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バーガーキング、2度撤退から既存店46カ月連続増収…業界の常識を壊しながら成長

2026.06.06 06:00 2026.06.06 00:06 企業
文=BUSINESS JOURNAL編集部、協力=杉田誠/外食産業コンサルタント
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バーガーキングの店舗(「Wikipedia」より)

●この記事のポイント
バーガーキングが2019年の体制刷新後、既存店売上高46カ月連続増収・2025年度売上575億円(前年比53%増)を達成した背景を分析。2度の日本撤退の真因、マクドナルドの動きを逆用するPRドリブン型マーケティング、平均3年未満の投資回収モデルによるFC拡大戦略、外国籍人材3分の1という多様な組織論まで、逆転劇の全貌を構造的に解説する。

 ハンバーガー業界に、異変が起きている。かつて「マクドナルドの牙城を崩せず撤退したブランド」として記憶されていたバーガーキングが、2019年の体制刷新以降、既存店売上高の連続増収を続けている。全店売上高は61カ月連続、既存店でも24カ月以上の増収が続き、2025年通期の売上高は前年比53%増の575億円に達した。店舗数も2019年5月の77店舗から2025年10月には308店舗へと約4倍に拡大し、ハンバーガーチェーンの業界ランキングでは4位に浮上している。

 なぜ、かつての「敗者」がここまで変わったのか。その答えは、プロダクトの品質が変わったからではない。「戦略の設計思想」が根本から変わったからだ。

●目次

2度の敗退が示す「戦略の不整合」という本質

 バーガーキングの日本進出の歴史は、失敗の連続だった。1993年に西武商事が米バーガーキング社とフランチャイズ契約を結び日本初上陸を果たしたが、本国との経営方針の対立から関係は悪化し、1996年にJT(日本たばこ産業)へ運営が移管。その後もマクドナルドが展開した「平日ハンバーガー65円」の価格攻勢の前に客足は遠のき、2001年3月に全店舗を閉鎖し、日本から完全撤退した。

 2006年にはロッテとリヴァンプの共同出資で再上陸を果たすが、こちらも事業は伸び悩み、2010年にはロッテリア(韓国法人)に負債ごと100円で買収されるという屈辱的な結末を迎えた。

 この2度の失敗の根底には、共通する構造的な問題があった。ひとつは「本国主導の商品・価格設計」だ。巨大なワッパーを軸とした米国流の「高価格・大容量」モデルをそのまま持ち込んだが、日本の消費者は価格の手頃さや食べやすさを重視する傾向が強く、ニッチなファン層の支持にとどまった。もうひとつは「スケールの欠如」だ。マクドナルドが2,000店舗超の全国網を持つなか、バーガーキングは規模の経済が働かず、原材料調達や物流のコストが利益を圧迫し続けた。

「失敗は商品の問題ではなく、誰に・どう届けるか、そして持続可能な規模をいかに構築するかという戦略設計の問題でした」(外食産業コンサルタント・杉田誠氏)

「王者の影」を逆手に取るマーケティングへの大転換

 2019年、香港系投資ファンドのアフィニティ・エクイティ・パートナーズのもとで新体制が発足し、キリンビール出身の野村一裕氏がマーケティングディレクターとして入社。現在は代表取締役社長を務めるこの人物が、ブランド戦略の根本的な刷新を主導した。

 当時の社内状況について野村氏は「自社の強みが何かも定まっておらず、ブランドのルールも曖昧だった」と振り返る(日経クロストレンドより)。そこから逆算して設計されたのが、「直火焼きの100%ビーフ」という揺るぎない製品差別化と、それを「BOLD&BULLISH(大胆で強気)」なコミュニケーションで伝えるブランド戦略だ。

 特筆すべきは、業界最大手マクドナルドとの向き合い方の巧みさである。真っ向勝負を避けながらも、競合の動きを緻密に観察し、世間の「ハンバーガー関心度」が高まるタイミングに独自のキャンペーンを重ねる「波乗り戦略」を採用した。2020年に秋葉原の隣接するマクドナルドが閉店した際には「22年間たくさんのハッピーをありがとう」と記したポスターを掲出。文面の縦読みには「私たちの勝チ」というメッセージが隠されており、SNSで瞬く間に拡散した。渋谷センター街店では、対面のマクドナルド客席から見た場合にのみ正対して読める屋外広告を設置し、推計3億円相当の広告効果を生んだとされる。

 2024年には、顧客から空き物件情報を募集し、契約成立時に紹介者へ10万円を贈呈するキャンペーン「バーガーキングを増やそう」を実施。「お金配り」への批判リスクを承知で踏み切ったこの施策は炎上することなく、12件以上の物件成約という実績とともに大きな話題を集めた。

