大卒就職者が4割増で事務職希望者が過剰→建設・運送現場が人手不足の悪循環

過去30年で高卒で就職者する人の数が7割減り、大卒で就職する人が約4割増えたことが一因で、事務職を求職する人の数が求人数を17万人も上回っているという実態を伝える1月19日付「日本経済新聞」記事『増えた大卒、職とミスマッチ 「事務希望」は17万人過剰』が一部で話題を呼んでいる。事務職の求職者が増えることが、建設業や製造業、運送の現場における人手不足を助長させているという。就職・採用の実態はどうなっているのか。専門家の見解を交えて追ってみたい。
多くの業界・業種で人手不足が叫ばれるなか、特に建設・製造の現場で働く人の不足は深刻だ。同じく飲食・小売業も人手不足が深刻とされるが、こちらは以前から現場の労働力がアルバイト・パート従業員に支えられる傾向が強いのに対し、建設・製造業の現場には高卒者が多く入職する傾向があったため、高卒就職者の数が減ると人手不足に直結しやすい面があるといわれている。
高卒就職者が減る一方、高卒者に対する採用需要は高い。昨年(2024年)3月に卒業した高卒者の求人倍率は全国平均で3.98倍(文部科学省調べ)と過去最高を更新。なかでも工業高校の卒業予定者の人気は高い。23年卒の工業高校の求人倍率は全国平均で20.6倍(全国工業高等学校長協会の調査による)、高専(5年制)における24年卒の求人倍率は20倍であり(国立高等専門学校機構の調査による)、進学者等を除く就職希望者の就職率は99%を超える。
大卒者が全員、就職する職種を選べる立場に
製造・建設現場で人手不足が起きている要因として、大卒就職者の増加と高卒就職者の減少があるのではないかという見方について、UZUZ COLLEGE代表取締役の川畑翔太郎氏はいう。
「そのような因果関係はあります。また、大卒就職者は建設・現場・運送などの現場での労働を避ける傾向があります。現在、採用が難しくなっている職種というのは、以前から大卒者に人気がない職種ばかりです。以前はそのような職種には高卒就職者が就き、大卒就職者はいわゆるホワイトカラー職に就くというかたちで比較的棲み分けができており、結果的にある程度バランスが取れていた面がありました。一方、今は事実上の大学全入時代になっており、お金さえ払えば誰でも大学に進学できますし、若者人口も減っていることも重なり、大卒者が全員、就職する職種を選べる立場になりました。
大雑把な話として、かつては大卒者と高卒者の比率が50対50だったとして、人気がある職種は大卒者が選び、人気がない職種は高卒者が選ぶというようなかたちで分かれていたのですが、現在では高卒者と大卒者の比率が20対80くらいになった。大卒者のなかにも幅広いランク分けがあるわけですが、若者の人数は少ない一方で求人数は多いため、大卒者は嫌な仕事を選ばなくても就職できるようになっています。
繰り返しになりますが、今の若者が建設や製造現場の仕事に就きたがらないのではなくて、昔からこれらの職種に就く人の全てが、自ら好んで就いていたとは限らないということです」
製造・建設現場の人気が低い理由
では、製造・建設現場の人気が低い理由はなんなのか。
「まず、生涯得られる収入の水準が低い点が挙げられます。こうした職種はたくさん働けば収入もそれなりに高くなる傾向があるのですが、若くて体力があるうちは稼げても体力が落ちたり、体を壊してしまうと働ける時間が減ることで収入が下がります。長期的にみると、ずっと稼ぎ続けることは難しいし、他の仕事に転職するなどの潰しが効かない。一方、ホワイトカラーの場合、これまでは年功序列によって企業に長く務めるほど給与が上がり続けていましたし、比較的潰しも効きます」(川畑氏)
現在、大卒就職者はどのような職種・業種を志望する傾向が強いのか。
「東京大学など難関大学の学生の間では経営コンサルタントなどが人気です。専門職とみられがちですが、実はそれほど専門的な職種ではなく、仕事を通じてビジネス総合力を得られるという点が好まれるようです。今も昔もプロフェッショナルな専門性を身につけたいと考えるよりも『潰しが効くスキルや経験を得たい』という風潮が強いように思います」
大きな矛盾の存在
では、建設・製造・運送現場の人手不足を解消するための有効な施策としては、どのようなものが考えられるのか。
「例えば運送業界についていえば、現実的には自動運転の普及を待ちつつ、それまでの人で不足を何とか乗り切るしかないと思いますが、そこには大きな矛盾が存在します。自動運転やAIが導入されれば、必要な労働者の人数は大幅に減るので、『将来的には人手は不要になるかもしれないけれども、今は人手が足りないので来てください』ということになります。この場合、若い人にとっては将来の仕事が保証されない環境となるため、回避されざるを得なくなります。この矛盾は非常に難しい問題で、『このままだと3〜5年後に人手不足で大変なことになるので、今のうちから若い労働力を確保しましょう』というのは、理屈としては一見正しいのですが、そのような職種に若い人を誘うのはなかなか難しいのではないでしょうか」(川畑氏)
(文=Business Journal編集部、協力=川畑翔太郎/株式会社UZUZ COLLEGE代表取締役)