業の失速がグローバル業績にも直接響いている。2026年1〜6月の中国販売は、トヨタ自動車が前年同期比17.1%減、日産自動車が15.0%減、本田技研工業(ホンダ)は34.7%減と6月まで29カ月連続の前年割れを記録した。ホンダは2026年3月期から27年3月期にかけて最大2兆5000億円規模の損失計上を見込み、中国での生産能力をピーク時の173万台から72万台へと半減させる計画を打ち出している。日産も2026年3月期に約5331億円の赤字を計上した。

 同じ「中国の消費不振」という逆風下で、なぜ両者の明暗はここまで分かれるのか。本稿では、その分岐点を「地政学リスクを分散するスピード」と、それを支える「バッテリーから半導体まで自前で抱え込む“逆垂直統合”モデル」という二つの軸から読み解く。

●目次

国内の冷え込みを輸出で補う「グローバル平準化」

 中国のEV市場は、政府や業界団体が「過当競争の是正」に本腰を入れざるを得ないほどの消耗戦にある。値下げ合戦による収益悪化が業界全体の課題となるなか、BYDの国内販売も前年同月比14.3%減と無縁ではない。

 それでもBYDが増収基調を保てるのは、輸出という「もう一つのエンジン」を高速で回せるからだ。東南アジア、南米、欧州へと販売網を多極的に広げ、2026年5月時点では欧州31カ国におけるBYD・上海汽車・吉利・奇瑞・零跑の中国5社合計販売台数が13万8410台(前年同月比65%増)となり、トヨタ・ホンダ・日産など日系6社の13万424台(同3%減)を初めて上回った。特定の一国・一地域の需要変動を、別の地域の伸びで即座に打ち消す「地域リスクの平準化」が機能している。

 対照的に、日本メーカーは長年培った特定市場への依存度の高さが裏目に出やすい。トヨタは世界全体では2026年3月期に売上収益50兆円を突破し日本企業として過去最高を更新したが、それでも中国事業の落ち込みは営業利益を押し下げる要因になっている。ホンダや日産のように中国依存度がより高い企業ほど、地域の需要変動が業績に直結しやすい構造は否めない。

「日本メーカーの多くは、中国という巨大市場での成功体験が長く続いたがゆえに、そこへの供給配分を大きく変えるという意思決定に時間がかかる傾向がある。BYDのように月次・週次で地域別の生産・出荷計画を機動的に組み替えられる体制があるかどうかが、今後の業績のブレ幅を左右するだろう」(自動車アナリスト・荻野博文氏)

「電池屋」発祥だからできた“逆垂直統合”モデル

 BYDの本質を理解する鍵は、その出自にある。1995年に電池メーカーとして創業し、2003年に自動車事業へ参入した経緯を持つBYDは、いわば「完成車メーカーに転身した巨大バッテリー・半導体メーカー」だ。グループ内には比亜迪半導体(BYDセミコンダクター)を抱え、パワー半導体であるIGBTを早くから内製化してきたほか、独自のリン酸鉄リチウムイオン電池「ブレードバッテリー」も自社開発・自社生産している。

 モーター、バッテリー、制御用ICといった電動車の中核部品を自社グループ内で開発・内製化する体制は、一般的な「川上から川下へ」の垂直統合とは逆に、部品・素材メーカーが完成車メーカーへと領域を広げた「逆垂直統合」と呼べる。半導体不足のような外部ショックの影響を受けにくく、部品調達コストや在庫リスクを抑えられるのが強みだ。

 これに対し、日本の自動車産業は系列の一次請け(Tier1)、二次請け(Tier2)へと連なる下請けピラミッド構造を基盤としてきた。品質管理や擦り合わせ型のものづくりに強みを発揮する一方、階層を経るごとに調整コストと時間がかかりやすく、新型バッテリーや制御ソフトの改良を即座に車両へ反映する「タイム・ツー・マーケット」の面では不利に働きやすい。

「BYDの強さは技術力そのものより、意思決定と実装のスピードにある。内製化によって『どこで何が起きているか』を自社で把握できるため、需要変化への反応速度が桁違いに速い。日本のサプライチェーンも品質面では引けを取らないが、変化への反応速度という一点で差がついている」(同)

「生産ラインの改修」を即座に販売増へ変える組織力

 BYDは2026年8月、バッテリー式電気自動車(BEV)の月間販売で初めて25万台の大台を突破した(25万6230台、前年同月比28.4%増)。プラグインハイブリッド車(PHEV)も17万7154台(同3.1%増)と底堅く、車種構成の調整や生産ラインの改修による短期的な生産の凹凸を、月単位でフル稼働・輸出攻勢へと復帰させる実行力がうかがえる。

