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ヘルステック企業最前線──『まずAIに相談』する時代、AI診療は医療インフラになりうるのか

2026.05.27 05:55 2026.05.27 00:37 企業
取材・文=福永太郎

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 2026年5月14日、ヘルステック企業Tech Doctorがメディア向けラウンドテーブルを開催し、一般生活者480人を対象とした「AI健康相談・AI医療に対する意識調査」の最新結果を初公開した。調査では、生活者がAI医療に何を期待し、どこに不安を抱いているのかが示された。

 さらに、Tech Doctor代表取締役・湊和修氏と順天堂大学医学部教授・矢野裕一朗氏による対談も実施され、調査結果とともにAIヘルスケア実装の現在地と、普及に向けてなお残る課題が浮かび上がった。

AI健康相談の現在地 生活者の期待と不安

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当日登壇したTech Doctor代表取締役・湊和修氏

 調査を実施したTech Doctorは、スマートウォッチなどのデータから体調や疾患リスクを推定する「デジタルバイオマーカー (dBM)」を開発するヘルステック企業だ。同技術の活用企業は90社超に達し、医学領域でグーグルとのアジア初のパートナーシップも結んでいる。

 Tech Doctorは現在、「医師が自分専用のAI診療ツールを作るための土台」となるプラットフォーム「ヘルスポータル」を打ち出している。ヘルスポータルは、ウェアラブルやスマートフォンと連携して日常データを集約し、dBMと組み合わせて解析した指標をAPI経由でAIと結びつけられるのが特徴だ。受診と受診のあいだの状態変化をモニタリングし、悪化の兆候を早期に拾い上げることを目指している。

 調査の背景には、対話型AIの急速な普及がある。受診前に症状をAIで調べる行動が一般化しつつある一方で、健康・医療領域でAIがどの程度信頼されているのかを示すデータは乏しかった。AI医療の基盤づくりを進める立場として、Tech DoctorはAI医療に対する信頼と不安の実態を可視化するため、一般生活者480人を対象に意識調査を実施。

 結果からは、AI健康相談がすでに一定程度浸透していることがわかった。健康に不安を覚えたとき最初に相談する相手として「AI」を挙げた人は全体で約1割、AI利用経験者では約6人に1人、60代以上に限ると2割超で医師に次ぐ位置づけだ。

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 また、医師や家族・友人と比べて「医師よりも信頼できる」「医師と同程度に信頼できる」と答えた人が全体で約1割強いた。まだ少数派ではあるものの、AIを重要な情報源とみなす生活者が着実に増えていることも示された。

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 一方で、「誤った判断や見落としが起きそう」「最終的に誰が責任を取るのか不安」といった懸念の声も多く、AIの判断の精度や責任の所在は、生活者がAI医療を受け入れるうえで避けて通れない論点となっている。Tech Doctorは、こうした期待と不安を前提に、医師側がAIの中身と責任をコントロールできる仕組みが必要だと位置づけている。

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現場で起きている変化と“AI相談”のリスク

 調査報告に続いて行われたのが、 順天堂大学医学部総合診療内科教授の矢野裕一朗氏と、Tech Doctor代表・湊和修氏による対談だ。ここでは、AIヘルスケアの現場での使われ方と、そこから見えてきた課題が語られた。

 矢野氏によると、総合診療の外来では、すでにAIで調べた情報を前提に診察室に入ってくる患者が日常的になっている。健診結果をAIに読み込ませ、その回答をプリントアウトして持参するケースもあるという。

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順天堂大学医学部教 AIインキュベーションファーム センター長 矢野裕一朗氏

 ただ、そこには問題もある。AIと対話する過程では、個人の不安や経験にもとづくバイアスが強くかかりやすい。たとえば、親族を大腸がんで亡くした人が体重減少を相談すると、AIから繰り返し「大腸がん」の可能性を示され、そのキーワードを握りしめて外来に来るケースがある。その結果、医学的には優先度の低い検査が求められたり、本当に見るべきサインの聞き取りがおろそかになったりと、診断プロセスがゆがむリスクを高めかねない。

 それでもやはりAIへの期待は大きい。矢野氏が現場での活用イメージとして挙げたのは、日常生活データの“要約役”としてのAIだ。診察時間の限られた外来で、患者ごとに異なるアプリを開き、歩数や睡眠時間、心拍、活動量を一つひとつ確認するのは現実的ではないが、AIがそれらを集約し「ここ2カ月は睡眠が短く、体重が増加傾向」といった一文に整理してくれれば、それだけで診療の質は大きく変わり得るという。

 また、患者の変化を24時間モニタリングすることは医師には不可能だが、危険な変化があったときだけアラートを上げる「見張るAI」があれば、現場の負担を増やさずに予防的な医療に近づけるとも見ている。少子高齢化と医療費抑制を背景に受診回数の抑制が進むなか、こうした仕組みは一段と差し迫ったテーマになりつつある。

AI診療をインフラに変えるための制度・ビジネスの壁

 AI医療には期待も大きいが、実現に向けての課題も多い。そうしたなかで矢野氏が挙げたのは、診療報酬の壁だ。従来は「来院回数を増やし、検査を積み重ねる」ことで収益を上げるモデルだったが、受診回数の抑制や医療費のムダを減らす政策の下で、その前提は崩れつつある。

 通院の頻度も、毎月ではなく2カ月分の薬をまとめて出すといった形が広まりつつある一方で、 その間の状態変化を追うモニタリングにはほとんど評価や対価が用意されていないため、「重要性はわかっているが、診療報酬に結びつかないモニタリングに現場の時間を割きにくい」 というねじれが生じかねない構造になっている。

 さらに、AIと遠隔モニタリングを組み合わせるには、電子カルテ連携や、診療録や健診データなどのリアルワールドデータの位置づけなど、法制度・インフラ面の整備も欠かせない。矢野氏は、ウェアラブルや在宅モニタリングを組み込んだ新しい診療モデルを、医療機関と行政が本気でデザインし直す局面に来ていると強調した。

 こうした状況のなかで、Tech Doctorはデジタルバイオマーカーとヘルスポータルをインフラとして整え、医師が自らの経験と患者データをもとに“自分の分身”となるAIを育てていける環境づくりを進めており、将来的には蓄積データをもとに医師ごとの判断ロジックを反映した「自分のクローンのようなAI」を作り、在宅患者にも自分の診療スタイルを反映した助言を行えるようにする構想だ。

 そのなかで、AIに何を任せ、どこから先を人間が担うのかという線引きを、現場・企業・制度がどう擦り合わせていくかが、普及が進むAIヘルスケアを安全で持続的な社会インフラにしていけるかどうかの鍵になるだろう。

(取材・文=福永太郎)

福永太郎

福永太郎/フリーランス編集者・ライター

ライフスタイル系メディアの家電記事の担当を経て独立。現在は複数のWebメディアに寄稿。
福永太郎プロフィール

X:@fukunaga_taro

公開:2026.05.27 05:55