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アマゾンとグーグルが「海底」で激突…“見えないインフラ戦争”と、日本企業の躍進

2025.12.03 2025.12.02 22:33 企業

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●この記事のポイント
・生成AIの普及と地政学リスクにより、海底ケーブルが国家と巨大テック企業の新たな戦略資産に。アマゾンやグーグルが独自回線を深海に敷設し、インフラ争奪戦が本格化している。
・海底ケーブルを製造できるのは世界で3社のみ。中でもNECは高い技術力と安全保障上の信頼性から各国の引き合いが急増。AI時代に不可欠なSDM技術でも世界をリードしている。
・ソフトバンクはメタなどと連携し、太平洋横断ルートで日本をアジアの通信ハブに押し上げる戦略を推進。海底インフラの主導権争いは、日本企業に大きな追い風となっている。

 生成AIが世界のあらゆる産業を塗り替える中、誰の目にも触れない“深海の暗闇”が、巨大企業と国家がぶつかり合う最前線へと変貌している。クラウドの覇者であるアマゾンやグーグルが、近年こぞって巨額投資を進めているのが、海底ケーブルだ。これは単なる通信インフラではない。AI時代における「国の生命線」であり、「企業の競争優位」を左右する戦略資産である。

 さらに、この世界的潮流の中で、日本企業――NECとソフトバンク――が、かつてないほどの存在感を放ち始めている。AI×安全保障という新秩序が形作られる中、日本の技術が世界を支える構図が生まれつつある。

●目次

アマゾンが海底“地下深く”にケーブルを埋める理由

 2028年の完成を目指し、アマゾンが米国とアイルランドを結ぶ海底ケーブルを敷設すると発表した。もっとも注目を集めたのは、その“敷設方法”だ。従来よりも深い海底の地層に埋設するという。

 これは単なる技術的進化ではない。近年、世界各地で海底ケーブルの損傷・切断が相次いでいる。台湾周辺、北欧、フィリピン――いずれも不審な船舶の存在が取り沙汰され、地政学的リスクが現実化している。

 国際安全保障の専門家である畠田祐一氏は、こう指摘する。

「海底ケーブルは、国家機能の維持において電力網と並ぶ最重要インフラです。特に米中対立が激化する中、“切断”“傍受”のリスクは現実の脅威になっています。埋設は、軍事的脆弱性を低減させるための戦略的措置といえるでしょう」

 アマゾンが地下深くに埋める理由は“安全保障”なのだ。AIのデータが流れる“神経網”を守るための、必要不可欠な防御でもある。

AIは海底ケーブルが詰まれば機能不全に陥る

 巨大テック企業が海底ケーブルに投資する最大の理由は、AIの性能が通信インフラに依存しているからだ。

 生成AIや高度なクラウド処理は、世界中に点在するデータセンターが同時に演算を分担することで成立している。このセンター間を結ぶのが海底ケーブルであり、ここが遅延すればAIは遅くなり、切れればサービスは止まる。AIを“血液”とするなら、海底ケーブルは“血管”である。

 グーグルは日米間の新ケーブルに約1400億円を投じたほか、アフリカ・欧州を結ぶルートなどを相次いで発表。メタも地球一周をカバーする巨大計画を進めている。

 AI市場は今後も指数関数的に増える。それは同時に、海底ケーブルの“総延長”と“容量”を奪い合う時代が到来することを意味する。

世界で3社しかつくれない“寡占市場”

 海底ケーブルを製造・敷設できる企業は、世界でわずか3社。

 ・SubCom(米)
 ・ASN(仏)
 ・NEC(日本)

 これらは“海底ケーブル三巨頭”と呼ばれる。技術・安全保障・実績のすべてを満たした企業は極めて少なく、ビッグテックがどれほど資金を持っていても、この3社の製造枠を押さえなければケーブルは作れない。

 NECは、この寡占市場で圧倒的存在感を示している。過去50年以上、地球8周分の海底ケーブルを手がけてきた実績に加え、AI時代の大容量通信に不可欠なSDM(空間分割多重)技術で世界をリードしている。

 海底通信も手掛けてきた技術者の佐伯雄太氏は語る。

「SDMは今後10~20年の海底ケーブル容量拡張の鍵となる技術です。NECは光ファイバー構造の最適化や波長多重技術に強く、ビッグテックの要求に応えられる“数少ないパートナー”です」

 さらに、米中対立が深まる中、中国製ケーブルは国際的に敬遠されている。この状況は、NECにとって追い風どころか“追い台風”とも言える圧倒的有利な環境を生み出している。

ソフトバンクが仕掛ける“連合戦略”

 一方、通信事業者として存在感を急速に高めているのがソフトバンクだ。

 ソフトバンクはメタなどと企業連合(コンソーシアム)を組み、太平洋横断を含む複数のケーブル敷設に参加している。特に注目されるのは、日本をアジアの通信ハブに引き上げるルート戦略だ。

 米国→日本→アジア各国を結ぶ主要ルートは、今後のAIサービス配信において最重要となる。もし日本がこの「起点」を押さえれば、データ流通の主導権を握ることができる。

 前出の佐伯氏はこう解説する。

「海底ケーブルの地政学は、もはや国家戦略そのものです。アジア地域のデータ流通を主導できる国は、単に通信収益を得るだけでなく、産業競争力でも優位に立ちます。ソフトバンクの連合戦略は日本の国力にも直結する動きです」

 AIの世界で覇権を握るのは、クラウドだけではない。“どのルートを押さえるか”が勝負を分ける。ソフトバンクは、この「地政学×経済」の構造を見据えている。

日本は「海底のゴールドラッシュ」に勝てるか

 海底ケーブル市場は今、空前の需要急増に直面している。AIが普及すればするほど、データセンター間の通信量は爆発的に増え、海底ケーブルの“太さ”、本数、冗長性が求められる。

 アマゾンが地下深くに埋めるのは、通信容量(Speed)と安全保障(Security)を同時に守るためだ。

 これは大きな転換点である。世界は今、通信競争から生存競争(サバイバビリティ)へシフトした。

 そして、この波は日本企業にとって千載一遇のチャンスでもある。

 ・NEC:世界中のビッグテックが“頼らざるを得ない”製造技術
 ・ソフトバンク:日本をアジアのデータハブに押し上げる交渉力・連合戦略

「海底ケーブルは、AI時代の“デジタル海運ルート”です。ここをどこが握るのかは、国家の未来を左右します。日本の立ち位置は想像以上に大きい」(佐伯氏)

 生成AIの裏側では、深海の暗闇で熾烈な権益争いが続いている。島国・日本は国際通信の99%を海底ケーブルに依存しており、この“見えない戦場”の行方は、企業の成長だけでなく、日本という国家の未来そのものを決める。

 海底で始まった新たなゴールドラッシュ。日本企業は、この歴史的チャンスをつかめるのか。勝負の行方は、すでに海の底で動き始めている。

(文=BUSINESS JOURNAL編集部)