 日本メーカーにおいても、系列の部品メーカーや協力会社との丁寧な合意形成は品質と安全性を支える文化的資産である。ただし、市場環境が急変する局面では、複数の関連会社をまたぐ調整や社内稟議に要する時間が、需要変化への即応力という点でボトルネックになりうることも事実として指摘されている。どちらが優れているかという単純な優劣ではなく、平時の強みが有事には弱みに転じうるという構造上のトレードオフとして捉える必要がある。

保護主義の波をかわす「ローカライズ戦略」の着弾スピード

 欧米では中国製EVへの警戒から保護主義的な措置が強化されている。EUは中国製EVに対し基本関税10%に最大35.3%を上乗せし、最高45.3%の追加関税を課している。BYDをはじめとする中国メーカーは、追加関税の対象外となるPHEVへのシフトや、現地の購入補助金(ドイツでは最大96万円規模)の活用といった形でこれに対応しつつ、より根本的な打ち手として現地生産の立ち上げを急いでいる。

 タイ工場は2024年7月に完工し東南アジア向け供給拠点となったほか、欧州初の乗用車工場となるハンガリー工場の建設を進め、ブラジルでは着工からわずか15カ月という早さで年産15万台規模の新工場を稼働させた。単なる輸出攻勢にとどまらず、関税や為替変動の影響を受けにくい現地生産体制を各地域で並行して立ち上げるスピード感が、日本車が長年強固な基盤を築いてきた東南アジアや南米市場においても、低価格帯EVと充電インフラをセットで提案する新たな競争軸を持ち込みつつある。

日本の製造業・サプライヤーが今すぐ直面すべき現実

 BYDの2026年8月実績が示すのは、単なる一企業の好決算ではなく、「良い車を作れば売れる」という従来型のものづくり神話だけでは立ち行かなくなりつつある構造変化だ。電池・半導体という川上工程を自社で押さえ、生産と輸出の配分を機動的に組み替え、関税障壁が立ちはだかる市場には現地生産で応じる。この一連の対応力こそが、中国国内の逆風を打ち消す原動力になっている。

 日本の自動車産業にとっての論点は、系列構造そのものを否定することではない。むしろ、擦り合わせ型のものづくりが持つ品質面の強みを維持しながら、グローバルEVサプライチェーンへの参入機会や、ソフトウェア・軽量化技術といった新たな付加価値領域へどう舵を切るかにある。

「今後数年は、電池やパワー半導体といった中核部品の内製・外製の線引きを各社がどう見直すかが焦点になる。系列を守るための投資と、新しい成長領域への投資の配分をどう最適化するかが、日本の部品メーカーの次の10年を左右するだろう」(同)

 中国市場の動向は今後も流動的であり、BYDの輸出攻勢や中国のEV過当競争是正の行方、欧米の関税政策の変化など、注視すべき変数は多い。断定的な予測は避けつつも、地域分散と内製化という二つの軸で先手を打ってきたBYDの動きは、日本の製造業が自社のサプライチェーン戦略を点検する上で、有益な参照点になるはずだ。

(文=BUSINESS JOURNAL編集部、協力=荻野博文/自動車アナリスト)

 

取材・データ出典

BYD 2026年8月販売実績: BYD sells more than 250,000 BEVs in a single month for first time – electrive.com
BYD輸出台数・Chery比較: China EV global sales in August 2026 – CarNewsChina
BYD8月販売・輸出倍増: BYD vehicle sales climb 18% in August as record exports outweigh China decline – Yahoo Finance
トヨタ・日産・ホンダの中国販売実績、ホンダ損失・生産能力半減、日産赤字: 中国で日本車3社そろって前年割れの深層 – ビジネスジャーナル
欧州における中国5社と日系6社の販売逆転、EU関税税率: EU高関税の壁を突破、中国EVメーカーの欧州月間販売台数が初めて日系勢を逆転 – BigGo ファイナンス
タイ工場完工: BYDのタイ工場が完工 – ジェトロ
ハンガリー工場: 中国BYD、ハンガリーに欧州初の乗用車工場 – 日本経済新聞
ブラジル工場15カ月竣工・年産15万台: 中国BYDの「ブラジル工場」、15カ月で竣工の早業 – 東洋経済オンライン
中国EV過当競争「内巻」と当局の是正介入: 変わらぬ中国EV「過当競争」の闇 – 日本経済新聞

BusinessJournal編集部

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公開:2026.09.08 06:00