アップル、Mac・iPadを最大9万円超値上げ…なぜiPhoneだけ価格据え置き?

●この記事のポイント
アップルは2026年6月25日、Mac・iPadなど主要製品を最大9万円超値上げした一方、iPhoneの直販価格は据え置いた。背景はAI需要によるメモリ高騰と円安160円台。ソフトバンク・ドコモは独自にiPhone価格を引き上げ、中古スマホ市場は2024年度に321万台超(前年比17.7%増)と過去最高を記録している。
アップルは6月25日、日本国内のアップルストアで販売する「Mac」「iPad」「HomePod」「Apple TV」「Apple Vision Pro」の価格を、予告なく一斉に引き上げた。上位モデルのMac Studioでは9万1000円、MacBook Pro(16インチ)でも7万円の値上げとなり、コストパフォーマンスモデルとして期待された「MacBook Neo」ですら2万円上がって11万9800円になった。iPadも無印モデルで1万6000円の値上げとなり、これまで手頃な「入門機」だった製品が7万円台に乗った。
一方で、アップルの最主力製品である「iPhone」の直販価格は、この改定の対象から外れた。円安が160円台で定着し、AI需要による半導体メモリの争奪戦が続くなかで、なぜアップルはiPhoneの価格だけを守ったのか。その収益構造の裏側と、価格高騰に直面した日本の消費者・ビジネスパーソンが選び始めている「認定中古(白ロム)市場」への流入から、これからのデバイス調達のあり方を読み解く。
●目次
部材高騰と円安の「ダブルパンチ」が直撃したMac・iPad
アップルは今回の値上げについて、ロイターや米メディアの取材に対し、生成AI向けデータセンターの急拡大でメモリやストレージの需要が「これまでにない水準」に達し、価格上昇の影響をこれ以上吸収しきれなくなったと説明している。海外報道では、メモリ価格は2026年1〜3月期だけで最大98%上昇し、4〜6月期もさらに6割近く値上がりする見通しが伝えられた。
Mac・iPadはメモリやストレージを本体に多く内蔵する製品であるため、この部材コストの影響を正面から受けた形だ。MacBook Airは13インチモデルが18万4800円から22万4800円へ、iPad Airの11インチモデルは9万8800円から12万9800円へと上昇。メモリやSSDの容量アップグレード費用も軒並み引き上げられ、アップルは一部のMac Studio・Mac miniで大容量メモリ構成そのものを廃止するという異例の対応も取っている。
これに為替の要因が重なる。アップル製品は独自のドル円換算レートで日本価格が決定される構造にあり、2026年7月時点でドル円は161円台の高水準で推移している。iPhone 17シリーズの価格設定時に想定されていたレート(145〜151円台)から見ても、すでに10円以上の円安が進行した計算になる。部材高騰と為替という二つの圧力が、今回の大幅な価格改定を後押ししたとみるのが、報道各社に共通する見立てだ。
iPhoneだけが「据え置き」となった構造的な理由
一方のiPhoneは、今回の改定対象から外れ、Apple Watch・AirPods・AirTagとともに価格が維持された。ただし、これは「安泰」を意味するものではない。ティム・クックCEOは2026年6月17日付のインタビューで、半導体コストの上昇を理由に「Apple製品の値上げは避けられない」との見方を示しており、今回の一連の値上げはその発言を裏付ける形となった。
iPhoneが優先的に価格を守られる背景には、iPhoneがApple Watchやサービス部門(App Store、iCloudなど)へ顧客を呼び込む最大の「入り口」であるという収益構造がある。ITジャーナリストの小平貴裕氏は、「iPhoneはアップルにとって単体の収益源というより、周辺機器やサブスクリプション型サービスへの導線としての役割が大きい。価格を急に引き上げてユーザー離れを起こせば、経済圏全体の収益に響きかねない。他製品での値上げで利益を確保しつつ、iPhoneの値上げは可能な限り先送りする、というポートフォリオ戦略が透けて見える」と分析する。
