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タピオカブーム終焉の裏で、なぜゴンチャだけが既存店52カ月増収を達成できたのか

2026.08.17 06:00 2026.08.15 15:35 企業
文=BUSINESS JOURNAL編集部、協力=杉田誠/外食産業コンサルタント
タピオカブーム終焉の裏で、なぜゴンチャだけが既存店52カ月増収を達成できたのかの画像1
ゴンチャの店舗(「Wikipedia」より)

一過性の流行を「日常の習慣」に変えた、ブランド再定義とDX(CX)戦略の全貌

●この記事のポイント
タピオカブーム終焉後も、ゴンチャは日本国内で既存店売上高52カ月連続増収を記録。「タピオカ専門店」から「アジアンティーの日常カフェ」へブランドを再定義し、LINEモバイルオーダー導入で複雑なカスタマイズを客単価向上に転換した。2026年にはベインキャピタルが約1000億円で買収し、220店舗・年間来客数約4000万人まで成長した実態を検証する。

 2018年前後、LCC(格安航空会社)の台湾就航ブームを追い風に日本中に広がったタピオカドリンク専門店。原宿や渋谷の路地裏に次々と看板が立ち並んだあの熱狂は、2019年をピークに急速に萎み、新型コロナウイルス禍による外出自粛も重なって、多くの店が静かに姿を消していった。

 ところが、当時「タピオカ専門店」の代名詞のようにも語られていたブランドのひとつ「ゴンチャ(Gong cha)」は、その波に飲まれなかった。それどころか、日本国内の既存店売上高は前年同月を上回り続け、その連続記録は2026年時点で52カ月に達しているという。外食業界が人件費・原材料費の高騰という逆風にさらされる中での、この持続的な成長は決して当たり前の現象ではない。

 なぜ「ブーム産業」の象徴だったはずのゴンチャだけが、消費者から選ばれ続けているのか。その裏側には、単なる商品力や運の良さでは説明できない、周到な「ブランドの再定義」と「DXによる顧客体験(CX)改革」という2つの構造改革があった。

●目次

ブームの終わりとともに消えた店、生き残った店

 タピオカドリンク専門店の多くは、「一度は飲んでみたい」という話題性・希少性を原動力に急拡大した。SNS映えする見た目と行列そのものが宣伝効果を持ち、出店コストの低さも手伝って新規参入が相次いだ。しかし、これは裏を返せば「目新しさが薄れれば需要も消える」という脆弱なビジネスモデルでもあった。実際、店舗の乱立によって希少性が薄れたところにコロナ禍の外出減少が重なり、多くの店が撤退を余儀なくされたと業界メディアは報じている。

 ゴンチャジャパンの角田淳社長は、ブーム終焉後も生き残れた理由について、「アジアのお茶がメーンの大手チェーンがほかにないのが大きいのでは」と分析している。つまり同社が生き残った要因は、タピオカという「一発商品」への依存を早期に脱し、業態そのものを再定義できたことにあったといえる。

「タピオカ屋」からの脱却――カテゴリーの再定義

 ゴンチャが打ち出したのは、「タピオカ専門店」ではなく「本格的なアジアンティーを日常的に楽しむティーカフェ」というポジションだった。タピオカはあくまでトッピングの一種であり、主役は茶葉そのものであるという原点回帰の姿勢を明確にしたのである。

 この再定義が持つ意味は小さくない。日本国内の茶市場は1兆円超とされ、コーヒー市場に匹敵する規模を持つ一方、カフェ市場(推計約7000億円)の中で「ティーカフェ」が占める割合はまだ1割にも満たないとされる。つまりゴンチャは、コーヒー中心のカフェ市場の中に、「コーヒーは苦手だが、缶ジュースでは物足りない」「小腹満たしにもなる満足感のある一杯を、移動中にサクッと飲みたい」という潜在ニーズが眠る空白地帯を見出し、そこに独自のポジションを築いたことになる。実際、同社はこの領域を「デザートドリンク市場」(推計約3000億円)と位置づけ、コーヒーチェーンとは異なる土俵で勝負する戦略を明確にしている。

「タピオカというプロダクトカテゴリーではなく、”お茶を主役にした嗜好飲料”という上位概念で自社を再定義できたことが、ブーム終焉後も生き残れた最大の要因でしょう。単一商品への依存を断ち切り、コーヒーが独占していた”日常のテイクアウト飲料”という巨大な需要を横から狙えたことは、カテゴリー戦略として非常に示唆に富みます」(外食産業コンサルタントの杉田誠氏)

「複雑な注文」を強みに変えたDXとCX改革

 お茶ドリンクの最大の特徴であり、同時に最大の弱点でもあったのが「カスタマイズの複雑さ」だ。茶葉の種類、甘さの度合い、氷の量、トッピングの組み合わせ——選択肢の多さは魅力である一方、対面でのレジ注文では回転率を落とし、行列や接客の遅延、さらには「注文に手間取って後ろの客を待たせる心理的なハードル」を生む要因にもなっていた。

 ゴンチャはこの弱点を、LINE公式アカウントを活用したモバイルオーダーの導入によって強みへと転換させた。2022年から段階的に展開されたこの仕組みでは、顧客はスマートフォンの画面上でじっくりと自分好みのカスタマイズを検討できる。レジ前で急かされることなく、むしろ「今日はどんな組み合わせにしようか」と選ぶこと自体を楽しめる設計になっている点が特徴だ。

