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すかいらーくHD、10年ぶり最高益の裏側…ネコ型ロボットで値上げと客離れ防止を両立

2026.08.24 06:00 2026.08.23 22:24 企業
文=BUSINESS JOURNAL編集部、協力=杉田誠/外食産業コンサルタント
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ガストの店舗(「Wikipedia」より)

●この記事のポイント
すかいらーくホールディングスは2026年12月期の純利益予想を22.4%増の205億円に上方修正し、10期ぶりの最高益を見込む。約2100店への配膳ロボット導入と卓上タブレット注文による省人化DXが人件費上昇を吸収し、地域別価格制と一人客に気を遣わせない接客が客単価を押し上げた構造を分析する。

「ガスト」「バーミヤン」「ジョナサン」などを展開するすかいらーくホールディングス(HD)が、好調な業績を発表した。2026年8月13日、同社は2026年12月期(通期)の連結純利益(親会社の所有者に帰属する当期利益)予想を、従来の195億円から205億円へと5.1%上方修正した。前期(167億円)比では22.4%の増益にあたり、実現すれば10期ぶりの最高益更新となる。配当予想も1株26円から27円へ引き上げた。

 背景にある上期(1〜6月)の実績も強い。売上収益は2424億5700万円(前年同期比9.7%増)、営業利益は168億5700万円(同20.9%増)、純利益は101億8100万円(同29.2%増)。既存店売上高は6.4%増で、客数・客単価がともに伸びた。1〜3月期だけを見ても純利益は前年同期比27%増と、四半期を通じて増益基調が続いている。

 かつて「安さ」を武器にデフレ期を勝ち抜いてきたファミリーレストランの雄が、原材料費や人件費が上昇し続けるインフレ局面で、なぜここまで利益率を伸ばせているのか。単純な値上げだけでは、この数字は説明がつかない。すかいらーくの決算からは、コスト構造そのものを組み替える「現代の構造改革」の姿が浮かび上がる。

●目次

損益分岐点を下げる「省人化DX」の構造

三種の神器がつくる「無言のオペレーション」

 すかいらーくグループの店舗を訪れると、入店から退店までスタッフとほとんど会話せずに食事を終えられることに気づく。入り口の受付、卓上タブレットでの注文、料理を運ぶ配膳ロボット、会計時のセルフレジ・自動つり銭機(グローリー製の機器を全国規模で採用)という一連の仕組みが、注文から会計までを自動化している。

 同社は2022年末までに、グループの主力業態を中心に約2100店舗へ配膳ロボットの導入をほぼ完了させた。ロボット本体の価格はメーカーやモデルによって幅があるものの、300万円台半ば(サブスクリプション契約であれば月額10万円程度)が目安とされる。時給1200〜1500円のスタッフが開店から深夜まで16時間稼働した場合の人件費は月50万〜60万円規模になる計算で、業界関係者の試算では導入コストを半年〜1年程度で回収できるとされる。配膳・下げ膳という定型作業をロボットに置き換えることで、店舗当たりに必要な人時(レイバーアワー)そのものを圧縮し、インフレによる時給上昇分を吸収する構造をつくった格好だ。

「配膳ロボットの本質的な価値は、単なる人件費の代替ではありません。スタッフを単純作業から解放し、接客の質や調理のクオリティ管理といった付加価値の高い業務に再配置できる点にあります。人手不足が慢性化する外食業界にとって、省人化投資はもはや選択肢ではなく前提条件になりつつあります」(外食産業コンサルタント・杉田誠氏)

一律値上げを避けた、きめ細かな価格戦略

 すかいらーくはインフレ対応として、一律の値上げではなく精緻な価格戦略を採ってきた。2022年9月には「地域別価格制」を導入し、店舗を都市中心部・都市周辺・地方中心部・その他の4区分に分け、立地の賃料や競合状況に応じて価格に差をつけている。2025年7月の価格改定では、ガストの都市型店舗は対象商品の約7割を平均6%、地方型店舗は約6割を平均3%値上げする一方、ジョナサンは対象を約3割・平均5%にとどめるなど、業態・立地ごとに強弱をつけた。グループ全体では全商品の約5割を平均5%値上げする内容だった。

