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トヨタ次世代EV中止、ホンダ上場来初赤字…戦略修正した日本車メーカーの「次の一手」

2026.07.03 06:00 2026.07.02 22:53 企業
文=BUSINESS JOURNAL編集部、協力=荻野博文/自動車アナリスト

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●この記事のポイント
2026年5月、トヨタがレクサス次世代EV「LF-ZC」の量産開発を中止。ホンダも同年3月期に上場来初の4000億円の最終赤字を計上し、2040年全車種EV化目標を事実上撤回。背景にはトランプ政権のEV支援廃止など政策変化があり、欧米メーカーも同様に戦略修正を迫られている。日本車の「現実路線」の意味を読み解く。

 2026年5月、トヨタ自動車がレクサスブランドの次世代EV「LF-ZC」の量産開発を中止したと報じられた。2023年のジャパンモビリティショーで「クルマの未来を変える」と銘打って世界初公開され、ギガキャストや車載OS「Arene」、航続距離1000kmを掲げた次世代電池など、トヨタの先進技術を結集した象徴的なモデルだっただけに、業界には衝撃が走った。

 ほぼ同じ時期、本田技研工業(ホンダ)はさらに重い現実に直面していた。2026年3月期決算で最終損益が赤字に転落する見通しを発表し、最終的にその額は4000億円を超えた。これは1957年の上場以来初めての出来事だ。北米向けに開発していた新型EV「Honda 0(ゼロ)」シリーズのサルーンとSUV、そしてアキュラブランドのEVモデル「RSX」の開発中止に伴う減損・特別損失が主因で、2026年度と2027年度を合わせた損失額は最大2兆5000億円に達する可能性があるという。

 三部敏宏社長は、2040年までに新車のすべてをEVと燃料電池車にするという目標についても「現実的には実現が難しい」との認識を示した。6月26日に開催された株主総会では、会社提案の11人の取締役案の議案が可決されたものの、株主からは三部社長の経営責任を問う声もあがった。

 二社の発表だけを見ると「日本車のEV敗北」という見出しが浮かびやすい。しかし内容を丁寧に追うと、そこにあるのは単純な撤退劇ではなく、世界的なEV需要の変調を見極めたうえでの、極めて冷静な経営判断だという実像が見えてくる。

●目次

トヨタが止めたのは「車種」であって「技術」ではない

 トヨタの説明によれば、LF-ZC中止の直接的な引き金は、米国でのEV販売の失速とクーペ型セダンへの需要縮小だ。背景には、トランプ政権によるEV購入支援策の打ち切りや、欧州連合(EU)が2035年のエンジン車販売禁止方針を事実上撤回したことなど、主要市場をめぐる政策環境の変化がある。さらに対米関税の負担も重く、トヨタの2026年3月期決算では、関税影響だけで1兆3800億〜1兆4500億円規模の減益要因になったと説明されている。実際、同期の営業利益は前期比21.5%減の3兆7662億円となり、増収減益という結果に終わった。

 ただし重要なのは、トヨタが開発中止としたのはLF-ZCという「特定の車種」であり、そこに投入されていたギガキャスト、全固体電池、Arene OSといった要素技術の開発は継続するとしている点だ。技術担当の中嶋裕樹副社長は、LF-ZCの開発過程で培われた知見が「後続車」に引き継がれると説明しており、市場で売れ筋のSUV型などへ開発資源を振り向ける、いわば「車種の整理」という性格が強い。

 トヨタはかねて、EVだけに依存せず、ハイブリッド車(HEV)、プラグインハイブリッド車(PHEV)、燃料電池車(FCEV)、EVを並行して開発する「マルチパスウェイ」戦略を掲げてきた。2026年3月期の決算でも、電動車比率は56.7%に達したが、その大半をHEVが占め、BEV(純EV)は243万台と全体の中ではなお少数派にとどまる。需要が読みにくいBEVに偏重せず、収益の柱であるHEVで稼ぎながら次世代技術を育てるという基本姿勢は、今回の判断でも変わっていない。