 この仕組みがもたらす効果は一つではない。第一に、店舗側では注文データが自動的にキッチンへ連携されるため、聞き間違いによるオーダーミスが減り、レジ対応の負荷が下がる。第二に、顧客がじっくり選べるインターフェースは、トッピングやサイズアップといった追加オプションへの心理的抵抗を下げ、結果として自然な客単価の向上につながっているとみられる。第三に、2025年5月に開始した公式アプリ「My Gong cha」は、初日で約20万人、3ヶ月で150万人、2026年1月時点で約260万人の会員登録を集めており、購買データを活用したクーポン配信やスタンプ施策によって、来店頻度を高める仕組みとして機能している。

「複雑な注文プロセスをネガティブに捉えるか、”パーソナライズ体験”としてポジティブに転換するかは、DX投資の設計思想の差です。ゴンチャの場合、モバイルオーダーが単なる省人化ツールにとどまらず、顧客が”自分だけの一杯”を作る楽しさを演出する接客インターフェースとして機能している点が秀逸です。これは飲食業に限らず、カスタマイズ性の高い商品を扱う小売・サービス業全般に応用できる発想でしょう」(同)

数値が語るビジネスモデルの強靭さ

 ゴンチャの成長は感覚的な評価にとどまらない。日本国内の店舗数は2026年1月末時点で220店舗、年間来店客数は2025年に約4000万人に達しており、これはタピオカブーム最盛期と比較しても客数ベースで大きく上回る水準だとされる。フランチャイズ募集情報では、リピート率は約74%という高水準が示されている。

 出店戦略の面でも独自性がある。ゴンチャは厨房設備を大きく必要としない業態特性を生かし、10坪程度からの小型出店が可能で、大型客席を構えるコーヒーチェーンに比べてテイクアウト比率が高く、家賃負担の重い一等地の路面店だけに依存しない展開ができる。近年ではオフィスビルの上層階など、従来型カフェが敬遠しがちな「空中階」でも高い売上を上げる事例が出ているという。省スペース・高回転型のオペレーションは、FLコスト(食材費・人件費)や賃料負担のコントロールという意味でも、外食業態としての収益構造の強さにつながっている。

 この成長力は、資本市場からも高く評価されている。2026年8月、米投資ファンドのベインキャピタルが、ゴンチャの世界展開を統括するゴンチャグローバル(ロンドン)を1000億円超で買収することが明らかになった。取引は2026年第4四半期の完了が見込まれており、報道では、世界の店舗網の中でも日本事業が「稼ぎ頭」として評価されている点が指摘されている。ブーム後も安定した成長を続けてきた実績が、グローバルな投資判断にも直結した形だ。

他業種にも応用できる「ブームを日常に変える」3つの原則

 ゴンチャの事例は、単なる一飲食チェーンの成功談にとどまらず、流行に依存したビジネスが持続的な成長へと転換するための、再現性のある示唆を含んでいる。

 第一に、商品の本質を再定義し、一過性のトレンドから切り離すこと。「タピオカ」という話題性の高いトッピングではなく、「お茶を日常的に楽しむ文化」という普遍的な価値に軸足を移したことが、ブームの終焉というリスクからブランドを切り離した。

 第二に、顧客側の手間や複雑さを、DXによって「楽しい体験」へと昇華させること。カスタマイズの複雑さは効率化すべき「コスト」ではなく、パーソナライズという「価値」に転換しうる。この視点の転換こそが、モバイルオーダー導入を単なる省力化ではなく客単価向上の武器にした。

 第三に、生活動線の中に組み込まれる、テイクアウト・短時間滞在型のビジネスモデルを築くこと。通勤・通学、買い物のついでといった日常の隙間時間に自然と入り込める業態設計は、来店頻度の向上と安定した収益基盤の両方をもたらす。

 ブーム消費は、いずれ必ず終わりを迎える。しかしその終わりを前提に、商品の本質的な価値と顧客体験を磨き続けた企業だけが、次のステージへと進むことができる。ゴンチャの52カ月連続の既存店増収という数字は、一過性の流行がどうすれば「日常の習慣」へと定着しうるかを示す、貴重な実例だといえるだろう。

(文=BUSINESS JOURNAL編集部、協力=杉田誠/外食産業コンサルタント)

【主な参照データ】
・日本経済新聞/日経MJ「ゴンチャ、通って薦めて働くファン 外食逆風でも既存店52カ月増収」(2026年6月)
・日経クロストレンド「『ゴンチャ』V字回復の裏側 来店客数はタピオカブーム時の1.7倍」(2025年7月)
・流通ニュース「ゴンチャ/顧客もスタッフもファン化、28年客数6000万人・400店舗体制へ」(2026年1月)
・ダイヤモンド・チェーンストアオンライン「ゴンチャ、タピオカブーム終焉でも、店数を増やし続けられる納得の理由」(2024年11月)
・ビジネスチャンス「【ゴンチャ ジャパン】日本上陸10年で176店舗まで拡大」前編・後編(2025年4月号)
・日本経済新聞「ゴンチャを米ベインが買収へ 台湾発お茶専門店、1000億円超で年内に」(2026年7月)/共同通信社プレスリリース(2026年8月)
・株式会社ゴンチャジャパン フランチャイズ募集情報(アントレ)

BusinessJournal編集部

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公開:2026.08.17 06:00