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焼肉きんぐの物語コーポ、カフェ事業に進出のワケ…半年で平均月商2200万円

文=高井尚之/経済ジャーナリスト・経営コンサルタント
焼肉きんぐの物語コーポが展開する果実屋珈琲の「名物かにサラダ&フルーツミックス」
「名物かにサラダ&フルーツミックス」、右は「果実屋ブレンド」(写真提供:物語コーポレーション)

 コロナ禍が明けて通常生活が戻り、飲食店の客足は回復した。企業の発表資料を見ても好調の数字が目立つ。実際に店に行くと、コロナ前のように談笑するグループ客も多い。

 各社も攻めの姿勢に転じてきた。そのひとつが新業態の開発だ。ビジネスホテル「ドーミーイン」(運営:共立メンテナンス)、外食「焼肉きんぐ」(同:物語コーポレーション)といった人気ブランドを持つ2社が、それぞれ2021年7月と23年6月にカフェ事業に新規参入した。

 どんな思いで業態開発したのか。各社のブランド責任者に聞きながら考えた。

平均月商2200万円、絶好調の「果実屋珈琲」

「『果実屋珈琲』は2023年6月30日に1号店を東京都調布市にオープンしました。半年後も業績は好調で、日商100万円を売り上げる日も多く、平均月商は約2200万円です」

 物語コーポレーション執行役員 業態開発本部長の廣瀬雅孝氏はこう話す。外食で豊富な経験を持つ同氏は、大学卒業後にすかいらーくに入社。「スカイラークガーデンズ」「スカイラークグリル」(いずれも当時)といった新業態を開発し、退社後は競合他社の社長も務めた。物語コーポレーションの社歴は浅いが、業態開発・商品開発の専門家だ。

 1月上旬「果実屋珈琲 調布深大寺店」を訪れると、入口近くにはイチゴなど旬のフルーツが展示されていた。同店の特徴は「旬果実をテーマにサンドイッチやデザートを主軸にしたカフェ」で、業態としてはフルーツパーラーやベーカリーレストランに近い。競合としてファミリーレストランも意識したようだ。なぜ、こうした店にしたのか。

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店に入るとマンゴーやイチゴの旬果実が置かれていた。メニューにはパフェもある(筆者撮影)

「当社独自の“物語の開発理論”には、『意図的に大きなマーケットを狙いつつ、差別化を図る』があります。市場規模が約1兆3000億円ある喫茶業界ですが、上位企業の寡占率は低く、管理の難易度が高い、旬の果実をコンセプトにした店はほとんどありません。都心の高級フルーツ店が有名ですが、“あこがれ”のある高級フルーツを、それよりも割安な価格で訴求すれば勝機があると考えたのです」(廣瀬氏)

 同氏がイメージする高級フルーツ店とは、たとえば「千疋屋」や「新宿高野」だろう。後述するメニューの価格は安くないが、都心の店と比べれば割安感がある。

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「果実屋珈琲」を開発した執行役員の廣瀬雅孝氏(写真提供:物語コーポレーション)

カフェが苦手な「夜の営業」はしない

「果実屋珈琲 調布深大寺店」の営業時間は8~18時(ラストオーダー17時30分)で、食パンを使ったメニューが中心だ。飲食店にしては夜が早く、メニューを絞ったのはなぜか。

「一般的なカフェ業態の利益は、16時半までに約95%が決まります。それ以降は、コストの割に利益が出ないので割り切りました。ディナー営業をしなくてよいので、腹持ちするごはん系メニューもありません。一方でサンドイッチに使用する食パンにはこだわり、毎日店内で焼き上げています。競合のファミレスの大半は冷凍食パンですから品質が違います。

 スタッフの大半は未経験者でしたが、平日は約50~60本、土日祝は約80~100本の食パンを焼き続けた結果、熟達しました。やることを絞って徹底すれば差別化になります」(同)

 メニューを開くと“ご馳走サンド”と名づけたページには、おすすめとして「名物かにサラダ&フルーツミックス」(税込み1353円)が目立つ。ハーフ&ハーフの2切ずつの組み合わせで、他の組み合わせもある。ガッツリ食べたい人には熟成豚180グラム使用の「ロースかつサンド」(同1199円)が人気だという。具材は“甘いもの系”や“総菜系”が揃っている。

子育て中の女性も働きやすい店にした

「注文メニューを運ぶフルサービス業態で“飲食を楽しんでいただく店”にこだわりました。あえて、各座席に電源をつけておらず、モーニングメニューもありません。仕事や勉強の場になるカフェとは一線を画したいからです。一方でサンドイッチの持ち帰りなど物販に力を入れた結果、全売り上げの2割超を物販が占めており、収益に貢献しています」(同)

 営業時間には「女性従業員の活躍推進」もある。子育て中は夜の勤務に入りにくいからだ。

「優秀な女性社員が、子育てを機に会社を辞める姿をたくさん見てきました。18時営業終了なら、一般的な企業の勤務時間と変わりませんから、辞めなくてすみます。人材の確保は外食産業の喫緊の課題となっています」(同)

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「果実屋珈琲 調布深大寺店」の店内は木目調で広い。座席数は82席(テラス席含む)ある(筆者撮影)

ドーミーイン1階に立地した店舗もある

 東京メトロ丸の内線・中野坂上駅を出てすぐの場所に「CAFE&RESTAURANT OASIS 中野坂上店」(東京都中野区、以下「オアシス」)がある。交通量の多い青梅街道沿いに立地する。

