2019年を代表するトレンドといえば「タピオカ」だろう。「タピる(タピオカドリンクを飲むこと)」という言葉が「ユーキャン新語・流行語大賞」のトップ10にランクインしたり、原宿駅前に「タピオカランド」なるテーマパークが誕生したりと、その勢いは凄まじかった。
当時は有名チェーン店から個人店までさまざまな店が乱立していたものだが、2023年の今は数店の有名チェーンが残るのみとなっている。その中でも、いまだに集客が好調な店と失速気味の店に分かれている。かつては長蛇の列ができるほどだった人気店の現状とは? タピオカを愛飲して14年のタピオカナビゲーター・梅村実礼氏に話を聞いた。
新型コロナが加速させたブームの終わり
これまでタピオカは日本で3度も話題になった時期があり、2019年の流行は“第3次ブーム”と呼ばれている。この時の特徴は、テイクアウトの店が多かった点だ。新しい専門店が連日のようにオープンしていたのも、テイクアウトだけにすれば最低5坪もあれば十分で、調理オペレーションも簡便だった等、参入ハードルが低かったことが理由として考えられる。
「タピオカドリンクは通年温暖な気候の国で飲まれていました。日本のように四季があると、寒くなる秋冬は売り上げが沈んでしまうことは否めません。ブームとはいえ、19年の秋冬にはタピオカ関連の数字は下がり気味だった。それを20年の春夏で盛り返そうとしたところ、新型コロナの感染が拡大。人々が外に出なくなったうえ、マスクの着用が推奨されている新しい生活様式では、タピオカドリンクをテイクアウトして飲み歩こうと思う人が激減してしまったのです」(梅村氏)
梅村氏いわく、20年の秋冬を迎えた時にはシャッターを閉じている専門店が増え始め、その半年後、21年の春になると“閉店ラッシュ”が起き出したという。
「“ブーム”として山場ができたので、いずれは失速することになるだろうとは思っていました。そのスピードが、パンデミックでかなり早まった印象があります。専門店が集結していた原宿・表参道エリアは今、最盛期に比べて店舗数が6分の1ほどにまで減少しました」(同)
まさに雪崩を打ったような右肩下がりとなったが、それもそのはず、第3次ブームの際は店舗数が増えすぎていたのだ。
「タピオカドリンク専門店は開業しやすいため、『今売れるから』という理由だけで店を構えた人が多くいました。そんなインスタントな店舗はブームの時にひと儲けできればそれでいいので、人気が下火になったら何の未練もなく閉店していったのです」(同)
もちろん、この2~3年で閉店した店のすべてが金儲けしか考えていなかったわけではないが、そうした店が多かったのは事実。こうして、閉店してしかるべき店が次々に撤退していったことも、“タピオカブームの終焉”を強く感じさせたわけだ。
好調な2ブランドは、それぞれの個性を重視
閉店する店が増える中、日本上陸当初から長く愛される存在になるべく行動していたチェーン店は、根強い人気を誇っている。
「『Gong cha』『春水堂(チュンスイタン)』『THE ALLEY』『CoCo都可』『Chatime』はすべて海外発のチェーン店で、第3次ブームの際には業界内で『5大ブランド』と呼ばれていました。この中で今も好調なのは『Gong cha』と『春水堂』の2ブランドではないでしょうか」(同)
「Gong cha」は国内に122店舗(2022年9月30日現在)を構え、地方への出店にも積極的。今でも都内のショッピングモールや繁華街近くの店舗は、休日になると列ができていることもある。テイクアウトオンリーなうえ、列に並んでいる間に注文を取ったり、モバイルオーダーを行っていたりと、回転率も悪くない。それでも行列ができるのは、ブームに流されない商品力があったという証拠だろう。
「ゴンチャ ジャパンは、日本マクドナルドホールディングスを率いていた原田泳幸氏がCEOを務めていて、出店場所の選択が上手く、店舗を増やしていく資金力や行動力も旺盛。日本でタピオカドリンクを日常的に、カジュアルに飲むスタイルを定着させたブランドだと思います」(同)
