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東京オフィス「空室率1.5%」の裏で進む二極化…出社回帰が生む座席難民とグレード間格差

2026.08.20 05:55 2026.08.20 00:17 経済
文=BUSINESS JOURNAL編集部、協力=伊藤健吾/不動産アナリスト

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●この記事のポイント
東京都心のオフィス空室率はCBRE調査で1.5%と世界最低水準。だがグレードAは0.7%、A-・Bは1.7%と格差があり、丸の内0.1%対六本木1.4%とエリア差も鮮明。賃料は坪4万3250円(+15.5%)へ高騰し、出社回帰で座席不足に悩む企業と選ばれない築古ビルの二極化を最新データで読み解く。

 欧米の主要都市ではオフィスビルの空室が目立ち、在宅勤務との共存を探る試行錯誤が続いている。そうした世界の潮流の中で、東京都心のオフィス市場は際立った動きを見せている。不動産サービス大手CBREが発表した2026年第1四半期(1〜3月)の調査によると、東京のオフィス空室率(全グレード平均)は1.5%。前年同期比で1.5ポイントもの大幅な低下となり、世界の主要都市と比較しても突出して低い水準にある。

 一見すると「オフィス市場は完全復活し、企業もビルオーナーも潤っている」と読める数字だ。しかし取材を進めると、この平均値の裏側で、性質の異なる二つの悲鳴が交錯している実態が浮かび上がってくる。一つは、出社回帰を進めたものの座席や増床先を確保できない「企業側の悲鳴」。もう一つは、同じ1.5%という好況の統計の中にありながら、テナントに選ばれず取り残されつつある「ビル側の悲鳴」である。

●目次

原則全員出社で「オフィス拡張難民」に

フリーアドレスの座席争いと「出社してウェブ会議」の本末転倒

 コロナ禍で座席数を絞った企業が、明確な移行計画を示さないまま「原則出社」へ舵を切った結果、現場では朝の座席争奪戦や個室ブースの奪い合いが日常化しているという声が各所で聞かれる。人材サービス大手エデンレッドの2025年調査では、出社に前向きになれない従業員が挙げる理由として「通勤時間の負担」が74.8%と最多で、「働き方の自由度が制限される」が41.4%と続く。同調査では、理想の出社頻度として「週3日以下」を希望する回答が合計70.9%に上る一方、実際には37.6%が「週5日出社」を強いられているとの結果も出ており、企業の方針と従業員の希望との間に無視できないギャップが存在することが示されている。

 こうした環境下で、周囲の話し声が飛び交うフリーアドレス席でウェブ会議に参加し、かえって集中できずに「在宅のほうが成果を出せた」と感じる社員がいるという指摘も、複数の働き方改革コンサルタントから聞かれる。対面コミュニケーションの活性化を掲げて出社率を引き上げたはずが環境整備が追いつかず、かえって業務効率を損ないかねない――。この「隠れた生産性低下」は、数字に表れにくいだけに見過ごされやすい論点だ。

「出社率を上げること自体が目的化してしまい、座席数やブース数、会議室の音響環境といった『器』の設計が後回しになっている企業は少なくありません。出社を求めるなら、出社した社員が集中して働ける環境とセットで設計する必要があります」(人事・労務コンサルタントの松本祐樹氏)

「増床したくても物件がない」

 出社率の上昇に伴って増床を試みても、同じビル内はもちろん近隣エリアでも空きが見つからず、いわゆる「オフィス難民」化する企業も目立つ。背景にあるのは賃料の急ピッチな上昇だ。CBREの調査では、東京のグレードAオフィス賃料は月額坪あたり4万3250円と前年同期比15.5%の上昇を記録し、全グレード平均でも2万4230円と同9.9%上昇している。JLLの分析でも2029年末には坪あたり4万4000円まで上昇するとの見通しが示されており、新規供給される物件については坪7万円台に達しても不思議ではないとの指摘もある。

 こうした市況を映すように、オフィスの立地そのものが採用競争力を左右する事例も報じられている。ITビジネス誌の報道によれば、埼玉・千葉を拠点としていた従業員100人規模の建設会社が、採用強化を目的に新宿エリアへ事務所を移転したところ、応募数が従来の10倍以上に増え、内定後の入社率も改善したという。同社幹部は「郊外で給料を5万円増やすよりも効果が大きい」と説明しており、人手不足が深刻化する中で、好立地オフィスの確保が給与引き上げに匹敵する採用戦略として機能している実態がうかがえる。裏を返せば、増床や好立地への移転ができない企業ほど、採用・定着の両面で不利な立場に置かれかねないということでもある。

