4~5月頃に使いにくいという声が広まり、一部メディアでニュースとしても取り上げられていた大手牛丼チェーン「松屋」の注文用タッチパネル式券売機。それから数カ月が経過した今、いまだに使いにくいとして一部で話題を呼んでいる。ネット上では「半泣きで券売機の使い方ググってる人」「やたら重いし無駄に操作回数多いし不便」「牛めし2個持ち帰りしようとしただけでテンパった」といった声や、操作したものの買うのを断念して帰ってしまう人もいるという声もみられる。果たして松屋の券売機は改良されたのか。業界関係者の見解も交えて追ってみたい。
全国に1000店以上を展開する飲食店チェーンだけに、何かと話題になることも多い松屋。今年1月には根強いファンが多い「オリジナルカレー」の代わりに一気に200円アップさせた『松屋ビーフカレー』を680円(税込み/以下同)で発売したかと思えば、8月には100円値下げして味を変更し、一部からは不評の声もあがった。9月にはランチセットの提供終了を従来の15時から14時に前倒しして1時間短縮し、「牛めしランチセット(並盛)」を550円から500円へ50円値下げしたものの、単品注文では80円の玉子がセットから省かれたため、事実上の値上げではないかという声も出ていた。
このほか、先月28日に期間限定で発売された「ビーフ100%ハンバーグ定食」の各種メニューが軒並み1000円を超えていることについて、SNS上では「もう貧乏人は利用できない」「その値段なら違う店を選ぶ」などと悲鳴が続出したことも記憶に新しい。
松屋を運営する松屋フーズホールディングス(HD)は業績的には大きな節目を迎えている。21~22年3月期は営業損益が赤字に陥ったが、23年3月期は黒字に転換。だが23年4-6月期は「すき家」を展開するゼンショーHDの牛丼事業、吉野家HDの牛丼事業がともに営業黒字の一方(吉野家HDは23年3-5月期)、松屋フーズHDはとんかつ部門などを含む会社全体で営業赤字に。だが、23年7-9月期は営業黒字となっており、通期では黒字予想となっている。
5月時点での使い勝手
そんな松屋に以前からつきまとっているのが、縦長タッチパネル式券売機の使い勝手に関する不評だ。ニュースなどでも大きく取り上げられた5月時点での操作プロセスはこうだ。トップページに「店内」「お弁当」という2つのボタンが表示され、「店内」を押下すると、「カテゴリーをお選び下さい」という案内文の下に「期間限定おすすめメニュー」「牛めし」「丼」「カレー」「サイド・ドリンク」などのボタンが表示され、押下すると各カテゴリーのメニューが表示。画面には6個ずつメニューが表示され、そのなかに希望のメニューがない場合は右下の「次へ」を押していく。希望するメニューのボタンを押下すると、画面の遷移に従って「並盛」などのサイズや「生野菜生玉子セット」などのセットを選択していき、右下の「カートに追加」を押下。別のカテゴリーのメニューを選びたい場合は、上部に表示されている「カレー」「丼」「ハンバーグ定食」などの各カテゴリーを示すボタンを押下するかたちになる。
そして注文したいメニューをすべて入力したら、右下の「注文する」を押して、「dポイントカードをお持ちですか?」という画面に遷移し、「いいえ」を押すと、「現金」「交通系IC」「QRコード」「電子マネー」など支払い方法を選ぶ画面に移る。支払い処理が完了すると券売機右下の口に食券が出てくるという流れだ。ちなみに店舗によっては、操作方法が違う横長式のタッチパネルの券売機が設置されているところもある。
5月時点での券売機のユーザビリティーについて、当時掲載した当サイト記事にてIT企業のSEは次のように評価していた。
「たとえば牛めしのメニューを選んでいるときに他のカテゴリーのメニューのページに行こうとすると、どのボタンから行けばよいのかわかりにくい。最初のカテゴリー選択ページの上部には『カテゴリー選択後もタブで変更できます』と表示されものの、視線はすぐに中央部の大きな各カテゴリーを示すボタンに行くので、その文言に気が付く人のほうが少ないのでは。あるカテゴリーのメニューを見ている際、画面上部に他のカテゴリー名が書かれたボタンが表示されているものの、そこにあること自体に気が付きにくいのに加え、すべてのカテゴリーが表示されているわけではなくユーザーが自分で横にスクロールさせて表示させる方式なので、見たいカテゴリーが表示されていないと『行きたいカテゴリーが見つからない』となってしまう恐れがある。
また、丼もののサイズを選んだ後に遷移する画面で『ご一緒にいかがですか』という表示の下に『生野菜生玉子セット』など追加のセットメニューが並び、セットメニューを注文しない場合は何も選択せずに右下の『カートに追加』を押す必要があるが、セットメニューは追加しなくてもよいということに気が付かず何かを選んでしまう人もいるかもしれない。
このほか、各カテゴリーごとのメニュー表示画面で、右下の『次へ>』ボタンのすぐ下に十分なスペースがなく『全取消』ボタンがあるのも、押し間違って入力した情報をすべてクリアしてしまうという事態を誘発する懸念がある」
松屋モバイルオーダーの利用増加に注力か
その後は操作方法に変更が加えられたが、現在でもネット上では以下のような声がみられる。
<キャンセルボタンの位置が初見殺し>
<これホンマなんなん 種類選ぶ→量選ぶ→付け合せ選ぶの3回タップじゃあかんの?>