実際、複数のアナリスト予測では、2026年秋に発表が見込まれる「iPhone 18」シリーズについて、ベースモデルの価格は現行の「iPhone 17」シリーズと同水準を維持する「アグレッシブな価格設定」になる一方、大容量ストレージモデルでは100〜200ドル程度の値上げが行われる可能性が指摘されている。既存モデルの価格を急に上げるより、新モデルの価格設定という形で調整するほうが消費者の反発を抑えられる、という読みがあるとみられる。
流通現場で先行する「事実上の値上げ」
アップル公式の価格が据え置かれる一方で、流通・キャリアの現場ではすでに異なる動きが出ている。ソフトバンクは2026年6月12日、オンラインショップでiPhone 17(256GB)の本体価格を15万9840円から16万4160円へ、iPhone 17e(256GB)を12万4560円から13万3200円へと、それぞれ数千円規模で引き上げた。ドコモも同年4月17日、iPhone 17e(256GB)を11万9900円から13万1219円に値上げしている。いずれも端末購入プログラムの残価(下取り想定額)を同時に引き上げることで、実質負担額自体は据え置く設計にしているのが特徴だ。
家電量販店では、ヨドバシカメラのSIMフリー版iPhoneがアップル公式より1万〜3万円ほど高い価格で販売されている状況が確認されており、ビックカメラやAmazonでも一部モデルが品薄・販売休止となるなど、流通網の対応にばらつきが出ている。この価格差については、単純な便乗値上げではなく、2026年11月に予定される消費税免税制度の見直し(購入時免税から出国時リファンド方式への移行)を見据えた対応という見方もあり、背景は一様ではない点には注意が必要だ。いずれにせよ、アップル公式価格が据え置かれているからといって、実際の店頭・キャリア価格まで変わっていないとは限らない、というのが現時点での実態である。
伸びる「認定中古」市場
こうした価格高騰を受けて存在感を増しているのが、キャリア各社が展開する「認定中古品」市場だ。ドコモの「docomo Certified」では、5G WELCOME割の適用によりiPhone一部モデルが2万円を切る価格で販売されるケースもあり、バッテリー最大容量80%以上を保証する検品体制や30日以内の初期不良交換対応など、安心材料を整えたうえでの販売が特徴となっている。
市場全体の数字でも、この動きは裏付けられる。MNP総研の調査によれば、2024年度の中古スマートフォン販売台数は321万4000台と前年度比17.7%増となり、過去最高を更新した。要因の一つとして、キャリアやメーカーによる「認定中古品」の取り扱い拡大が挙げられている。給与水準が大きく伸びない中で、20万円近い最新機種を2年ごとに買い替えるという従来型のサイクルが、多くの消費者にとって現実的な選択肢ではなくなりつつある状況がうかがえる。
一方で留意すべき点もある。メモリ価格高騰の影響は中古市場にも波及しており、中古端末の買取価格・販売価格自体も上昇傾向にあるとの指摘がある。新品との価格差が縮小する可能性もあるため、「型落ちなら何でも安い」と単純に捉えるのではなく、状態やモデルごとの実勢価格を見極める視点が今後より重要になるだろう。
今回の値上げは、部材高騰と円安という外部環境の変化に対し、アップルが自社のブランド力とエコシステムの強さを踏まえて優先順位をつけた、合理的な価格戦略の一断面と捉えることができる。為替と半導体需給という構造要因が短期間で解消される見通しは立っておらず、iPhoneを含むアップル製品全体の実質的な価格上昇圧力は、当面続くとみるのが自然だろう。
企業の調達担当者や個人のビジネスパーソンにとっては、「最新の新品を追いかける」ことを前提にしたデバイス選びから、認定中古・リファビッシュ品の活用やライフサイクルの長期化といった選択肢を組み合わせる「調達の多様化」へと、発想を切り替える局面に来ているといえる。価格の動きを一時的な現象として捉えるのではなく、構造的な変化として理解した上で、自社・自身に合った調達方針を見直すことが、円安と部材高騰が続く時代の現実的な向き合い方になりそうだ。
(文=BUSINESS JOURNAL編集部、協力=小平貴裕/ITジャーナリスト)