出社方針と従業員の希望の乖離が招くリスク

 先述のエデンレッド調査では、育児中の女性の79.7%が「完全出社での育児と仕事の両立はイメージが湧かない」と回答している。全員一律の出社方針が、多様な事情を抱える人材の離脱リスクを高める可能性は、複数の人事関係者が指摘するところだ。柔軟な働き方を認める競合他社が存在する以上、硬直的な出社ルールを敷く企業が中長期的に人材獲得で不利になる可能性は、客観的なデータからも読み取れる懸念点といえるだろう。

空室率1.5%の裏で進む「グレード間格差」

「超低空室率」なのに苦戦するビルも

「平均1.5%」という数字は、実際には均一な好況を意味しない。CBREの2026年第1四半期データを見ると、グレードAビル全体の空室率は0.7%と極めて低い一方、グレードA-(準A)ビルは1.7%、グレードBビルも1.7%と、上位グレードとの間に明確な差が生じている。エリア別でも、丸の内・大手町では0.1%という「実質満床」状態である一方、六本木・赤坂エリアは1.4%と、同じ都心でも需給の締まり方には濃淡がある(JLL調べ)。

 賃料の伸び率にも同様の格差が表れている。グレードAの賃料が前年比15.5%上昇したのに対し、グレードBは9.0%増にとどまる。空室率・賃料上昇率のいずれにおいても、上位グレードへの需要集中が「平均1.5%」という数字を押し上げている構図が浮かび上がる。

 過去を振り返れば、新築大型ビルへの移転が相次いだ2018年前後には、退去後の旧ビルに空室が生じる「二次空室」が課題視され、当時2.8%だった空室率が翌年には5%弱まで上昇するとの見方も出ていた。もっとも、JLLの分析では、現在は既存テナントの拡張需要が強く、退去が出てもビル側が館内での住み替えや早期成約で埋め戻しているうえ、原状回復工事の遅延によって空室が市場に表面化しにくい状況にあり、二次空室が目立って顕在化しているとまではいえない。ただし、これは現時点の需給が極端に逼迫していることの裏返しでもあり、新規供給の増加や需要の変化次第でグレード間格差が今後さらに拡大する可能性は否定できない。

企業がビルを選ぶ基準は「広さ」から「体験」と環境性能へ

 企業が社員に出社を求めるからこそ、オフィスビル側には「出社したくなる環境」が求められる時代になりつつある。日本経済新聞の報道によれば、内装工事費の高騰を背景に、割高感があっても即入居できる家具付き・内装付きの「セットアップオフィス」への需要が拡大しているという。共用ラウンジやカフェスペース、空調・入退館設備といったハード面への投資の有無が、テナント誘致力の差として表れやすくなっている。

 加えて、上場企業やグローバル企業を中心に、DBJグリーンビルディング認証をはじめとする環境認証の取得状況が、移転先選定の判断材料の一つに加わりつつある。ESG経営を掲げる企業にとって、環境性能の低いビルは選択肢から外れやすくなっているとの見方は、複数の不動産サービス会社のレポートで共通して示されている観点だ。

「駅からの距離だけを強みにしていたビルオーナーの方々にとって、今は正念場です。設備の陳腐化や環境性能の低さを放置したまま賃料を下げるだけでは、キャッシュフローが先細りするだけで根本的な解決にはなりません。限られた投資余力をどこに振り向けるかの判断が問われています」(不動産アナリスト・伊藤健吾氏)

「立地依存」から抜け出せないビルオーナーの苦境

駅近という立地の強みだけでは、設備の陳腐化や環境性能の低さを補いきれなくなっている。かといって賃料を引き下げれば、老朽化した設備を更新するための改修投資の原資を確保しづらくなり、競争力の低下がさらなる賃料下落を招くという悪循環に陥りかねない。低金利環境の変化や建築コストの上昇も重なる中、築古ビルのオーナーにとっては、限られた投資余力をどう配分するかが経営判断の分かれ目になりつつある。

