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年間5000トンと初年度250キロ…元気寿司と塚田農場、同じ「コメ自社生産」でも異なる狙い

2026.10.03 06:00 2026.10.02 19:08 企業
文=BUSINESS JOURNAL編集部、協力=杉田誠/外食産業コンサルタント

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●この記事のポイント
「令和の米騒動」をきっかけに、外食大手がコメの自社生産に乗り出した。年間約5000トンを使う元気寿司のゲンキGDCは、宇都宮に農業法人を設立し、将来500トン規模の生産を目指す。塚田農場のAPHDは静岡で初年度に250キロを収穫した。米価が5キロ2934円まで下がった今、両社の「川上化」の狙いとリスクを比べる。

 スーパーのコメ売り場の値札が、ようやく3000円を切った。農林水産省が9月25日に公表した全国約1000店舗の平均販売価格(9月14〜20日)は5キロ2934円。6週連続の値下がりで、今年1月につけた4416円と比べると3割以上安い。

 ただ、外食の調達担当者にとって、この2年間は「価格」だけの問題ではなかった。2024年夏の「令和の米騒動」では、必要な量をそもそも確保できるのかが揺らいだ。卸段階の指標である相対取引価格(全銘柄平均、玄米60キロ)は、24年9月の2万2700円から25年9月には3万6895円へ。前年同月比63%高で、1990年以降の最高値だった。店頭価格が下がり始めた26年7月時点でも3万2486円と、騒動前の水準には戻っていない。

 この間、外食大手の一部はコメの「買い方」そのものを見直し始めた。回転寿司「元気寿司」「魚べい」を展開するGenki Global Dining Concepts(ゲンキGDC)と、居酒屋「塚田農場」のエー・ピーホールディングス(APHD)は、いずれも2026年にコメの自社生産へ踏み出している。

 同じ「川上化」と括られがちだが、2社の中身はかなり違う。

●目次

年間5000トンのシャリを守る――ゲンキGDCの「重ねる調達」

 寿司チェーンにとって、シャリは代わりが利かない。ネタは季節や相場で入れ替えられても、コメを別の食材に置き換えることはできない。ゲンキGDCがグループで使うコメは年間約5000トンに上る(ビジネス+IT報道)。

 高騰は業績を直撃した。2025年4〜6月期は増収ながら営業利益が前年同期比18.2%減。26年3月期通期の営業利益は47億9700万円で、前期の67億9200万円から約3割減った。

 ここで一つ、粗い試算をしておく。相対取引価格の24年9月から25年9月への上昇幅(60キロ当たり1万4195円)を年間5000トンに当てはめると、単純計算で約11.8億円になる。玄米ベースの全国平均で、実際の契約価格や精米歩留まりは考慮していない。それでも営業利益の減少幅(約20億円)の半分強にあたる規模で、原価に占めるコメの重さを測る目安にはなる。

 同社の打ち手は一つではない。まず25年3月、親会社でコメ卸最大手の神明、JA全農とちぎ、JAうつのみやと4者で、栃木県産コシヒカリの産地契約を結んだ。続いて26年4月には、宇都宮市で長年営農してきた山口智三氏が設立した明地との合弁で、農業法人「清原Genkiファーム」(資本金5000万円)を設立。30ヘクタールの水田を持ち、約150トンから将来は約500トン規模まで拡大して、栃木県内店舗の年間使用分をまかなう計画だ。同社の計画では、9月に初年度の収穫、今秋から県内の店舗で提供を始める。

 見落とされやすいのは、これが「JA離れ」ではない点だ。JAを含む産地契約、親会社の卸機能、そして自社生産。調達ルートを重ね、どれか一つが詰まっても止まらない構造を組んでいると見るほうが実態に近い。500トンはグループ使用量の約1割にとどまる。主力はあくまで契約調達で、自社圃場は価格と数量の「錨」の役目を担う。

「大量消費型の業態で、全量を自前で作るのは現実的ではありません。自社で田んぼを持つ意味は、生産コストや作柄の実態を自分たちで把握できることにある。それが産地や卸との価格交渉で効いてきます」(外食産業コンサルタント・杉田誠氏)

 同社はサーモンやイクラ、マダイの養殖にも乗り出しており、藤尾益造社長は「川上戦略」を掲げる。コメはその一角という位置づけだ。

初年度は250キロ――塚田農場の「小さな田んぼ」

 APHDの取り組みは、規模の点でまったく異なる。日本経済新聞の報道によると、同社は静岡県小山町を通じて農地を借り、9月上旬に初めての自社栽培米を収穫した。初年度はコシヒカリ250キロ程度。外食事業で使うほか、外部販売も視野に入れるという。