 さらに2024年11月には、アプリ会員向けに需要へ応じて割引額が変動する「ダイナミッククーポン」を導入した。客単価を確保したい都市部では定価に近い価格を維持しつつ、客離れが懸念される郊外店では割引で実質的な負担を抑えるという、値上げと客数維持を両立させる仕組みだ。

「接客しないこと」が引き寄せた「ソロ客」という金脈

省人化が「余計なお世話をされない快適さ」に転じた

 省人化DXは本来、コスト削減が目的だった。しかし結果として、これが新しい顧客体験としての価値を持ち始めている。「丁寧な接客こそが良いサービス」という従来の常識に対し、現代の一人客には「店員と話したくない」「注文を急かされたくない」「自分のペースで頼みたい」という潜在的なニーズがある。卓上タブレットで好きなタイミングに追加注文でき、配膳ロボットが料理を運び、会計もセルフレジで完結する動線は、こうした「ほっといてもらいたい」という心理と偶然にも合致した。

「これまで飲食店の接客は、いかに手厚く気を配るかが評価軸でした。しかし一人客にとっては、店員との会話それ自体が心理的なコストになり得ます。すかいらーくの無人化は結果的に、対人ストレスを取り除いた快適な滞在空間を提供することになった。これは狙って生まれたというより、省人化投資と消費者心理の変化が偶然噛み合った好例だと見ています」(同)

「ファミレスの書斎化」と客単価の押し上げ

 ガストには以前から、仕切り付きの一人席や電源・Wi-Fiを備えた席が用意されており、テレワークや学習、一人での食事・飲酒の場として利用されてきた経緯がある。無人化オペレーションによって「誰にも見られず、急かされず、長時間滞在できる」空間としての価値がさらに高まり、こうした席は在宅勤務者や受験生、一人での息抜きを求める社会人の受け皿になっている。

 滞在時間が延びれば、追加注文の機会も増える。卓上タブレットでの注文は、店員を呼び止める心理的なハードルがないぶん、「ワインをもう一杯」「デザートも追加で」といった注文が起こりやすい。既存店売上高の伸びが客数・客単価の両輪で支えられているという今回の決算は、こうした一人客の滞在価値向上が積み上がった結果とも解釈できる。

他業界にも応用できる「インフレ耐性」の作り方

「サービス」の再定義

 すかいらーくの事例が示すのは、すべての顧客が同じ濃度の接客を求めているわけではないという点だ。家族連れやビジネス利用など複数の客層を抱える外食チェーンにとって、ターゲットごとに「本当に必要なサービス」を見極め、過剰な部分をそぎ落とす判断力が、コスト構造の見直しにつながる。これは飲食業に限らず、小売や宿泊など労働集約型のサービス業全般に応用できる発想だろう。

「人手不足とコスト高が同時に進む局面では、『人にしかできないこと』と『機械に任せてよいこと』を切り分ける設計力が競争力の差になります。すかいらーくのケースは、その線引きを比較的早い段階から進めてきた成果が、インフレ耐性という形で表れたと言えるでしょう」(同)

 実際、ファミリーレストラン業界の月次動向を見ても、各社の戦略の違いは既存店売上高の伸び方に表れている。2026年1月の既存店売上高(前年同月比)は、すかいらーくが10.3%増だったのに対し、高回転・低価格路線を貫くサイゼリヤは21.6%増と、より高い伸びを記録した。省人化と価格戦略を組み合わせたすかいらーく型と、徹底した効率化で低価格を維持するサイゼリヤ型は、同じ「インフレ耐性」でもアプローチが異なる。どちらか一方が唯一の正解というより、自社の顧客層や立地特性に合わせて手法を選び取ることが重要だといえるだろう。

