東京センチュリーが「内幸町」へ本社移転する理由…再開発超高層ビルの真価とCRE戦略

●この記事のポイント
大手リース会社・東京センチュリーが2029年度、秋葉原から内幸町のHIBIYA CROSSPARKサウスタワー(地上46階)へ本社移転。第一生命・中央日本土地建物との共同再開発事業への参画実態や、CASBEE・WELL認証、都心オフィス空室率2.2%のデータから最新CRE戦略の転換点を読み解く。
大手総合リース会社の東京センチュリーが、2029年度中に本社機能を現在の東京都千代田区神田練塀町(ヒューリック秋葉原タワービルディング内)から、同区内幸町一丁目に建設中の複合再開発街区「HIBIYA CROSSPARK(ヒビヤ クロスパーク)」内の(仮称)サウスタワーへ移転すると発表した。新社屋は地上46階・地下3階、竣工予定は2029年3月で、新橋駅・内幸町駅と地下通路で直結する立地となる。
移転先は、旧みずほ銀行内幸町本部ビルなどの跡地を含む「内幸町一丁目街区南地区第一種市街地再開発事業」のエリアで、延床面積は南地区タワー単体で約29万平方メートル、街区全体では約110万平方メートルに達する都内最大級の開発案件だ。東京センチュリーは移転目的として、分散拠点の集約による共創・イノベーションの加速、人的資本経営とウェルビーイングの向上、環境性能に優れたビルへの入居による環境負荷低減、BCP(事業継続計画)機能の強化を掲げている。
一見すれば「成長企業が新築の超高層ビルへ本社を移す」よくある話に映る。しかし、CRE(企業不動産戦略)に詳しい専門家の間では、今回の移転は「コロナ禍を経たオフィス回帰の一つの到達点」であり、「金融・リース業界におけるCRE戦略の転換点を象徴する事例」として受け止められている。なぜ今、あえて内幸町・日比谷という伝統的な官庁・金融エリアが選ばれたのか。その背景にある企業不動産戦略の変化を読み解く。
●目次
秋葉原から金融・官庁の中心地へ
東京センチュリーは2015年に本社機能を秋葉原エリアへ集約した経緯を持つ。当時はコスト効率やIT・テック系企業との親和性を重視した立地選定だったとみられるが、今回はその流れとは対照的に、大手町・丸の内・日比谷という伝統的な金融・ビジネス中枢への「回帰」となる。
この動きの背景には、主要株主であるみずほフィナンシャルグループ、伊藤忠商事といった株主企業や、金融・事業会社の主要取引先との対面コミュニケーション、協業機会を最大化する狙いがあるとみられる。実際、日比谷・内幸町エリアには金融機関や大手事業会社の本社機能が集積しており、近接性は商談や共同事業の創出において無視できない要素となる。
こうした動きは東京センチュリーに限った話ではない。大手町・丸の内・虎ノ門といった都心中枢エリアでは、複数の大型再開発プロジェクトが2020年代後半にかけて相次いで竣工を迎えており、業種を問わず本社機能を最新鋭の再開発タワーへ集約する動きが広がっている。日本不動産研究所の調査によれば、東京都心5区のオフィス空室率は2025年実績で2.2%まで低下し、賃料指数も前年比7.9%上昇するなど、都心中枢部の需要は強含みで推移している。2026〜2027年にかけても新規供給は過去平均を下回る水準にとどまる見通しで、良質な大規模オフィスへの需要が旺盛な状態が続いている。コロナ禍で一時は分散・縮小に向かったオフィス戦略が、対面での協業やブランディングの価値が再評価される中で、都心回帰という形で揺り戻しを見せている構図だ。
不動産コンサルティング会社でCRE戦略のアドバイザリーを手掛けるアナリストは、次のように分析する。
「金融・リース業界では、取引の意思決定に近い場所にいることの価値が、テレワークの定着によってかえって再評価されています。郊外や副都心にオフィスを構える動きが一巡し、今は『誰と、どれだけ近い距離でつながっているか』が拠点選定の最重要指標になりつつある。東京センチュリーの内幸町移転は、その典型例といえるでしょう」(不動産アナリスト・伊藤健吾氏)
CRE戦略における3つの狙い
(1)人的資本経営とオフィスによる採用・エンゲージメント格差
単なる執務スペースとしてのオフィスの役割は、すでに大きく変質している。ハイブリッドワークが定着した現在、「出社したくなるオフィス」「刺激や偶発的な出会いが得られるオフィス」を提供できるかどうかが、採用競争力や人材のリテンションを左右する要因になっている。
2026年3月期からは有価証券報告書における人的資本情報の開示項目が拡充されるなど、上場企業には人的資本経営の実効性を対外的に示すことが一段と求められている。日比谷公園に隣接し、緑と都市機能の調和を掲げる「TOKYO CROSS PARK構想」の一角に本社を置くことは、社員のウェルビーイング向上と対外的なブランディングを同時に狙う施策として位置づけられそうだ。
