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英BP「山形沖撤退」検討の衝撃…世界で失速する洋上風力、日本勢を待つコスト地獄

2026.07.13 06:00 2026.07.11 23:33 経済
文=BUSINESS JOURNAL編集部、協力=佐伯俊也/エネルギー政策研究家

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●この記事のポイント
英BPが山形県遊佐町沖の洋上風力発電事業から撤退を検討している背景を起点に、世界的なインフレや金利上昇で洋上風力投資が見直される現状を解説。BPの再エネ戦略転換や三菱商事案件の採算悪化、日本特有の高コスト構造、政府の導入目標とのギャップ、FIT・FIP制度や電気料金への影響まで整理し、日本の洋上風力政策が抱える課題と今後の論点を考察する。

 再エネの切り札と目されてきた洋上風力発電が、世界的なインフレとコスト高騰という「逆風」にさらされている。そんななかで、英石油大手BPが山形県遊佐町沖の洋上風力事業から撤退する方向で調整に入ったことが明らかになった。

 なぜ世界的なエネルギー企業は日本の有望案件から身を引こうとしているのか。そして、なぜ日本だけがこの厳しい事業環境の中で洋上風力への投資を続けようとしているのか。山形沖をめぐる期待と現実、そして残された国内勢が直面する課題を整理する。

●目次

BPの「冷徹な判断」が突きつけた現実

 複数の関係者によると、BPは丸紅が主導し関西電力、東京ガス、建設会社の丸高(山形県酒田市)が参加する事業連合から脱退する方向で協議に入った。山形県遊佐町沖のこの事業は経済産業省と国土交通省の公募により2024年12月に丸紅連合が選定されたもので、発電容量は45万キロワット、2030年6月の運転開始を目指している。丸紅側は「決まった事実はない」としており、BP英国本社も明言を避けているが、丸紅連合自体は事業を継続する方針だ。BPが撤退を検討している具体的な理由は明らかにされていないが、世界的な資材高騰により事業環境が厳しさを増していたことが背景にあるとみられている。

「洋上風力では、発電量の予測だけでなく、建設費、金利、為替、部材調達、海底地盤、工期遅延を一体で管理する必要があります。出資者が1社抜けたからといって直ちに事業が成立しなくなるわけではありませんが、資金調達条件やリスク分担を見直さざるを得ない可能性は高い。特に重要なのは、BPが保有していた役割とリスク負担を、残る企業がどこまで引き受けるかです」(エネルギー政策研究家の佐伯俊也氏)

 これは一企業の投資判断にとどまらない。海外の大手エネルギー企業が日本の洋上風力事業から距離を置く動きが相次いでいるという事実そのものが、日本の再エネ政策が置かれた状況を映し出している。

世界的に見直しが進む洋上風力投資

 洋上風力をめぐる逆風は、日本だけの現象ではない。欧米では資材価格や人件費の高騰、金利上昇によって開発コストが計画時から大きく膨らみ、事業の採算性が崩れる例が相次いでいる。

 象徴的なのがBP自身の方針転換だ。BPは2020年当時、2030年までに再生可能エネルギーの発電容量を2019年比20倍の50ギガワットに引き上げるとし、低炭素分野への投資を年50億ドル規模に拡大するとしていた。しかし2025年2月、この目標を撤回し、再エネ中心の投資額を8億ドル未満に大幅縮小すると発表。同時に石油・ガスの増産に転じる方針を示した。

 背景には、株式の5%を保有するアクティビスト(物言う株主)エリオット・インベストメント・マネジメントによるコスト規律の要求や、2023年から2024年にかけての業績・株価の低迷があったとされる。BPは同時期、正社員約5000人、契約社員約3000人の削減も発表しており、米国の陸上風力発電事業も売却する方針を打ち出している。石油メジャーの間で再エネ投資に最も積極的だったBPのこうした転換は、業界全体の潮流を象徴する出来事といえる。

「BPの戦略転換を『脱炭素の終わり』と捉えるのは正確ではありません。より本質的なのは、再エネであっても採算性と資本効率を厳しく問われる段階に入ったことです。低金利と資材安を前提に組まれた案件は、現在の金融・物価環境では成立しにくい。政府の長期目標が維持されても、個別企業が同じ速度で投資を続けるとは限りません」(同)

なぜ日本だけが導入目標を掲げ続けるのか

 一方、日本政府は洋上風力を「再エネ主力電源化の切り札」と位置付け、2030年までに10ギガワット、2040年までに30~45ギガワットの案件形成という導入目標を掲げている。四方を海に囲まれ、陸上での再エネ適地が限られる日本にとって、洋上風力は数少ない大規模導入が可能な再エネ電源とされてきた。