「バーガーキングの手法は、限られた予算で最大の認知拡大を狙うPRドリブン型マーケティングの好例です。競合他社をあからさまに貶めることなく、ユーモアで”共感の連鎖”を生むアプローチは、日本市場においても十分機能することを証明しています」(同)

「日常使い」と「ご褒美消費」を架橋する価格・商品設計

 ブランド戦略と並行して整備されたのが、顧客の購買行動を段階的に設計するカスタマージャーニーの仕組みだ。

 かつての「高い・食べにくい」というイメージを払拭するため、同社は「オールデイキング」と呼ぶEDLP(Everyday Low Price)型セットメニューを導入した。時間帯や曜日を問わず550〜650円程度の一定価格で利用できるこのセットは、価格に敏感なライト層をファストフードの日常利用圏に引き込む役割を担う。

 一方、アプリを活用した個別クーポン戦略では、購買履歴をもとに限定バーガーや高単価のワッパー類へのステップアップを促す。安売りで終わらせず、「本格バーガーを食べるならバーガーキング」という指名買いへとつなげるワンオンワンマーケティングの設計が、客単価と来店頻度の双方を向上させた。

「3年未満の投資回収」がFC展開を加速させる

 成長エンジンのもうひとつの柱がフランチャイズ(FC)戦略だ。2026年には年間99店舗の出店を計画しており、2028年末までに600店舗体制を目指す。現在FC店舗は50店舗程度だが、将来的には全体の約半分をFCで担う計画だ。

 最大の訴求ポイントは、投資回収期間の短さにある。同社によれば、バーガーキングの店舗投資は平均3年未満で回収できるケースが多いという(食品産業新聞社、2026年3月報道)。2025年の平均月商は約1,700万円と公表されており、外食FC業界の平均的な回収期間が5〜7年とされることを踏まえると、異例の効率性といえる。

 2026年4月には既存飲食FCからの「乗り換えプラン」も発表し、設備投資の最大半額(最大4,000万円)をバーガーキング側が負担するという積極策も打ち出した。好立地での駅前出店ではドラッグストアとの競合が激化しているという課題も存在するが、郊外ロードサイド型でのドライブスルー展開(2028年以降を想定)も視野に入れており、出店の多様化を図っている。

「本部99%が転職者、現場3分の1が外国籍」という多様な組織の強さ

 持続的成長を支えるのは、ブランドや商品だけではない。組織の人材構造にも、バーガーキングの独自性がある。

 2025年時点で、本部組織の99%は転職者で構成されており、全国1万人超のスタッフのうち約3分の1を外国籍の人材が占める(ITmedia Business Online、2025年5月報道)。慢性的な人手不足が続く外食産業において、外国籍スタッフの積極採用と、日本語教育支援などの長期的なキャリア投資は、定着率とモチベーションの向上につながっているとみられる。

 野村社長は自身の転職経験や挫折を踏まえ、異なるバックグラウンドを持つ人材が自律的に動ける組織づくりを重視してきたという。目先の離職を過度に恐れず、働く意欲と成長機会を提供することへのコミットメントが、「感謝の連鎖」として現場の生産性に還元されつつある。

「人手不足時代の外食産業において、外国籍人材への長期投資は、単なる”補完”ではなく競争優位の源泉になりうる。バーガーキングの事例は、組織多様性とビジネス成果の好循環を示す実践例として注目に値します」(同)

「2番手の正しい戦い方」が示す、普遍的な経営の教訓

 2025年には、運営会社の株式売却においてゴールドマン・サックスが優先交渉権を取得し、700億円規模の買収が報じられた。これは投資ファンドが日本事業の価値を高めて売却するというモデルの成功例であるとともに、バーガーキングという事業体への市場からの正当な評価でもある。

 2度の撤退という過去を持つバーガーキングが示したのは、プロダクト自体の優劣よりも、「誰に・何を・どう届けるか」という戦略の整合性と、それを実行できる組織を構築することの重要性だ。マーケティング・FC展開モデル・人材戦略の3つの歯車が噛み合ったとき、強大な先行者が存在する市場においても独自のポジションを確立できることを、バーガーキングの事例は示している。

 後発ブランドや2番手企業が「正しく戦う」とはどういうことか——その答えのひとつが、このバーガーの中に詰まっている。

(文=BUSINESS JOURNAL編集部、協力=杉田誠/外食産業コンサルタント)

公開:2026.06.06 06:00