マツキヨココカラ、高収益ビジネス構造の裏側…食品比率を下げ純利益14.9%増

●この記事のポイント
マツキヨココカラ&カンパニーは2026年4-6月期に純利益14.9%増の過去最高益を更新。食品比率を抑え医薬品・化粧品に特化し、銀座旗艦店(化粧品75%)など都心一等地で坪単価を最大化。PB比率14.8%の高粗利戦略とウエルシア・ツルハ統合という業界再編を比較しながら、その収益構造を解説する。
マツキヨココカラ&カンパニーが8月10日に発表した2027年3月期第1四半期(2026年4〜6月)決算は、売上高2893億円(前年同期比5.7%増)、営業利益214億円(同8.5%増)、経常利益228億円(同8.8%増)、親会社株主に帰属する四半期純利益148億円(同14.9%増)と、いずれも四半期として過去最高を更新した。会社側も「計画を上回る業績」とコメントしており、化粧品カテゴリーの伸びが増益をけん引した格好だ。
ドラッグストア業界といえば、一般に「食品を安く売ってスーパーやコンビニから客を奪う」モデルが主流とされる。実際、業界最大手級のコスモス薬品は食品売上構成比が5割超、ウエルシアホールディングスも2割強を食品が占める。ところが物価高や近隣同業との価格競争によって各社の粗利が圧迫される中、食品比率が業界で際立って低い水準にとどまるマツキヨココカラだけが、増収増益、しかも過去最高益という結果を出し続けている。この「逆張り」にも見える戦略の裏側には、単なる企業努力を超えた、業態としての構造的な勝ち筋がある。本稿では、決算数値と業界データをもとに、その仕組みを分解していく。
●目次
- 「スーパー化する競合」と「脱・食品」…決定的な戦略の分岐点
- 一等地の高額家賃を乗り越える「坪単価×回転率」の数学
- 他社の安売りPBとは一線を画す「指名買いされる高粗利PB」
- 「巨大化する連合」と「高収益ブランド」、勝者はどちらか
「スーパー化する競合」と「脱・食品」…決定的な戦略の分岐点
ドラッグストア業界では長らく、食品を「集客のフック」として使う戦略が定石とされてきた。コスモス薬品は生鮮食品や惣菜こそ扱わないものの、加工食品・飲料を中心に食品売上構成比が5割を超える「フード&ドラッグ」業態を確立し、低コストオペレーションと高い商品回転率で稼ぐモデルを磨き上げてきた。ウエルシアホールディングスも食品が売上高構成比で22.2%を占めるが、興味深いのは、この食品が売上総利益(粗利)ベースでは13.4%の寄与にとどまるという点だ。食品の粗利率はコンビニエンスストアの半分以下とも言われる15%前後にすぎず、各社は薄利を承知の上で来店頻度を稼ぐための「客寄せ商材」として食品を位置づけている。
これに対し、マツキヨココカラの前身であるマツモトキヨシホールディングスは、単体時代から食品売上構成比が1割前後と、業界の中でも際立って低い水準にあった企業として知られる。統合後の現在も、化粧品・医薬品を核とする「ヘルス&ビューティー」カテゴリーが売上構成比の72.4%を占めるまでに拡大しており、食品への依存度が構造的に低いことに変わりはない。医薬品の粗利率はOTC・調剤の合算で40%超(調剤単体でも37%台)、化粧品も同様に高い水準とされ、食品とは一桁違う収益性を持つ。つまりマツキヨココカラは、薄利多売の消耗戦を避け、粗利率の高い医薬品・化粧品・PB(プライベートブランド)商品にリソースを集中させることで、「量を追わずに稼ぐ」構造を作り上げてきたのである。
「ドラッグストア各社が食品拡大に走ったのは、来店頻度を上げるための合理的な選択でした。ただし食品は粗利が薄く、価格競争に巻き込まれやすい。マツキヨココカラは、あえてその土俵に乗らず、粗利の厚いカテゴリーに絞り込むことで収益性を守ってきたと言えます」(流通コンサルタント・永田由紀氏)
一等地の高額家賃を乗り越える「坪単価×回転率」の数学
「渋谷・銀座・原宿のような一等地は、家賃が高くて利益が出にくいはずだ」というのは、小売業に対する一般的な直感だろう。だが、マツキヨココカラの都心型店舗を見ると、この直感がそのまま当てはまらないことがわかる。
象徴的な例が、2025年7月に全面改装オープンした「マツモトキヨシ GINZA FLAG」(銀座5th店)だ。売り場面積は約242平方メートル(約73坪)と、郊外型ドラッグストアの数分の一の規模にすぎない。しかし取扱商品構成は化粧品が75%、医薬品が20%、日用品が4.5%、食品はわずか0.5%という、極端なまでの「脱・食品」型の品揃えとなっている。取扱品目数は改装前から約1000品目増え、約1万品目に達した。ターゲットは20〜30代の女性で、「Beauty Addiction(美への渇望)」というコンセプトのもと、一般的なドラッグストアでは扱わない限定ブランドや新商品を積極的に取りそろえている。