 もっとも、この目標はあくまで国の認定を受けた「案件形成」の目標であり、実際に運転を開始した容量を意味するものではない点には注意が必要だ。専門機関の分析では、目標達成のみでは2030年の温室効果ガス排出削減目標に十分寄与するとはいえず、認定された案件を実際に早期稼働させるための追加施策が必要だと指摘されている。

 こうした高い目標が独り歩きするなか、国内では第1ラウンドで選定された事業の一部がすでに撤退や見直しに追い込まれている。三菱商事グループは2021年の入札で千葉県銚子沖、秋田県能代・由利本荘沖の3海域を極めて低い価格で一括落札したが、その後のインフレや円安、金利上昇、海底地盤調査による設計変更などが重なり、風車調達費用が公募時の想定から2倍以上に膨らんだとされる。経済産業省・国土交通省の合同会議による分析でも、こうした事業環境の変化が撤退の要因になった可能性が指摘されている。すでに数百億円規模の減損損失が計上されており、政府はこの経緯を踏まえて公募制度の見直しを進めている段階だ。

山形沖に集まった地域の期待

 山形沖のプロジェクトをめぐっては、基地港湾の整備や地元企業のサプライチェーン参入、関連産業の集積など、地域経済への波及効果への期待が寄せられてきた。洋上風力は風車1基あたり1万~2万点にのぼる部品を要し、造船や建設、メンテナンスなど裾野の広い産業であるため、地方港湾都市にとっては新たな雇用創出の機会として注目されてきた経緯がある。

 こうした期待自体は不合理なものではない。しかし、事業の採算性が国際的な資材価格や金利動向に大きく左右される以上、地域振興の前提となる事業計画そのものが外部環境の変化によって揺らぎうるという現実も、今回のBPの動きは改めて示したといえる。外資系企業の関与が薄まれば、大型プロジェクトに必要な資金調達力やプロジェクトマネジメントのノウハウをどう補うかが、地域にとっても切実な課題として浮上する。

丸紅連合単独での事業継続は可能か

 BPが持っていたとされる大規模洋上風力プロジェクトの海外での開発実績やグローバルな資材調達網は、国内企業が一朝一夕に代替できるものではない。洋上風力は着工から運転開始までのリードタイムが長く、風車本体は依然としてヴェスタスやシーメンス・ガメサといった海外メーカーへの依存度が高い。円安が続けば、輸入する主要機材のコストはさらに膨らみやすい構造にある。

 自然エネルギー財団などの分析によれば、日本の洋上風力の設備投資費用は、台風・地震への耐性を踏まえた風車の認証要件や、複雑な海底地質による据付コストの増加などから、欧州の参照ケースに比べて2割程度高いと試算されている。加えて、送電網への接続にあたって変電所増強費用を開発事業者側が負担する制度設計も、コスト増の一因として指摘されている。こうした構造的なコスト高は、外資の有無にかかわらず国内事業者が向き合わざるを得ない課題である。

コスト増加分は最終的に誰が負担するのか

 洋上風力事業のコストが計画から膨らんだ場合、それを吸収する仕組みとして固定価格買取制度(FIT)や、市場価格に一定のプレミアムを上乗せするFIP制度が存在する。しかし、建設費や調達費の増加が制度上の想定を超えて拡大すれば、最終的な負担は電気料金を通じて国民や企業に転嫁されかねない。エネルギー政策の専門家の間では、単純な発電原価(LCOE)だけでなく、系統安定化のための火力バックアップや送電網増強、補助金なども含めた総合的なコスト(FCOEなどと呼ばれる考え方)で評価すべきだとの指摘もある。

 欧州や米国の大手企業が経済合理性を優先して洋上風力事業からの撤退や縮小を選ぶ一方、日本は依然として高い導入目標を掲げ続けている。カーボンニュートラルの実現やエネルギー自給率向上という政策目標自体は理解できるものであり、洋上風力が持つポテンシャルを否定するものではない。

 ただし、国際的な資材価格や金利動向、為替の影響を受けやすい大型インフラ事業である以上、当初の事業計画が崩れるリスクは常につきまとう。BPの撤退検討が示したのは、日本の洋上風力事業が「儲かる」ことを前提に組み立てられてきた計画の見直しを迫られているという現実だ。今後、国内事業者だけで事業を継続していく上では、コスト増加分をどのように配分し、誰がどこまで負担するのかについて、透明性のある議論を積み重ねていくことが求められる。過大な期待にも過度な悲観にも偏らず、実態に基づいた冷静な検証が今、必要とされている。

(文=BUSINESS JOURNAL編集部、協力=佐伯俊也/エネルギー政策研究家)

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公開:2026.07.13 06:00