資さんうどん、突如PayPay取扱停止の裏側…関東進出の熱狂の陰で、「稼ぐ力」への挑戦

●この記事のポイント
・資さんうどんがPayPayを前日告知で突如停止。関東進出で熱狂する裏で、決済手数料という「数%」が利益を左右する外食の厳しい現実と、聖域なき経営改革の実像を追う。
・すかいらーく傘下入り後、全国展開を急ぐ資さんうどん。PayPay離脱は顧客利便性より「稼ぐ力」を選んだ決断だった。プラットフォーマーと加盟店の力関係を映す象徴的事例。
・シェア首位のPayPayを切る大胆な判断は、商品力への自信の裏返しでもある。不便さをファンは許容するのか。資さんうどんの選択は外食業界全体に波及する可能性を秘める。
「明日からPayPayは使えません」——。2025年12月、北九州発の人気うどんチェーン「資さんうどん」を巡り、外食業界をざわつかせる決断が下された。
運営する株式会社資さんは、12月16日をもってキャッシュレス決済大手・PayPayの取り扱いを停止。発表があったのは前日の15日で、実質“前日告知”という異例のスケジュールだった。SNS上では「突然すぎる」「なぜPayPayだけ?」と困惑の声が相次いだ。
同社は理由について「総合的な経営判断」と説明するにとどめている。しかし、クレジットカードや楽天ペイ、d払いなどは継続されている。なぜ、国内シェア首位のPayPayだけが外されたのか。この一点に、資さんうどんが直面する構造的な経営課題と、親会社・すかいらーくHDの冷徹な合理化思想が凝縮されている。
●目次
前日告知という異例の「決別」が示すもの
PayPayは、国内キャッシュレス決済の中でも圧倒的な存在感を誇る。経済産業省の調査でも、コード決済の利用率・認知度はいずれも首位級だ。そのPayPayを、しかも前日告知で外すという判断は、単なる運用変更とは考えにくい。
流通事情を詳しく知る戦略コンサルタントの高野輝氏は、次のように指摘する。
「通常、決済手段の停止は数週間から1カ月以上前に告知します。前日告知ということは、交渉が最後まで決裂寸前だった可能性が高い。むしろ“やむを得ず”というより、“腹を括った”決断に見えます」
顧客の利便性を犠牲にしてでも、コスト構造を守る。その覚悟がなければ、シェアNo.1の決済手段を切る判断はできない。
関東進出で証明された「資さんブランド」の熱狂
今回の決断を理解するには、現在の資さんうどんが置かれている“絶好調”の状況を押さえる必要がある。
2024年、外食最大手のすかいらーくホールディングスは、資さんを約240億円で完全子会社化。その直後から本格化した関東進出は、想像以上の反響を呼んだ。
千葉県内や東京都八王子市にオープンした店舗では、連日数時間待ちの行列が発生。名物の「肉ごぼ天うどん」、締めの「ぼた餅」を目当てに、北九州出身者だけでなく“初体験”の首都圏客が殺到した。
資さんの最大の特徴は、単なるうどん専門店ではなく、100種類超のメニューを抱える「うどんファミレス」としての完成度にある。24時間営業、出汁の鮮度管理、小石原焼の器など、効率一辺倒では説明できないこだわりが積み重なり、強烈なファン層を形成してきた。
この「行列ができる」という事実こそが、今回の意思決定の前提条件になっている。
「すかいらーく流」経営改革の本質
一方で、全国展開は“夢”だけでは続かない。すかいらーく傘下に入った資さんには、当然ながら収益改善という現実的なミッションが課される。
外食業界の営業利益率は、一般的に2〜5%程度。原材料費、人件費、光熱費が高止まりする中、決済手数料は「たった数%」でも利益構造を直撃する。
「うどん一杯600〜700円の世界で、決済手数料が1〜2%違うだけでも、利益の2〜3割が吹き飛ぶ計算になります。多店舗展開フェーズでは、看過できないコストです」(高野氏)
特にPayPayは、圧倒的な利用者数を背景に、加盟店側との条件交渉で強い立場にあるとされる。注目すべきは、すかいらーく本体ではPayPayが引き続き利用可能である点だ。
グループ一括交渉で条件改善ができなかった、あるいは資さんの単価・回転率では折り合えなかった——。そのいずれか、あるいは両方だった可能性が高い。
利便性より「稼ぐ力」を選んだという覚悟
今回の判断は、プラットフォーマーと加盟店の力関係を象徴する出来事でもある。
「PayPayが使えないなら行かない」という顧客離れのリスク。一方で、高い手数料を払い続け、利益を削り続けるリスク。
資さんが選んだのは、後者を断ち切る道だった。
「短期的には不便さへの不満は出るでしょう。ただ、商品力に自信があるからこそできる判断です。手数料を払うより、品質維持や人材投資に回すほうが、長期的にはブランド価値を守れます」(同)
性急とも映る停止スケジュールは、むしろ「譲歩なき決裂」を物語っている。
ファンは「不便さ」を許容するのか
キャッシュレス決済が生活インフラとなった現代において、シェアNo.1を切る判断は大きな賭けだ。しかし、資さんうどんには「行列を作ってでも食べたい」という強力な武器がある。
「PayPayは使えないが、味は変わらない」このメッセージがファンに受け入れられれば、外食業界全体に波及する可能性もある。
すかいらーく傘下で進む、聖域なきコスト改革。「幸せを一杯に」というスローガンの裏側で断行された今回の決断は、ローカルの名店が全国ブランドへ進化できるかを占う試金石となるだろう。北九州が生んだ至宝は、巨大資本の中でもその輝きを失わず、真の全国制覇を成し遂げられるのか——。資さんうどんの「PayPay離脱」は、その問いを私たちに突きつけている。
(文=BUSINESS JOURNAL編集部)