 250キロは、ゲンキGDCが目指す500トンの2000分の1だ。この量で調達リスクを解消できないことは、同社も承知のうえだろう。

 それでも参入した理由は、同社の成り立ちを見ると分かりやすい。APHDは2006年に宮崎県日南市に自社農場を設け、みやざき地頭鶏の生産を始めた。生産から流通、店舗での販売までを一貫して手がける「生販直結」を掲げ、自社と提携農家で育てた地鶏を店で出してきた。弁当事業でも、秋田県大潟村の生産者と産地に何度も足を運びながら取引を続けている。

 この延長線上で見れば、コメの自社生産は「小さく始め、栽培と流通の知見を社内に貯める」試みと読める。居酒屋は寿司店に比べてコメの使用量が少なく、生産量が限られても「自分たちで作ったコメ」として店で価値を伝えやすい。重心は量の確保より、ブランドの一貫性と産地との関係づくりにある。

「居酒屋でコメは主役ではありませんが、締めの一品や弁当では満足度を大きく左右します。小規模でも自分たちで作った経験があれば、契約農家と栽培の話を同じ言葉でできるようになる。数字には表れにくいものの、長い目で見ると調達の質が変わってきます」(同)

 2社の戦略を並べてみる。

●ゲンキGDC(元気寿司・魚べい)
コメの位置づけ シャリ=主原料、代替不可
使用規模    グループ年間約5000トン
主な調達手段  産地契約(神明・JA)+合弁農業法人
自社生産の規模 将来約500トン(使用量の約1割)
主な狙い    価格・数量の安定、交渉力
主なリスク   天候・人手不足、農業法人の固定費

●APHD(塚田農場)
コメの位置づけ 締め・定食・弁当を支える脇役
使用規模    非公表(寿司業態より小さい)
主な調達手段  産地との直接取引+借地での自社栽培
自社生産の規模 初年度約250キロ
主な狙い    生販直結の延長、知見の蓄積、ブランド
主なリスク   規模の小ささによる割高な生産コスト

 どちらが正しいという話ではない。コメが原価の柱なのか、体験価値の一部なのか。その違いが、川上への入り方を決めている。

米価が下がると「川上化」は損になるのか

 避けて通れない問いがある。米価が下がり始めた今、自前の田んぼは割高にならないか、という点だ。

 2025年産の主食用米等の生産量は747万トンで、前年の679万トンから増えた。民間在庫は例年を大きく上回り、26年産の新米が平均を下回る値で出回る例も出ている。9月18日に就任した簗和生農水相は、営農の継続が非常に厳しい状況になりつつあるとの危機感を示した。

 市場で安く買えるなら、農機や人件費といった固定費を抱える自社生産は「高い買い物」になり得る。これは事実だ。

 ただ、川上化の価値をその年の仕入れ値の高い安いだけで測るのは一面的だろう。コメは卸段階で1年のうちに6割上がり、店頭では1年足らずで3割下がった。振れ幅の大きさそのものがリスクであり、自社生産や長期契約はその振れを和らげる「保険料」に近い。保険は、何も起きなかった年には割高に見えるものだ。

「価格が下がる局面こそ、離農のリスクは高まります。コスト割れが続けば、次に不作が来た年に作り手がいない、ということになりかねない。外食企業が一定量を安定した条件で引き受ける仕組みは、需給の振れを社会全体で吸収する意味も持っています」(同)

消費者にとって何が変わるのか

 ゲンキGDCの27年3月期第1四半期(4〜6月)は経常利益が前年同期比2.5%増と持ち直した。一方で売上高営業利益率は8.6%から6.9%に下がっている。コメ以外の食材や人件費の上昇は続いており、外食の原価環境が楽になったわけではない。

 外食企業の川上化は、すぐに値下げにつながる話ではない。ただ、次にコメの価格が跳ねたとき、値上げの幅やタイミングを抑える余地を企業が持てるかどうかには関わってくる。高齢で営農を続けられなくなった農地を外食企業が引き受ける動きは、地域農業の担い手問題とも重なっている。

 寿司のシャリも、居酒屋の締めのご飯も、どこかの田んぼから来ている。そのルートを誰がどう組み立てているのか。値札の数字だけでなく裏側の構造に目を向けると、外食の「価格」が少し違って見えてくる。

(文=BUSINESS JOURNAL編集部、協力=杉田誠/外食産業コンサルタント)

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公開:2026.10.03 06:00