 同店以外に神戸元町店(兵庫県神戸市)、ラビスタ東京ベイ豊洲店(東京都江東区)もあり、この2店は共立メンテナンスが運営するホテル「ドーミーイン神戸元町」「ラビスタ東京ベイ」に立地・隣接する。飲食事業はグループ会社、共立オアシスが運営している。

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「カフェ&レストラン オアシス中野坂上店」、右上は東京メトロ丸の内線・中野坂上駅の表示板(筆者撮影)

「オアシス中野坂上店」の営業時間は10時30分~21時で、「果実屋珈琲」に比べて長時間営業だ。1月下旬の平日午後に一般客として訪れたが、1人席は電源も充実していた。

「オアシスブランドでは2024年1月現在で6店舗になります。業態としてはファミレス機能を持つ『カフェ&レストラン オアシス』が3店舗、『カフェ』(セルフカフェ)が1店舗、『カフェ&ラウンジ』が2店舗(ドーミーインにご宿泊の方専用のラウンジ)として営業しています。

 コロナ禍の2021年7月1日、『ドーミーイン神戸元町』の1階に開業した店が1号店です。当時、コロナ感染への不安や生活を制限されるストレスが続くなか、人々が癒される場所、“オアシス”をつくりたい思いで開業しました」

 共立オアシス代表取締役の百瀬利恵氏はこう説明する。複数業態で展開しているが、本稿ではカフェ&レストラン業態に絞って紹介したい。

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「中野坂上店」の1人席には間仕切りした座席もあった(筆者撮影)

ごはん系、パン系、スイーツ系を揃えたワケ

「オアシス」はメニューも多彩だ。たとえば「スパイシービーフカレー」「ホットドッグ」といったごはん系とパン系もあれば、「ふわふわカステラPANケーキ」といったスイーツ系もある。オペレーションが大変になるが、ベーカリーカフェにしなかった理由は何か。

「数多くの商品を開発していくなかで、美味しく、印象に残っている商品を、より多くの方に召し上がっていただこうと、メニュー化しました。オアシスオリジナル開発商品としては、トマト農家さんが作ったコク旨ケチャップのレシピを再現したナポリタンソースや、牛粗挽き肉をデミグラスソースで煮込んだミートソース、とろとろに煮込んだビーフシチューなどがあります。これらは中野坂上店、ラビスタ東京ベイ豊洲店、神戸元町店で提供しています」(百瀬氏)

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「とろとろ柔らかビーフシチュー」(左)と 「ふわふわカステラPANケーキ」(写真提供:共立オアシス)

 なかでも利用客に人気なのが、「ふわふわカステラPANケーキ」(中野坂上店では単品1200円、ドリンクバーセット1580円)だ。手作りで、注文してから約30分かかるという。

「時間をかけて焼きあがったパンケーキを座席にお持ちした際、最も喜んでいただけるメニューです。スイーツ系は、パティシエが作るホームメイドのスイーツを甘さ控えめ、できるだけ素材にこだわって、そして季節感のあるものを提供しています」(同)

「ドーミーイン」や「ラビスタ」などのホテルは、朝食メニューも人気だ。共立グループとして培われた商品開発の技術がカフェ事業にも反映されている。

市場全体は好調のなか、より特徴を打ち出せるか

 カフェを含む「喫茶事業の市場規模」は、全体的には市場の伸びが見込まれるが、業態によって異なる。富士経済の調査によれば、2023年の市場は「1兆3653億円(前年比105%)の見通しだ(出典:富士経済2023)。

 最も市場が大きい業態「喫茶店・コーヒー専門店」(※1 フルサービスチェーン店や個人経営の喫茶店)は全体的に伸び悩み、その次に大きい「コーヒーショップ」(※2 セルフカフェチェーンや個人経営のセルフカフェ)は拡大を見込む。つまりやり方次第だ。

※1と2:各区分は富士経済の表記に基づく。( )内は筆者補足

「果実屋珈琲」は「今のファミレスに物足りなさを感じる客層」にも訴求した。昔のファミリーレストランは少し上質感があり、ドリンクバー(セルフカフェ的な機能)もなく、フルサービス提供を受けながら過ごせる大人にも居心地のよい空間だったからだ。

 一方の「オアシス」は、立地によって異なり、ビジネス客から観光客まで幅広く訴求する。今後の出店戦略としては、「ドーミーインレストランのOASIS化」がテーマになっていくという。同レストランでは宿泊客向けに無料提供する「夜鳴きそば」(夜の短時間営業)や朝食メニュー(朝の営業)が人気だが、昼間は開放していない。営業時間を拡大して一般利用客に訴求していく手法だ。

 マーケティングや商品開発、業態開発の現場では「成熟市場でもやり残したことがある」という共通認識を持つ。どんな差別化で新境地を開くか見ていきたい。

(文=高井尚之/経済ジャーナリスト・経営コンサルタント)

高井尚之/経済ジャーナリスト・経営コンサルタント

高井尚之/経済ジャーナリスト・経営コンサルタント

学生時代から在京スポーツ紙に連載を始める。卒業後、(株)日本実業出版社の編集者、花王(株)情報作成部・企画ライターを経て2004年から現職。出版社とメーカーでの組織人経験を生かし、大企業・中小企業の経営者や幹部の取材をし続ける。足で稼いだ企業事例の分析は、講演・セミナーでも好評を博す。近著に『20年続く人気カフェづくりの本』(プレジデント社)がある。これ以外に『なぜ、コメダ珈琲店はいつも行列なのか?』(同)、『「解」は己の中にあり』(講談社)など、著書多数。

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