郊外型の店舗が100〜300坪の広い売り場に、単価の低いかさばる商品(飲料、菓子、日用消耗品)を並べて坪あたりの利益を薄く広く積み上げるのに対し、マツキヨココカラの都心型店舗は、数十坪という限られた面積に高単価・小型の商品(高級美容液、機能性化粧品、医薬品)を凝縮することで、坪あたりの売上・利益を最大化する設計になっている。加えて、渋谷・銀座・原宿といった一等地の高額な家賃は、見方を変えれば「圧倒的な歩行者数(=集客力)を買う対価」でもある。
2025年の訪日外国人数は史上最速のペースで年間3000万人を突破し、11月時点の累計が3907万人と過去最多を更新した。買い回りのついでに高単価のコスメや医薬品が動きやすい都心立地では、家賃負担が重くても、それを上回る売上・利益を生み出せる可能性が高い。「高い家賃=儲からない」という単純な図式ではなく、「高い家賃を払ってでも、それを上回る客単価と購買率を確保できるか」という坪単価の設計こそが、都市型ドラッグストアの勝敗を分けている。
他社の安売りPBとは一線を画す「指名買いされる高粗利PB」
一般的なドラッグストアのPB商品は、ナショナルブランド(NB)より1〜2割安い「節約用アイテム」という位置づけが多い。これに対し、マツキヨココカラのPB戦略は明確に異なる方向を向いている。同社は「matsukiyo」を筆頭に、「THE RETINOTIME」「ARGELAN」「LUNTA」「RECIPEO」など複数のPBブランドを展開し、単なる低価格訴求ではなく、デザイン性・機能性・トレンド感で勝負する商品開発を進めてきた。開発にあたっては、年齢や性別による従来型の顧客区分ではなく、購買データから算出した「意識スコア」をもとに顧客と商品を設計する独自のアプローチを採用しているという。
2024年12月には美容口コミメディア「LIPS」を完全子会社化し、1億5000万件を超えるとされる会員接点(会員カード・アプリ・LINE)や口コミデータを商品開発に活用する体制を構築した。こうした取り組みの結果、2026年3月期のPB比率は前期比1.2ポイント上昇の14.8%に達し、大手メーカーとの協業商品では保湿スキンケアカテゴリーの売上が2.4倍に拡大するなど、具体的な成果も出ている。化粧品は同社売上高の4割超を占める主力カテゴリーであり、自社開発のPBは中間流通マージンが抑えられる分、NB仕入れ品より粗利を厚く残しやすい。SNSでの話題化を狙ったマーケティングも奏功し、若年層や訪日客が「マツキヨでこのPBを買いたい」と指名買いに訪れる動線が生まれている点は、他社の「節約PB」とは一線を画す収益モデルといえる。
「化粧品のPBで成功するかどうかは、価格の安さではなく“このブランドでしか買えない”という指名性をつくれるかにかかっています。マツキヨココカラは口コミメディアの子会社化などデータ基盤への投資を進めており、開発の精度を上げる仕組みを持っている点が強みです」(同)
「巨大化する連合」と「高収益ブランド」、勝者はどちらか
ドラッグストア業界は今、大きな再編の渦中にある。2025年12月1日、ウエルシアホールディングスとツルハホールディングスの経営統合が完了した。ツルハホールディングスを存続会社としてウエルシアホールディングスを完全子会社化する形で、統合後の売上高は約2兆3124億円、国内店舗数は5659店舗に達し、ドラッグストア市場の2割超のシェアを持つ巨大グループが誕生した。新生ツルハホールディングスは「ドラッグストアから、人生に寄り添うライフストアへ」というビジョンを掲げ、調剤薬局機能や介護関連事業なども含めた「規模の経済」による成長を志向している。
一方のマツキヨココカラ&カンパニーは、2026年3月期に売上総利益率35.1%、営業利益率7.7%と、いずれも業界トップ水準の収益性を確保した。同社の戦略は、店舗数や売上高の規模拡大を最優先するのではなく、粗利率の高いカテゴリーへの特化と、都心一等地での坪効率最大化によって「質」で稼ぐという方向性に貫かれている。もっとも、2027年3月期は外形標準課税の対象拡大や調剤報酬改定に伴う会計処理の変更により、営業利益段階では増益率が鈍化する見通しも示されており、実際の経営環境が常に追い風とは限らない点には留意が必要だ。
「規模の経済で稼ぐ巨大連合」と「粗利率とブランド力で稼ぐ高収益企業」という、性質の異なる2つの勝ちパターンが同じ業界の中で併存している構図は、ドラッグストアに限らず、あらゆる小売・サービス業にとって示唆に富む。安易な価格競争や、来店頻度を上げるための安易な取扱商品の拡大(いわゆる「何でも屋化」)は、粗利構造を悪化させ、自社の首を絞めかねない。むしろ、自社の強みが最大限に活きる立地と商品カテゴリーを見極め、そこに経営資源を集中させることこそが、高コストな環境下でも利益を生み出す近道になり得る。ドラッグストア戦国時代における各社の選択は、今後も業界の内外から注視されることになるだろう。
(文=BUSINESS JOURNAL編集部、協力=永田由紀/流通コンサルタント)
【主な参照データ】
マツキヨココ(3088) 2027年3月期 第1四半期決算短信
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