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孤独は「1日15本の喫煙」に匹敵…ゲームとeスポーツが挑む健康長寿ビジネスの現在地

2026.10.03 05:55 2026.10.02 18:47 経済
文=BUSINESS JOURNAL編集部、協力=岩崎理恵/経営コンサルタント

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●この記事のポイント
米国の公衆衛生総監は社会的孤立の死亡リスクを「1日15本の喫煙に匹敵」と警告し、WHOは孤独に関連する死亡を年87万人と推計した。本稿はこれらを起点に、ゲームを活用した健康長寿ビジネスを検証する。取り上げる事例は、ゲーム型治療アプリ「エンデバーライド」の国内発売、STEPNの失速、八王子市・静岡市の健康ポイント、シニアeスポーツ。そこから事業化の条件と3つの壁を整理する。

 健康寿命を延ばすための投資が続いている。抗老化研究、再生医療、ウェアラブル端末。だが、その先にある問いは意外と置き去りにされている。体が元気になっても、毎日が退屈で話し相手もいなかったら、それは望んだ長寿と言えるのだろうか。

 これまで高齢者向けの娯楽といえば、テレビや趣味の教室など「時間を埋める」ものが中心だった。いま国内外で進んでいるのは、ゲームの仕組みを使って、脳を使う・体を動かす・人とつながるの3つを一体で設計しようとする動きだ。本稿では、デジタル治療、歩数インセンティブ、VR、シニアeスポーツの現状をデータで確かめながら、この領域がビジネスとしてどこまで成熟しているのかを整理する。

●目次

孤独は「健康リスク」として数値化された

 2023年5月、米国の公衆衛生総監(当時)ヴィヴェック・マーシー氏は勧告を出し、社会的つながりの欠如が死亡リスクに与える影響を「1日最大15本の喫煙に匹敵する」と表現した。根拠となったのは、米ブリガム・ヤング大学のジュリアン・ホルト=ランスタッド教授らによるメタ分析である。

 2025年6月には、WHO(世界保健機関)の「社会的つながりに関する委員会」が報告書を公表した。世界の6人に1人が孤独を感じており、孤独に関連する死亡は年間約87万1000人、1時間あたり約100人にのぼると推計している。

 認知症との関係も無視できない。2024年7月に英医学誌『ランセット』の委員会が公表した報告は、修正可能な14の危険因子に対処すれば認知症の約45%を予防・遅延できる可能性があると指摘した。そのうち高齢期の社会的孤立は約5%を占めると推計されている。

 日本に引き寄せて考えると、事の重さがわかる。総務省によれば、2026年9月15日現在の65歳以上人口は3624万人、総人口に占める割合は29.6%で過去最高だ。厚生労働省の研究班は、2025年の認知症高齢者を約472万人、軽度認知障害(MCI)を約564万人と推計している。

「つながり」は個人の気分の問題ではなく、医療・介護費や地域の活力にも響く社会的な変数になりつつある。とはいえ、「運動しましょう」「人と会いましょう」と言われて続けられる人は多くない。行動を変えるためのコストをどう下げるか。ここに、ゲームの手法を取り入れた設計(ゲーミフィケーション)の出番がある。

「孤立は本人が自覚しにくく、医療機関の側からも見えにくい。日常の楽しみの中に人と関わる接点を埋め込む発想は、予防の観点から理にかなっています。ただ、どの介入がどれだけ効くのかを語るには、研究の蓄積がまだ足りません」(美容・健康領域の事業開発に詳しい経営コンサルタント・岩崎理恵氏)

海外の先行例が示す「光と影」

ゲームが「処方」される時代

 米Akili社が開発した「EndeavorRx」は2020年6月、ゲーム形式のデジタル治療として初めて米食品医薬品局(FDA)から販売を認められた。対象は8〜12歳のADHD(注意欠如・多動症)の子どもだ。日本では塩野義製薬が「エンデバーライド」として2025年2月に製造販売承認を取得し、2026年5月に保険適用(償還価格1万4500円)、6月5日に発売している。

 ここで押さえておきたいのは、これが小児ADHDの治療補助であり、高齢者の認知症予防をうたう製品とは性格が異なる点だ。もう一つ、開発元のAkili社自身は商業化に苦戦し、2024年7月に米Virtual Therapeutics社の完全子会社となった。医療機器として認められることと、事業として回ることは別の課題だという教訓は、この領域に参入する企業にとって重い。

「歩いて稼ぐ」の急成長と急減速

 歩数に応じて暗号資産を得る「Move to Earn」の代表格STEPNは、2022年5月に月間アクティブユーザーが70万人を超えた。しかしトークン価格の下落とともに利用者は急減した。金銭的な報酬だけで継続を支える設計の脆さを、市場が短期間で示した例といえる。

VRで「一緒に出かける」

 米Rendever社は、高齢者施設向けに複数のVRヘッドセットを同期させ、旅行や思い出の場所を入居者同士で一緒に体験できるサービスを提供している。米カリフォルニア大学サンタバーバラ校の研究チームは、米国立老化研究所から200万ドルの助成を受け、施設の高齢者と離れて暮らす子どもが一緒にVR体験をする効果を、12施設・200組を対象とした臨床試験で検証している。先行するパイロット研究では孤独感の低下が報告されたが、効果の大きさや持続性はまさに検証の途上にある。