一方の「春水堂」は、国内店舗数が19(2023年2月16日現在)と控えめに見えるが、オリジナリティで勝負している。
「テイクアウトよりイートインに力を入れているのが『春水堂』です。カジュアルというよりも、少し特別感を感じさせる世界観で、台湾料理や台湾スイーツも多く取り扱っています。表参道店では、平日のランチタイム後も店内の半数ほどの席が埋まることもあり、ファンが多いのです」(同)
「春水堂」はテイクアウト専門のブランド「TP TEA」も展開していたが、そちらは日本から撤退済み。“ゆっくり座ってタピオカドリンクや台湾グルメが楽しめる店”というブランディングに本腰を入れるため、テイクアウト事業は縮小したのかもしれない。
かくして、テイクアウト専門のカジュアルテイストな店と、イートインに注力する少し高級志向な店という、それぞれの独自性を追求した結果、両ブランドは棲み分けに成功したのだ。
「毛色の異なる2つのブランドですが、ブーム当時からタピオカではなく“お茶の専門店”としての立ち位置をアピールしていました。また、ブーム時に問題になった行列問題やゴミのポイ捨て問題についても、『Gong cha』は行列に警備員を配置したり、『春水堂』はゴミ拾いプロジェクトを行ったりして、対応する姿勢も見せています」(同)
失速してしまったブランドの特徴は?
5大ブランドのうち残りの3つについて、「日本向けのマーケティングが弱かった傾向にあるのでは」と梅村氏は分析する。
「『CoCo都可』と『Chatime』は、低価格で大ボリュームというコスパの良さが魅力でした。どちらも台湾発祥のブランドですが、本国ではラフでカジュアルな接客スタイル。そのため、上質な接客よりも安さを重視する中高生から圧倒的な支持を集めていました。ところが、若い世代のトレンドが移り変わってしまい、客離れが始まると他の世代を取り込めずに勢いを失います。コンビニなどでも接客の質を重んじる日本において、『CoCo都可』と『Chatime』のカジュアルスタイルはフィッティングが悪く、閉店する店舗が増えていったのかもしれません」(同)
とはいえ、台湾をはじめとする海外では、「CoCo都可」は4000店以上、「Chatime」は1000店以上を展開している。あくまで「日本」での展開に苦戦しただけだ。
「THE ALLEY」も、ブーム時は1時間近く行列に並ぶことも珍しくない超人気チェーンだったが、渋谷道玄坂にあった旗艦店をはじめ、閉店する店舗が目立っている。
「『THE ALLEY』も『Gong cha』と『春水堂』同様に“お茶の専門店”ですが、2ブランドと比べて日本に上陸するのが遅く、すでにブームとなった渦中にオープンが続いたことで “タピオカ専門店”として世間に認知されてしまいました。上陸当時はメニューの表記もタピオカを全面に押し出していたことも、現在の印象につながっていると思います」(同)
ブームが落ち着いた今、“タピオカ専門店”というイメージが拭いきれないと、「あの店に行くと、どの飲み物にもタピオカが入っている」という固定観念にとらわれてしまい、敬遠されてしまうのだ。
「そもそもタピオカは、あくまでトッピングのひとつで、いわば脇役。それが第3次ブームでは主演スターのような扱いを受けてしまったのです。専門店とはいえ、必ずタピオカを入れる必要はないと理解していただければ、タピオカは本来の“バイプレイヤー”のポジションに戻れると思います」(同)
タピオカは廃れたわけではない。あるべき姿に戻り、日本に定着しただけともいえる。粗悪店が淘汰された今、残っている店の味は総じてレベルが高く、タピオカをトッピングしても、お茶だけを楽しんでも、ナタデココなどを入れてもいい。楽しみ方は自由なのだ。
かつては行列ができていた人気店に今こそ足を運んでみて、本来のお茶文化を楽しんでみてはいかがだろうか。