<処理がおそくて反応が悪い しつこいオススメ、キャンセルもわかりにくい>
<異様に時間かかって後ろに行列作ってから結局何も買えずに帰って行く人は月1くらいで見る>
<昔のボタン式の券売機のボタンレイアウトをそのまま表示すればいいだけなんだけどな>
12月に券売機を使用したIT企業SEはいう。
「『牛めし』の並盛を選ぶと、『もう一品』をレコメンドする画面が表示され、『ポテサラ生野菜』を追加したかったのだが、その画面のなかにはなく、上のほうに『もう一品』のようなボタンがあったので押したが、何も反応がなく、どうすればよいのかわからず手が止まってしまった。下のほうをみると小さな『追加購入する』というボタンがあったので押すと、画面が遷移したものの、どこを押せば『ポテサラ生野菜』が出てくるのかわからない。上に『牛めし』『カレー』などのカテゴリー別のボタンが並んでいるが、『サイドメニュー』のボタンがなく、戸惑っていると、そのカテゴリー別ボタンの両端に矢印ボタンがあることに気が付き、それを押すと別のカテゴリー別ボタンが複数表示されたものの、そこにも『サイドメニュー』ボタンがない。何度か矢印ボタンを押していると、『おつまみ』というボタンが出てきて、これだと思って押したが、『ポテサラ生野菜』は出てこない。再びいろいろ操作していると『サイドメニュー』というボタンが出てきて、それを押してようやく『ポテサラ生野菜』が表示されたが、気が付くと後ろに4人くらい他の客が並んで行列ができていてテンパってしまった。ちなみにその店舗には一つしか券売機がなく、常に3~5人の列ができていて、列をみて帰ってしまう客もいた。
別の日に『牛生姜焼定食』の生野菜サラダ抜きのライスセットを注文しようとしたところ、カテゴリー別ボタンに『ライスセット』がなかったため、とりあえず定食カテゴリーを選ぼうと思ったが、定食関連だけで複数のカテゴリーがあり、どのカテゴリーに『牛生姜焼定食』があるのかわからない。いくつかカテゴリーボタンを押していると『牛生姜焼定食』を見つけ、生野菜サラダを抜きにするかライスセットを選ぼうと思ったが選べず、店員さんに『券売機でライスセットは注文できますか?』と聞いたところ、『ライスセット?』と聞かれたので、『生野菜サラダ抜きのやつです』と言ったところ、『多分できます』とのことで、店員さんに券売機を操作してもらったが、結局できず。気が付くと後ろに4人ほどの行列ができていたので、『すみませんでした』と謝って店を出た。ちょっと操作性に難があるのは否めないと感じる」
別のIT企業SEはいう。
「システムは大雑把にいうと『なんとなく使いやすくて操作中に迷うことがない』ものと、『なんとなく使いにくく操作中に迷う』ものに分けられるが、マクドナルドやすき家は前者、松屋は後者といえ、松屋の券売機は支払いが完了するまでにタップする回数が多くて時間がかかる。これは操作フローの設計の問題もあるだろうが、松屋のメニュー構成も影響しているのかもしれない。例えば定食で生野菜のサラダを抜いてメインの肉料理とライス、味噌汁のみにしたい場合、ライスセットという形態を選ぶことになるが、これは定食カテゴリーでは注文できない仕様になっている模様。なので、いったん定食を選んだ後にそれをキャンセルして、メイン、ライス、味噌汁をすべて単品でカートに入れる人も出てくるだろうが、そういう人は『これは面倒』と感じるだろう。また、丼物だけを単品で注文したい人にとっては、サイドメニューはいらないということをいちいち確認させられたり、どのボタンを押せばよいのかわかりにくいシーンもあり、イラっとしてしまうつくりになっている」
あまり改善はみられないようだが、外食チェーン関係者はいう。
「松屋は今、スマホアプリ『松屋モバイルオーダー』からのオーダーの比率を高めようと力を入れている。公式YouTubeチャンネルにも、店内で自席に座ったままスマホでオーダーできる便利さをPRする動画をアップしており、場所も占有して維持費もかかる券売機を減らしていきたいという思惑があるのだろう」
このYouTube動画では『券売機に並ばない!』というキャッチコピーが打ち出され、男性客が券売機の前にできた行列を一瞥しながら店内に入り、席に座ったままスマホアプリでオーダーするという内容だが、自社が設計した券売機でもたついている客を見下しているようだという反応も寄せられている。
すき家もタッチパネル式券売機を導入
松屋は券売機で発行される食券を客が持って席に着き、料理が出来上がると、受け取りカウンター上部にある画面上で食券に書かれた番号が出来上がりのステータスになり、客が自らカウンターに行き料理を受け取るという仕組みだ。松屋の公式アプリ「松屋モバイルオーダー」を使って来店前にスマホで注文と支払い決済を行い、表示されたQRコードを券売機にかざして食券を発行させることも可能。
参考に他の牛丼チェーンを見てみると、吉野家には券売機はなく(一部店舗を除く)、同店で見慣れたコの字型のカウンターかテーブル席に座ると店員がお茶を運んできてくれ、口頭で店員に注文する方式の店舗が多い。また、すき家は、入口付近の券売機、または席に置かれたタブレットから注文をするが、店員に口頭で注文することも可能。来店前にスマホアプリから注文・支払いすることも可能だ。
(文=Business Journal編集部)