日本の現場で起きていること

シニアeスポーツは「自治体事業」の段階へ

 2021年、秋田市の企業が65歳以上だけで構成するプロeスポーツチーム「マタギスナイパーズ」を立ち上げ、国内初の試みとして話題を集めた。それから数年で、シニアeスポーツは自治体の事業に組み込まれ始めている。福島市は2026年7月、老人クラブ会員約500人が参加する高齢者スポーツ大会に合わせ、シニア向けeスポーツ交流会を開いた。11月8日には、60歳以上を中心とした全国大会「ねんりんピック彩の国さいたま2026」で、12歳以下・13〜59歳・60歳以上の三世代でチームを組むeスポーツ大会が予定されている。

健康ポイントは「チーム戦」へ

 より地道に広がっているのが、アプリと健康ポイントを組み合わせた自治体の取り組みだ。東京都八王子市の「てくポ」は2021年10月に始まり、60歳以上の利用者は1万3140人(対象高齢者の約7%)、累計歩数は約261億歩に達した。歩数データから推定した医療費の抑制額は約16億円という試算も出ている。あくまで試算である点には注意が必要だが、継続利用の規模としては注目に値する。

 静岡市は2026年9月、65歳以上を対象に「しずさんポ」を始めた。歩数や脳トレの目標達成で年最大5000円分のポイントがたまり、PayPayなどに交換できる。背景には、対面型の体操教室で参加者が固定化していたという課題があった。東京都港区の「チャレンジみなと」は、最大5人のチームで日々の歩数を報告し合う仕組みで、2026年9月からは地域の電子ポイントとも連動させた。

 共通しているのは、個人の数字を追わせるだけでなく、仲間やランキングといった社会的な要素を報酬設計に織り込んでいる点だ。STEPNの経験と照らし合わせると、その意味がよく見えてくる。

「金銭的なインセンティブは始めるきっかけとしては強力ですが、報酬が下がれば人は離れていきます。仲間からの期待や、自分に役割があるという感覚を組み合わせたほうが、行動は長続きしやすい傾向があります」(同)

どこに事業機会があるのか

 一つ目は、データの活用だ。ゲームのプレイ履歴や歩数の推移から、生活機能の変化に早めに気づく仕組みには需要があるだろう。ただし、疾病の兆候を示すような機能はプログラム医療機器の規制対象になり得る。個人情報の扱いと本人の同意も前提条件になる。

 二つ目は、アクティブシニアという顧客層の捉え直しだ。総務省によれば、65歳以上の就業者は943万人と22年連続で増え、過去最多を更新した。仕事を続け、スマートフォンを日常的に使う層に対しては、「病気予防」を前面に出すより、競技性や上達の手応えを主役に据えたサービスのほうが届きやすいと考えられる。

 三つ目は、世代間交流だ。ねんりんピックの三世代大会のように、孫世代と祖父母世代が同じチームで戦う場は、自治体・ゲーム会社・スポンサーのいずれにとっても関わりやすい。

事業化を阻む3つの壁

 第一の壁は、デジタルへの不慣れだ。静岡市はアプリ導入に合わせて週1回の相談窓口を設け、福井県の実証事業でも老人クラブ向けの講習会が開かれた。人による導入支援を前提にした設計が欠かせない。暗号資産のウォレット管理のような仕組みは、多くの高齢者にとって参加の壁を一気に高くしてしまう。

 第二の壁は、「子ども扱い」されていると感じさせない品質だ。大人が本気で打ち込める競技性や見た目の作り込みがなければ、利用は一時的なものにとどまる。

 第三の壁は、継続率と費用負担だ。誰がお金を払うのか。公的保険、自治体、企業の健康経営、本人。この組み合わせを最初から描いておかないと、効果が出る前に事業が息切れしかねない。

「デジタル治療の多くは、承認を得た後の普及段階で苦労してきました。技術や効果の検証と同じくらい、支払い手を誰にするかという設計が事業の成否を分けます」(同)

「長生きする社会」から「もっと生きていたくなる社会」へ

 若返りの医療やテクノロジーがどれほど進んでも、それを使う人に「明日も続けたい理由」がなければ、ロンジェビティ経済は片肺飛行のままだ。ゲーム、eスポーツ、VR、健康ポイント。手段はばらばらに見えるが、目指す先は同じで、楽しさを入り口にして人と人をつなぎ直すことにある。

 一方で、効果の科学的な検証も、持続可能な収益モデルも、まだ答えが出そろってはいない。だからこそ、自社のコンテンツや場所、コミュニティを運営する力が、「長生きを楽しくする」装置としてどう生かせるのかを、いまのうちに問い直しておく価値がある。

(文=BUSINESS JOURNAL編集部、協力=岩崎理恵/経営コンサルタント)

【主な参照データ・出典】
総務省統計局「統計からみた我が国の高齢者-『敬老の日』にちなんで-」(2026年9月)
WHO Commission on Social Connection 報告書(2025年6月30日)
厚生労働省「認知症及び軽度認知障害の有病率調査並びに将来推計に関する研究」(九州大学・二宮利治教授、2024年5月公表)
塩野義製薬プレスリリース(2025年2月18日)
UCSB News(2021年)、Rendever関連報道

BusinessJournal編集部

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公開:2026.10.03 05:55