(2)ESG投資対応と環境性能への投資
HIBIYA CROSSPARKのサウスタワーは、フィルム型ペロブスカイト太陽電池を活用したビル一体型メガソーラー発電の導入、ZEB Ready認証の取得、CASBEE評価での最高水準(Sクラス)取得、WELL認証プラチナランクの取得を目指すなど、最先端の環境・健康性能を備える計画だ。旧みずほ銀行ビルで使われていた石打込みPC板などの既存資材を再利用し、環境配慮と歴史の継承を両立させる方針も示されている。
上場企業にとって、本社ビルそのものが高い環境性能を備えているかどうかは、投資家評価やESG関連の情報開示において軽視できない要素になりつつある。CASBEEやWELL、ZEBといった第三者認証の取得は、統合報告書やサステナビリティ開示の説得力を高める材料としても機能する。
「オフィスの環境性能は、これまでのようにコストとして語られる時代から、投資家に対する説明責任を果たすための開示材料へと位置づけが変わってきています。特に金融関連企業は、自社の投融資先に環境配慮を求める立場でもあるため、自社の本社ビル自体が模範となることの意味は小さくありません」(同)
(3)BCPと防災機能の強化
首都直下地震のリスクや近年の気候変動リスクの高まりを踏まえ、老朽化ビルや分散した拠点から、免震・制震構造や自家発電機能を備えた最新の再開発ビルへ機能を集約する動きは、金融・リース業界に限らず多くの大手企業で進んでいる。事業継続性の確保は、有事における企業価値の防衛という観点からも優先度の高い経営課題になっている。東京センチュリーが移転目的の一つとしてBCP機能の強化を明示している点は、この文脈に沿ったものといえるだろう。
「首都直下地震の被害想定が繰り返し見直される中、本社機能が老朽化した単一の建物に集中しているリスクは、経営者にとって看過できない問題になっています。免震構造や非常用電源を備えた再開発ビルへの移転は、単なる設備投資ではなく、有事に事業を止めないための経営判断そのものです。特に金融・リース業界は決済や与信管理といった機能を止められないため、BCPの実効性は企業の信用力にも直結します」(同)
テナントではなく「事業主体」としての参画
今回の移転で見逃せないのは、東京センチュリー自身が内幸町一丁目街区南地区の再開発事業に、第一生命保険、中央日本土地建物(代表施行者)、東京電力パワーグリッドなどとともに関係権利者・事業参画者の一社として関わっている点だ。
つまり今回の本社移転は、単に他社が開発したビルに入居する「テナントとしての賃貸移転」ではなく、開発段階からプロジェクトにコミットし、完成後に自社拠点として入居するという、アセットマネジメントとCRE戦略を融合させたアプローチである。リース会社である東京センチュリーにとって、大規模不動産開発への事業参画は本業とのシナジーも見込める投資判断であり、単純な「本社移転」以上の戦略的な意味合いを持つとみることもできる。
CREは「コスト管理」から「成長投資」へ
かつてCREは、いかに不動産コストを圧縮するか、いかに保有資産をスリム化するかという、コスト管理の文脈で語られることが多かった。しかし東京センチュリーの事例が示すように、近年のCRE戦略は、人的資本の活性化、ESG・ブランディング、事業継続性という複数の要素を統合し、企業の成長を支える投資判断へと位置づけを変えつつある。
もっとも、こうした大規模移転にはリスクも伴う。新築超高層ビルへの移転は賃料負担の増加を招く可能性があり、投資対効果をどう検証するかは今後の課題として残る。加えて、2028年以降は都心部で大量供給が見込まれており、市況によっては賃料上昇の勢いが一服する可能性もある。またハイブリッドワークの浸透度合いや働き方に対する社会的な価値観の変化次第では、「出社を前提とした拠点集約」という経営判断そのものが将来的に見直しを迫られる余地も残る。移転の真の成果は、竣工後にどれだけの人材確保やイノベーション創出、事業成長につながったかによって、中長期的に評価されることになるだろう。
2029年、日比谷公園のほとりに誕生する新たなランドマークで、東京センチュリーがどのような共創を生み出していくのか。同社の動きは、他の大手企業がオフィス戦略を再考する上での一つの参照点となりそうだ。
(文=BUSINESS JOURNAL編集部、協力=伊藤健吾/不動産アナリスト)
【主な参照データ・出典】
東京センチュリー株式会社「本社移転に関するお知らせ」(PR TIMES)
内幸町一丁目街区南地区第一種市街地再開発事業に関する各事業者発表資料(第一生命保険、中央日本土地建物、東京電力パワーグリッド)
HIBIYA CROSSPARK公式サイト
東京都都市整備局 市街地再開発事業関連資料