ミスマッチを解消する「企業の空間戦略」と「ビルの再生戦略」

企業側:固定席依存からの脱却とハイブリッドな空間設計

 全社員分の固定席を用意する時代は終わりつつある。業務内容に応じて働く場所を選ぶ「ABW(Activity Based Working)」の考え方を取り入れ、集中作業向けのブースや対面会議向けのスペースを用途別に設計する企業が増えている。あわせて、シェアオフィスや個室ブース事業者と法人契約を結び、本社機能の一部をサテライト拠点に逃がすことで、固定費の膨張を防ぎながら出社需要のピークを吸収する動きも広がりつつある。自社オフィスの拡張だけに頼らない空間戦略は、賃料高騰リスクへの現実的な備えとなり得るだろう。

ビル側:セットアップオフィス化とニッチ特化リノベーション

 ビル側では、テナントの内装工事負担をゼロに近づける「セットアップオフィス」化により、検討開始から入居までの期間を短縮する動きが広がっている。加えて、「スタートアップ特化」「クリエイター特化」「環境配慮特化」など、特定の需要層に照準を合わせたリノベーションによって、規模や立地だけでは測れない差別化を図るビルも出てきている。すべてのビルが大規模な建て替えを選べるわけではない以上、こうした中規模投資による付加価値づくりは、築古ビルが生き残るための現実的な選択肢の一つになりつつある。

テナントとビルオーナーの「パートナーシップ型」契約

 単なる貸主・借主の関係を超え、オフィスの利用データを共有しながらレイアウトや設備投資を共に最適化していく、新しいプロパティマネジメント(PM)の形を模索する動きも一部で始まっている。

「これまでは契約が決まればオーナーとテナントの接点は限られていました。ですが、入退館データや会議室の稼働状況を可視化し、テナント企業の働き方の変化に合わせてビル側が改修や運用を調整していくような、伴走型の関係へ移行する余地は大きいと考えています」(同)

 こうした協働型のモデルが業界標準になるかどうかは今後の動向を見極める必要があるが、需給が逼迫し、テナント・オーナー双方が従来のやり方の見直しを迫られている今だからこそ、こうした関係性の変化が生まれやすい局面にあるとは言えるだろう。

問われるのは「空間の質」と「戦略」

「オフィス空室率1.5%」という数字は、一見すると日本経済の底堅さを示す明るい指標に映る。しかし内実を紐解けば、出社回帰の号令が先行し、環境整備が追いつかないことによる企業側の「隠れた生産性低下」と、グレードやエリアによって需給の締まり方に濃淡が生じる「ビル間格差」という、二つの異なる課題が同時に進行している。

 企業に求められているのは、社員を集めるためだけのオフィス確保ではなく、「集まる価値を生み出す空間戦略」である。そしてビルオーナーに求められているのは、単なる床面積の提供ではなく、「テナントの働き方を支える価値」をどう設計し直すかという発想の転換だろう。平均値としての空室率の低さに安心せず、それぞれの立場で「質」を問い直せるかどうかが、この先の東京のオフィス市場、そしてそこで働く企業の競争力を左右していくことになりそうだ。

(文=BUSINESS JOURNAL編集部、協力=伊藤健吾/不動産アナリスト)

【主な参照データ】
・CBRE「ジャパンオフィスマーケットビュー 2026年第1四半期」(グレード別空室率・賃料データ)
日本経済新聞「東京のオフィス空室率1.5%、世界で際立つ高稼働 コロナ後の出社回帰」
・日本経済新聞「東京都心5区オフィス需給逼迫 空室率6年ぶり1%台 出社回帰、社員交流の場 広がる」
・日本経済新聞「家具付きオフィス、高くても脚光 内装工事費上がり割高感薄れる」
・JLL「【2025-2029年】東京オフィス賃貸市場の最新動向と2026年以降の展望」
・生和コーポレーション「築古・既存オフィスビルの『二次空室』が増えている!?」
・ビジネス+IT「応募数がなんと10倍…?オフィス賃料高騰の裏にある『ヤバすぎる採用戦争』の影響」
・エデンレッド「【2025年最新調査】出社回帰の実態と対策|出社したくない理由と解決法」

BusinessJournal編集部

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公開:2026.08.20 05:55