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なぜか牛丼業界で松屋のみ赤字→突如に黒字転換の理由…高価格設定の巧妙戦略

文=福永太郎/編集者・ライター、協力=堀部太一/外食・フードデリバリーコンサルタント
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松屋の店舗

 大手牛丼チェーン3社の2024年3月期(吉野家ホールディングスは24年2月期、以下同)第1四半期の業績を見ると、ゼンショーホールディングス(HD)が運営する「すき屋」が一人勝ちの様相を呈し、吉野家HDが運営する「吉野家」が追従している。一方、松屋フーズHDが運営する「松屋」だけが営業赤字になり、一部で話題になった。しかし、第2四半期の決算を見ると、松屋フーズHDは営業利益がプラスに転じている。そこで今回は、松屋が営業赤字から回復した経緯、そして今後の動向について、外食・フードデリバリーコンサルタントの堀部太一氏に話を聞いた。

牛丼チェーン3社とも増益

 まずは、各社の直近の24年2月期第2四半期決算を見ていこう。

・ゼンショーHD
売上高:4,526億円 前年同期比 120.5%
営業利益:253億円 前年同期比 3.1倍

・吉野家HD
売上高:916億円 前年同期比 112.0%
営業利益:39.8億円 前年同期比 3.7倍

・松屋フーズHD
売上高:590億円 前年同期比 115.5%
営業利益:16億円 前年同期比 6.9倍

 各社、軒並み増益となっている。好調の理由について堀部氏はいう。

「牛丼チェーン3社の業績は、コロナ禍の影響で一時低迷しました。とくにオフィス街や繁華街に出店した店舗は、行動制限の影響が顕著でした。現在は出社比率が高まり、コロナ禍以前のような業績に回復してきたという印象です」

松屋が出遅れた理由は、出店立地の差

 ここで改めて各社の第1四半期の決算を振り返ってみたい。ゼンショーHD(「グローバルすき家」部門)は売上高が616億7100万円(前年同期比 24.5%増)、営業利益が37億900万円(同2396.3%増)と好調が際立った。吉野家HD(「吉野家」部門)は売上高が296億6600万円(同 6.9%増)、営業利益が15億7300万円(同 6.0%増)と、すき家には及ばないものの前年より回復傾向に。松屋フーズHDは売上高が281億円(同12.6%増)と増加したものの営業損益は3800万円の赤字だった。

 この結果を受けて、松屋のみを「負け組」とする評価も見られた。前年同期が2億6800万円の赤字だったことを考えると回復傾向といえるが、大幅増益となったすき家に比べるとその差が明白なようにも見える。松屋が出遅れた理由は、出店している立地の差が大きかったという。

「牛丼業態は、松屋を含めて主に男性客をターゲットとしており、オフィス街や繁華街を中心に店舗を展開しています。しかし、このような立地条件は、近隣に住んでいる人の数が少ないため、コロナウイルスの影響で在宅勤務に移行したことにより、客数が減少することは避けられませんでした。松屋は20年度に客数が大幅減少し、リカバリーに時間がかかりましたが、出社率の向上とともに客数が戻ってきた結果、売上・営業利益も回復していきました。

 すき家の場合、ファミリー層をターゲットとして、郊外のロードサイド店舗の展開にも注力していました。店舗の周辺にはマンションや一軒家などの住宅があり、生活範囲内で通えるため、コロナ禍の巣ごもり需要にも対応することができました。そのため、他社よりもコロナ禍の影響を受けずに済んだのです」

 公益財団法人日本生産性本部が23年8月に発表した調査によると、テレワーク実施率は15.5%とコロナ禍以降で最低になった。20年5月の調査の31.5%に比べると、およそ半分の水準となる。やはりデータを見ても、出社率の向上と営業利益の回復には大きな相関関係がありそうだ。

ビルイン型店舗の再開、高価格帯メニューの販売

 人流がコロナ禍以前に戻りつつあることから、松屋フーズHDの営業利益は回復傾向にあるが、回復を待つだけでなく並行してさまざまな施策を講じている。

「短期的な成果につながりやすい施策として、駅前のビルに入居する『ビルイン型店舗』の再開があります。ビルイン型店舗は、駅を利用する際の衝動的な来店によって成り立っていましたが、コロナ禍により駅利用者が減少したことで、需要も減少しました。現在は、インバウンドによる訪日外国人観光客の増加を見越して出店を再開しているようです。また、中長期的な施策として、ロードサイド型店舗の比率を向上させることを目指しています。これは、コロナ禍と同じようなパンデミックが生じた際のリスク分散にも繋がってきます。

 さらに、松屋・松のや(とんかつ専門店)・マイカリー食堂(カレー専門店)の松屋フーズ3業態複合店舗もオープンしています。これにより、一店舗で複数のメニューが注文可能となり、来店頻度の向上を狙っていると考えます」

 23年11月28日には期間限定で、牛丼チェーンのなかでも強気の価格のメニュー「ビーフ100%ハンバーグ定食(1,090円 税込)」が導入されている。これには、どのような意図があるのか。

「今後は、最低賃金の引き上げとともに人件費の高騰が予想されており、客単価を上げるために、松屋にかかわらず業種業態問わず、プレミアムな予算帯へのチャレンジが進んでいます。今年は丸亀製麺の『鴨ねぎうどん 並盛』(820円)やモスバーガーの『一頭買い 黒毛和牛バーガー シャリアピンソース 〜トリュフ風味〜』(860円)も話題になりました」

 23年はWHOが新型コロナ「緊急事態宣言」の終了を発表し、人の流れも大きく変わった。今後はインバウンドの需要増加も予想され、売上にも影響を及ぼすだろう。24年はどのような年になるのか。大手牛丼チェーン3社の競争から、今後も目が離せない。

(文=福永太郎/編集者・ライター、協力=堀部太一/外食・フードデリバリーコンサルタント)

堀部太一/外食・フードデリバリーコンサルタント

堀部太一/外食・フードデリバリーコンサルタント

関西学院大学卒業後、船井総研に入社しフード部のマネージャー職を勤めその後事業承継と起業。直営では外食8店舗・中食4業態を運営しつつ、月20数社の飲食企業を経営サポート。事業規模は年商2,000万〜1兆円企業まで幅広いです。外食/フードデリバリーが専門領域。

Twitter:@horibe0110

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