ホンダはなぜ「全車種EV化」を急いだのか

 一方のホンダは、2021年に「2040年までに四輪車の世界販売をすべてEVと燃料電池車にする」という、自動車大手としては踏み込んだ目標を掲げていた。エンジン技術を強みとしてきたホンダが脱エンジンを宣言したことは当時大きな注目を集めたが、結果としてこの目標が、需要の見通しが定まらない段階での過大な先行投資につながった面は否めない。

 2026年3月の発表では、北米市場をメインに想定していた新型EV3車種の開発中止に伴い、資産の除却・減損費用などで最大1兆3000億円規模の損失を2026年3月期に計上するとされた。米国では、バイデン前政権が導入したEV購入支援策(7500ドルの税額控除)が撤廃され、カリフォルニア州を中心とした排出規制の先行きも不透明になっている。ホンダにとって北米は四輪事業の収益の柱であり、その市場でのEV需要鈍化は経営への打撃が大きかった。

 三部社長は記者会見で、このまま量産・販売段階に進めば将来的な損失拡大を招きかねないとして、早期に損失を確定させる「止血」の判断だったと説明している。経営責任を明確にするため、自身を含む経営陣の報酬を一部返上する措置も発表された。ホンダは2026年度と2027年度を業績の「底」と位置づけ、2028年度以降の収益回復を目指すとしている。

欧米メーカーも同じ流れ――EVは「失速」ではなく「踊り場」

 日本の2社だけが立ち止まっているわけではない。欧州勢を見ても、メルセデス・ベンツは2030年までに「市場環境が許す限り」新車をすべてEVにするとしていた目標を撤回し、プラグインハイブリッド車やエンジン車の販売継続を明言した。フォルクスワーゲンも工場再編や人員削減を伴うEV戦略の見直しを進めており、米ゼネラル・モーターズやフォードもEVからハイブリッド車へと開発の重心を移している。

 一方で、EV市場そのものが縮小しているわけではない点には注意が必要だ。欧州ではEV購入補助金を再導入した国もあり、2026年に入ってからの販売は前年同月比で増加傾向にある地域も見られる。中国では新エネルギー車の比率が新車販売の半数近くに達しており、BYDなど中国メーカーは海外展開を加速させている。つまり世界全体で見れば、EVシフトが完全に止まったというより、地域差をともないながら「想定より緩やかなペースでの普及」という踊り場局面に入った、というのが実態に近い。

 自動車アナリストの荻野博文氏は「EVへの投資を止めることと、EVを諦めることはまったく別の話。要素技術の開発を続けながら量産投入のタイミングを市場の成熟度に合わせて調整するのは、製造業としてはむしろ王道のリスク管理」と指摘する。そのうえで「問題はホンダのように、目標とコミットメントを急ぎすぎたケース。減損の規模が大きいほど、経営体力への負荷も大きくなる」と分析している。

「撤退」ではなく「戦略的な再調整」

 トヨタのLF-ZC開発中止とホンダの大型減損は、表面的には「EVで出遅れた日本車の苦境」と映りやすい。しかし実際には、世界的なEV需要の変調という共通の市場環境のなかで、各社が投資のタイミングと規模を見直しているにすぎない側面が大きい。トヨタは技術開発を継続しながら投入車種を絞り込み、ホンダは損失を早期に確定させたうえで収益基盤の立て直しに動いている。

 今後の焦点は、各社が温存した技術力をいつ、どのモデルで市場に投入できるかに移る。HEVやPHEVで足元の収益を確保しながら、全固体電池やソフトウェア・ディファインド・ビークル(SDV)といった次世代技術をどこまで磨けるか――。EVをめぐる競争は終わったのではなく、「持久戦」の局面に入ったと見るのが妥当だろう。

(文=BUSINESS JOURNAL編集部、協力=荻野博文/自動車アナリスト)

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公開:2026.07.03 06:00