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AI時代の人財戦略、日本の遅れ鮮明に…アデコが2030年成長戦略を発表、「未来対応型人財」育成へ

2025.12.01 2025.12.02 22:25 企業

AI時代の人財戦略、日本の遅れ鮮明に…アデコが2030年成長戦略を発表、「未来対応型人財」育成への画像1

●この記事のポイント
・世界31カ国調査で判明した日本の課題。AI信頼度は世界平均の5分の1、未来対応型人財は世界37%に対し日本16%。
・2030年に向けた5つの成長戦略を発表。人とAIの協働、外国人財活用、地方創生に注力し、人手不足に対応。
・東京工科大の中西崇文教授とのトークセッションで、経営と現場の双方からAI活用の鍵を議論。

 アデコ株式会社は11月26日、都内で「中長期向け事業発表会2025 未来共創人財プロジェクト~Future Talent Project~」を開催し、衝撃的な調査結果を発表した。

 同社が世界31カ国3万7500人を対象に実施した調査「Global Workforce of the Future 2025」によると、日本の働き手のAI信頼度は10点満点でわずか0.9点。世界平均の4.5点と比べ、5分の1ほどという結果に。AI時代に対応できる「未来対応型人財」の割合も、世界37%に対し日本は16%にとどまったのだ。

 これを発表した平野健二代表取締役社長は「AI時代において、いかに人間がAIをうまく活用していくかがキーになる」と強調。2030年に向けた5つの成長戦略を示すとともに、新プロジェクト「未来共創人財プロジェクト」を始動させた。

●目次

AI信頼度0.9点、世界平均の5分の1という衝撃

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「世界的にAIが仕事に非常に大きな影響を与えることが明らかになりました」

 調査結果発表で、平野社長はこう切り出した。

 今回の調査では、これまでできなかった業務がAIによって可能になったと答えた働き手は77%に達した。AIによって仕事内容が変化したのは60%、役割に必要なスキルが変化したのは62%となり、世界では確実に、AIが働き方を変えていることが明らかになった。

 しかし、日本に目を向けると様相は一変する。

 自社が今後12カ月以内にAIエージェントを業務フローに組み込むと予想している働き手の割合は、世界平均55%に対し、日本はわずか19%。AIによって業務が拡張していると考えている働き手も、世界76%に対して日本は35%にとどまったのである。

 その理由は、AI信頼度の低さだ。

 10点満点で世界平均が4.5点であるのに対し、日本はわずか0.9点。平野社長は「この低い信頼度が、日本のAI導入と活用に影響している可能性がある」と指摘する。

 問題はそれだけではない。スキル開発への意識も世界34%に対して日本は14%、仕事に対する目的意識も世界46%に対して日本は17%と、いずれも大きく下回った。この調査結果を平野社長は、こう総括した。

「AI時代においては、1人1人の働き手が主体的にキャリア自立を通じてキャリア形成に取り組み、目の前の仕事に対してしっかりと目的意識を持って働くことが必要ではないかと考えています」

2030年成長戦略──人とAIの協働から地方創生まで

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 アデコは今回の調査で、AI時代に対応できる「未来対応型の働き手」を定義している。

 環境の変化に柔軟に対応できる「適応力」、AIをはじめとしたテクノロジーの知識やスキルを身につけられる「テクノロジーへの精通」、変化を積極的に受け入れる「積極性」の3つの要素を持つ人財を指す。

「重要なのは、このような未来対応型の働き手は、採用時点での能力にとどまることなく、組織の支援によってより高い能力を発揮できる人材に成長していく点です」

 では、この未来対応型人財は世界にどれほど存在するのか。

 調査結果は、ここでも日本の遅れを浮き彫りにした。世界では37%だったのに対し、日本はわずか16%にとどまったのだ。

「これから説明する成長戦略を通じて、このような未来対応型の働き手をもっと輩出していきたい」

 平野社長はこう強調し、2030年に向けた5つの成長戦略を発表した。

 まず注力するのが、派遣ビジネスの強化だ。人が介在することで高い価値が生まれる領域として、キャリアコーチや教育等による派遣社員向けキャリア支援を強化し、未来対応型人財へと育成する。特に力を入れるのが「カルチャーフィット」だ。

「今年までは仕事内容だけではなく、働く現場のカルチャーをきめ細かくヒアリングして伝えることで早期の退職を防いできました。しかし今後は、就業後も含めてしっかり組織のカルチャーにフィットしているかどうかを確認し、さらなる派遣社員のエンゲージメント向上に努めていきたい」

