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「中国産ホンダEV」は反撃の狼煙となるか…国内各社が「中国提携」を選択する意味

2026.04.23 06:00 2026.04.23 00:00 企業
文=BUSINESS JOURNAL編集部、協力=荻野博文/自動車アナリスト
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ホンダ「INSIGHT」(公式YouTubeより)

●この記事のポイント
ホンダは中国・東風ホンダ製EV「インサイト」を日本で発売(価格550万円、補助金適用で実質420万円、3,000台限定)。EV事業で最大2.5兆円損失見通しのなか、中国生産車の逆輸入でラインアップ補完と収益改善を図る。トヨタや日産も中国連携を強化し、日本のEV普及率2.66%という遅れを背景に「短期は中国技術活用、長期は全固体電池」で巻き返しを狙う構図が鮮明になっている。

 4月17日、ホンダがある「歴史的な一歩」を踏み出した。中国の合弁会社「東風ホンダ」が生産したSUV型EVをベースに右ハンドル化・国内仕様に改めた新型「インサイト」を、日本で正式に発売したのだ。希望小売価格は550万円。国のEV補助金130万円が適用され、実質420万円で手に入る。販売台数は3,000台の数量限定だ。

 日本車メーカーが中国で生産したEVを国内に輸入・販売するのは今回が初めてのことだ。そしてそれが、1999年に世界初のガソリン・ハイブリッド車として登場した「インサイト」という名を冠していることの意味は重い。かつてエコカーの象徴だったその名が、今度は「中国製EV」として帰ってきた——。この事実が、日本の自動車産業が置かれた現在地を、端的に示している。

●目次

ホンダのEV戦略:背水の「逆輸入」と次世代への種まき

 逆輸入に至った背景には、二重の文脈がある。

 一つは「品ぞろえの穴埋め」という現実的な事情だ。ホンダはEVに力点を置く戦略の見直しを発表したが、国内では品ぞろえが不足しており、ラインアップを拡充する必要があった。さらに、販売が不振に陥った中国の工場稼働率を高める狙いも重なっている。

 もう一つは、より深刻な財務上の現実だ。ホンダは2026年3月期に、EV関連の巨額損失として最大2兆5,000億円を計上する見込みであり、1957年の上場以来初の最終赤字に転落するとみられている。米国で生産予定だった「Honda 0 SUV」「Honda 0 Saloon」「Acura RSX」の3車種の開発・発売を中止した結果、2026年3月期の連結業績で8,200億〜1兆1,200億円の営業費用、さらに1,100億〜1,500億円の持分法による投資損失を計上する見込みだ。

 こうした状況の中での「中国産インサイト」投入は、矛盾しているように見えて、実は合理的な判断でもある。自前の大型EV開発が白紙に戻る一方で、中国での合弁資産は既に存在している。それを活用し、「今すぐ売れるEV」を国内に供給することは、短期的な赤字を和らげる現実解だ。

「EV開発における最大の競争力は、いまや開発スピードと規模の経済にあります。中国メーカーが約2年で新型モデルを市場投入するなか、独自開発に固執し続けることのリスクと、提携によって学習しながら時間を稼ぐリスクを比較衡量した結果が、今回の逆輸入という選択といえます」(自動車アナリスト・荻野博文氏)

トヨタと日産:三者三様の「中国連携」スタイル

「中国技術の活用」はホンダだけの話ではない。業界全体のトレンドを俯瞰すれば、日本の主要3社が各々の流儀で中国との連携を深めていることが浮かび上がる。

トヨタ——「共創」で時間を買う

 BYDとトヨタが2020年に設立した合弁会社「BYD TOYOTA EVテクノロジーカンパニー(BTET)」は、BYDのEV市場での競争力・開発力と、トヨタの品質・安全という強みを融合し、電気自動車の研究開発を共同で進めている。bZシリーズはその成果の一部だ。

 トヨタがBYDと組む最大の理由は、「時間軸の調整」にある。トヨタの全固体電池搭載EVは早ければ2027〜2028年に市場投入される可能性があり、スケジュールは野心的ながら現実味を帯びてきた。その本命技術が実用化されるまでの「空白の数年間」を、中国で培ったEV技術で埋める——これがトヨタの二段構え戦略の核心だ。

日産——中国を「輸出拠点」へ転換

 日産のアプローチはさらに踏み込んでいる。2025年6月、日産(中国)投資公司と東風汽車は輸出目的の合弁会社を設立すると発表。資本金10億元(約2,200億円)、出資比率は日産60%・東風40%で、中国製の完成車や部品のグローバル供給を加速する戦略の一環だ。中国で生産するEVの中国外への輸出は2026年内に始まる計画だ。

 日産のエスピノーサ社長は「東風汽車との合弁にはスピード、技術、コスト競争力という3要素がある」と語り、中国での知見を全社に広げる方針を明言している。かつて「技術の日産」と謳われたブランドが、今や中国のスマート技術を逆輸入しようとしている——その構造転換は、業界の地殻変動を象徴している。