現場の疲弊を防ぐDXという視点

 省人化DXのもう一つの意義は、人手不足下で現場を疲弊させずに事業を回す仕組みづくりにある。全スタッフに接客対応を求めるのではなく、定型作業をロボットやセルフレジに任せ、人間は清掃や調理品質の管理など、顧客体験の根幹に関わる業務に集中する。これにより、限られた人員でも店舗運営の質を維持しやすくなる。人的資本への負荷を抑えながら生産性を高めるという意味で、他業界の経営企画・DX担当者にとっても参考になる視点だ。

無人化がすべての客層に最適とは限らない

 もっとも、省人化DXが万能というわけではない点には留意が必要だ。小さな子ども連れの家族客や高齢者の中には、スタッフによる細やかなサポートを求める層も一定数存在する。卓上タブレットの操作に不慣れな利用者への配慮や、トラブル発生時に人手で対応できる体制を残すことも欠かせない。すかいらーくが完全無人化ではなく、ロボットやタブレットと有人スタッフを併存させる設計を採っている点は、こうしたリスクへの目配りとも読み取れる。効率化の追求と顧客対応の丁寧さは、常にバランスの取れた設計が求められる。

ネコ型ロボットが運んできたのは「コスト削減」だけではなかった

 すかいらーくの好決算は、単純な「値上げ成功ストーリー」として片づけられるものではない。地域別価格制やダイナミッククーポンによる精緻な価格戦略、配膳ロボットや卓上タブレットによる省人化投資、そして「ほっといてくれる」空間がもたらした一人客の滞在価値向上——これらが積み重なった結果として、今回の増益がある。

 もともと生産性向上のために導入された省人化ツールが、変化する消費者心理と噛み合い、コスト削減と顧客満足の両立という思わぬ相乗効果を生んだ。これこそが、インフレ時代を生き抜くための「現代の構造改革」の正体だと言えるだろう。すかいらーくの取り組みは、価格転嫁の巧拙だけでなく、「顧客が本当に求めているものは何か」を問い直す好例として、外食に限らず幅広い業界にとって示唆に富む。

(文=BUSINESS JOURNAL編集部、協力=杉田誠/外食産業コンサルタント)

【主な参照データ】
決算:すかいらーく純利益22%増に上振れ 生産性磨きインフレに耐性 – 日本経済新聞
・すかいらーくホールディングス、今期最終を5%上方修正・最高益予想を上乗せ、配当も1円増額 – 株探
・すかいらーくHD 決算/1~6月増収増益、既存店売上高6.4%増・通期予想を上方修正 – 流通ニュース
・すかいらーく、純利益27%増 1~3月 – 日本経済新聞
・すかいらーくHD 決算/1~3月、既存店成長・原価低減で増収増益 – 流通ニュース
・すかいらーく、「ネコ型配膳ロボット」全国2100店舗に導入完了 どんな効果があった? – ITmedia ビジネス
・人間を雇うより、どれだけ安上がり? 配膳ロボットの人件費効果を計算してみた – ITmedia ビジネス
・ガストの猫型配膳ロボット「1台・330万円」が驚くほど安いといえる理由 – ビジネスジャーナル
・すかいらーく/ガスト・バーミヤンで地域別価格導入し値上げ – ダイヤモンド・チェーンストアオンライン
・ガスト、値上げしても客離れず すかいらーくHDの「二極化」戦略とは – ITmedia ビジネス
・ファミレス/1月既存店すかいらーく10.3%増、サイゼリヤ21.6%増 – 流通ニュース
・ガスト「ひとり客」向けボックス席が話題に 仕切り、電源、Wi-Fi…まるでネットカフェ – J-CAST

BusinessJournal編集部

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公開:2026.08.24 06:00