 一方で、AIを活用する領域も拡大する。求職者への仕事紹介プロセスなど、事業プロセス全体でAI活用を推進していく。アウトソーシング事業も強化する。官公庁・自治体向けサービスでは、社会課題の解決に加え、政策提言やプロジェクトデザインからの参入を進める。民間企業向けには、ビジネスプロセスサービスやミュージアム・博物館などの施設運営を強化。BPOセンターのニアショア化、オフショア化も進めていく。

 外国人財向けビジネスの拡大も重要な柱だ。背景には、2070年には外国人労働者が939万人に達するという予測がある。

「外国の人材の方々へ、ただ就業の機会を提供するだけではなく、スキル開発、キャリア開発、また就業前の支援や生活環境の支援も含めた、過ごしやすい、働きやすい環境作りをサポートしていきたい」

 技術者派遣事業では、2026年1月からアコーディス(AKKODIS)のテックタレント事業をアデコブランドに統合し、事務以外の領域を拡大。事務系職種からエンジニアへの職種転換を図る「デジタルキャリアシード」も推進する。

 地方創生への貢献も欠かせない。自治体における総合戦略推進の支援や、地方都市におけるBPOセンターの新設により雇用創出に貢献する。

「人材がいなくて困っている、経済的にも非常に苦しんでいる地方もあるので、地方における雇用創出に貢献できるような取り組みをしていきたいと考えています」

「AIを部下のように使う」──中西教授とのトークセッション

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 発表会の後半では、東京工科大学コンピュータサイエンス学部の中西崇文教授を招き、「経営と現場、両輪から考えるAI時代に人が生きる未来の組織とは」をテーマにトークセッションが行われた。

 AIと人間の関係はピンチかチャンスか?――。この問いに、中西教授は「チャンスです」と即答した。

「今までやりたかったけどできなかったことがAIによってできるようになる。人間がやるべきこと、AIがやるべきことを明確に分けられるようになる」

 平野社長も同意する。

「生産性が上がって余力ができることによって、人間としては価値のあるアイデアや、企業がトランスフォーメーションできるチャンスだと思う。AIを部下ができたみたいな形で考えて、どう使っていくかによって企業としてはチャンスが広がっていく」

 では、そのAIをどう活用すればいいのか。

 中西教授は、リスキリングにおける興味深い研究結果を紹介した。

「生成AIをチューターとして使うことで、1番人が伸びると論文で示されています。AIがどんどん発展していく中で、リスキリングはずっと続けるもの。AIをメンターとしてリスキリングをしていくことが重要です」

 ただし、AI導入には落とし穴もある。中西教授が指摘するのは、経営と現場の認識のズレだ。

「AI導入に成功している会社は、経営者のAIへの考え方と現場の考え方が統一されている。経営者側は現場を知る、現場は経営者を知る、こういう相互の関係がすごく重要になってくる」

 これを受けて平野社長は、経営者自身の学びの重要性を強調した。

「働き手というのは経営者を見ていますので、経営者自身がしっかり今のテクノロジーの進化、AIの進化について学んで、自分自身もしっかりAIを活用していく。このような双方の取り組みによって、若干遅れを取っていますけども、世界に追いつく日が近いんじゃないかと思います」

 日本のAI活用は世界に大きく後れを取っている。しかし、人とAIの協働、多様な人財の活躍支援、継続的なリスキリングという3つの軸を中心に、アデコグループのパーパスである「Making the Future Work for Everyone」の実現を目指す。

 平野社長は会見の最後に、こう決意を語った。

「我々が未来対応型の人材を作っていくために、どのような形でテクノロジーを活用していくか、リスキリングの場を提供していくか、しっかり真剣に考えて、次の5年取り組んでいきたい」

 AI時代における人財戦略の転換点となるか、今後の取り組みが注目される。

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(取材・文=昼間たかし/ルポライター、著作家)

※本稿はPR記事です。

昼間たかし/ルポライター、著作家

昼間たかし/ルポライター、著作家

 1975年岡山県生まれ。ルポライター、著作家。岡山県立金川高等学校・立正大学文学部史学科卒業。東京大学大学院情報学環教育部修了。知られざる文化や市井の人々の姿を描くため各地を旅しながら取材を続けている。

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