「ホンダの今回の選択は、EV先行投資の損切りと合弁資産の有効活用を同時に実現する現実的な判断です。ただし重要なのは、この『橋渡し期』に何を学び取るかです。中国のEVエコシステムは、電池・ソフトウェア・製造の三位一体で競争力を構築しており、そのどれか一つを借用するだけでは根本的な競争力にはなりません」(同)

「ガラパゴス化」を防げるか? 日本市場の特殊性

 こうした動きの背景には、日本のEV普及の鈍さという現実がある。2025年通年の日本のEV(BEV+PHEV)シェアは2.66%にとどまり、世界平均の27.7%と比べて約10倍の差が開いている。

 充電インフラも追いついていない。2024年には急速充電器が12,313台、普通充電器が73,089台、合計85,402台に達し、前年比58%増という急拡大を記録したものの、欧州や中国と比較すれば整備は途上にある。日常の「充電の不安」が普及の壁として依然として残っている。

 一方で、市場に変化の兆しも見え始めている。2026年はフルモデルチェンジした日産リーフやトヨタbZ4Xに加え、スズキ「eビターラ」、BYD「ラッコ」など幅広いユーザー層が手の届きやすい新型EVの発売が相次ぐ予定で、遅れていた日本のEV普及がいよいよ加速するとの見方がある。

 ここで注意すべきは、「中国産EV」への懸念が単なる品質論に留まらないことだ。地政学的リスク、サプライチェーンの対中依存、そして国内産業の空洞化——これらは産業政策上の課題として、今後ますます議論を呼ぶだろう。ただし現時点では、日本が関税や輸入規制で中国製EVを締め出す動きには至っておらず、むしろ補助金制度が国産・外国製を問わず広く適用される構造になっている。

2030年に「和製EV」は生き残れるか

 短期的に中国技術を取り込みながら、中長期では独自の強みで逆転を図る——これが日本メーカー3社に共通する「二段構え戦略」の骨格だ。

 その逆転の切り札として期待されるのが、全固体電池とSDV(ソフトウェア定義車両)技術だ。トヨタと出光興産は固体電解質の量産技術開発で協業しており、2027〜2028年の全固体電池搭載車の市場投入をより確実なものにすることを目指している。エネルギー密度の大幅向上と充電時間の短縮が実現すれば、EV体験を根底から変える可能性を秘めている。

 ソフトウェア面ではソニー・ホンダモビリティが展開する「AFEELA」ブランドが、エンターテインメントとモビリティを融合した新しい車の定義を模索している。車の価値が「エンジン性能」から「ソフトウェアとユーザー体験」へと移る中で、日本メーカーが蓄積してきた品質管理・安全設計のノウハウを、いかにソフトウェア時代に読み替えられるかが問われている。

 2026〜2027年は「耐え忍ぶ時期」だ。中国技術の積極活用によるラインアップ拡充とコスト削減に徹し、出血を最小限に抑える。そして2028〜2030年、全固体電池と独自OSを備えた「真の次世代EV」で攻勢に転じる——このシナリオが絵に描いた餅に終わるかどうかは、今まさに問われている。

「日本のEV普及率の低さは、インフラの問題もさることながら、消費者に刺さる『欲しい』と思えるモデルの不在が大きかった。今年は各社からリーズナブルな新型EVが相次いで投入されるタイミングで、市場が動くかどうかの正念場です」(同)

「メイド・イン・ジャパン」の定義が変わる

「中国産ホンダ」の登場は、敗北の象徴なのか、それとも生存のための進化なのか。

 その答えは、おそらく問い方そのものを変える必要がある。製造場所がどこであれ、設計思想・品質管理・安全基準においてホンダのアイデンティティが担保されているなら、それはホンダの車だ。グローバル化が進んだ現代において、「どこで作るか」よりも「誰が責任を持つか」「何を大切にするか」の方が本質的な問いになっている。

 消費者にとっての恩恵は明確だ。中国の開発スピードと規模の経済を取り込むことで、より高性能なEVがより手の届きやすい価格で提供される可能性が高まる。

 問題は、この過程で日本の自動車産業が蓄積してきた「ものづくりの知」が空洞化しないか、という点だ。中国メーカーとの協業が深化する中で、「技術を学ぶ側」から「技術を提供される側」への転落を防ぐための自前のイノベーション投資を、いかに継続できるか——。それが、2030年に「和製EV」が真の意味で世界に存在感を示せるかどうかを決する、最も根本的な問いである。

(文=BUSINESS JOURNAL編集部、協力=荻野博文/自動車アナリスト)

荻野博文/自動車アナリスト

国内外の自動車メーカーで設計・デザインを研究。特に欧州の自動車市場に詳しい。海外の展示会場にも足を運び、現地で最新の情報を仕入れている。

公開:2026.04.23 06:00