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本命視された東電が敗北…三菱商事、洋上風力発電「3海域」を独占受注で価格破壊

文=Business Journal編集部
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三菱商事が所在する丸の内パークビルディング(「Wikipedia」より)

 脱炭素の流れは「歴史の転換点。チャンスだ」。4月1日付で三菱商事の社長に就任した中西勝也氏(前常務執行役員)はこう語る。中西氏は海外の電力事業や再生エネルギーを担う電力ソリューショングループのCEO(最高経営責任者)を務めてきた。

 三菱商事は発電事業で再生可能エネルギー由来の電源の割合を2019年度の3割から30年度に6割超に増やす方針を打ち出し、脱炭素関連に2兆円を投じる。その一方で、石炭や液化天然ガス(LNG)など化石燃料由来の電源を7割から3割程度に減らす。三菱商事は脱炭素を商機と捉え、20年に再生可能エネルギー分野に本格進出した。オランダのエネルギー企業エネコを中部電力と共同で5000億円(三菱商事の出資は3900億円)で買収した。

 中西社長は電力分野に精通しており、洋上風力発電に注力する。欧州では買収したエネコを通じて洋上風力発電の投資を増やす。中西氏は20年、社内にエネルギー委員会を立ち上げた。発電、LNG、石油化学の3グループのトップが集まり、脱炭素時代のビジネスをどう捉えるかを議論してきた。

ダークホースだった三菱商事が3海域を独占

 日本ではエネルギー業界のメインプレーヤーたちが洋上風力発電の公募・入札でしのぎを削る。秋田県と千葉県の3海域に建設する洋上風力発電事業の入札は、その第1弾として注目を集めた。発電容量は3海域合計で約170万キロワット。中型の原子力発電所2基分に相当する規模だ。そこに134基の大型風車を設置する。

 21年12月24日、政府は3つの海域(秋田県能代市・三種町及び男鹿市沖、秋田県由利本荘市沖、千葉県銚子市沖)で洋上風力発電を行う事業者の公募結果を発表した。いずれも三菱商事、三菱商事エナジーソリューションズ(三菱商事の全額出資の子会社、東京・千代田区)や中部電力グループの電力関連の建設会社、シーテック(名古屋市)などの企業連合が選ばれた。再生エネルギー専業のレノバ(プライム市場上場)は、あえなく敗退した。

 三菱商事系が3海域を総取りしただけではない。落札価格が価格破壊といえるほど廉価だったため、電力業界に衝撃が走った。秋田県能代市沖は1キロワットあたり13.26円、秋田県由利本庄市沖は11.99円、千葉県銚子市沖は16.49円で落札した。

 この価格がどれだけ安いかは、他の陣営の応札価格と比べてみれば一目瞭然だ。他の陣営は能代市沖は16.97~26.95円、由利本荘市沖は17.20~24.50円、銚子沖は22.59円だ。絶対的な価格差がものをいい、三菱商事グループが受注を独占した。

 三菱商事がなぜ圧勝したのか。オランダのエネコの存在が大きかったという。12年からエネコと洋上風力発電分野で共同開発に取り組んでおり、「ノウハウの蓄積がある」(三菱商事の幹部)。発電に使う風車を米ゼネラル・エレクトリック(GE)に一本化したことでコストダウンを徹底できたのも大きかった。今後、GEの風車は日本国内で一定の評価を得るとみられる。

 GE製風車は大型だ。三菱商事は風車の本数を減らすことで建設コストを抑制。破格の入札価格を実現する一助にした。GEの風車の基幹部品は東芝の京浜事業所(横浜市)で共同生産する。対するレノバはベスタス(デンマーク)製の導入を予定していたが、出力はGE製に比べて小さかった。

 事前の下馬評ではレノバの陣営が本命で、三菱商事系はダークホースにすぎなかった。洋上風力発電の世界最大手オーステッド(デンマーク)と組んで入札に臨み、銚子市沖では本命視されていた東京電力の首脳は三菱商事に敗れ、大きなショックを受けたことを隠さなかった。

 三菱商事に、今回の入札で負けた主な企業を列挙しておく。東京電力、東北電力、住友商事、レノバ、九電みらいエナジー(九州電力の子会社)、JR東日本、J-POWER(電源開発)などである。

レノバは年商に匹敵する売り上げを失う

 入札結果に株式市場は敏感に反応した。社運を賭けて秋田県由利本荘市沖の公募に臨んだレノバの落選が伝えられると、レノバの株価が暴落した。レノバの株価は21年9月13日に6390円の上場来高値を記録した。しかし、落選後、最初の営業日だった21年12月27日から、年が明けた1月17日まで13営業日連続で安値を更新。それでも下落に歯止めがかからず、22年2月24日に昨年来安値の1271円をつけた。高値からの下落率は8割に達した。

 レノバは入札に参加した企業連合のなかでも、いち早く2015年から地元との対話を進め、海底地盤などの自然調査でも先陣を切っていた。地元の東北電力を企業連合に迎え、由利本荘市沖の洋上風力発電では、本命と見られていた。だが、三菱商事にまったく歯が立たなかった。

 レノバの22年3月期の連結決算(国際会計基準)は売上高にあたる売上収益は286億円、最終利益は11億円の赤字の見込みだ。「由利本庄市沖の洋上風力発電を落札できれば、レノバは年商に匹敵する売り上げがある」と、株式市場は期待していたが、受注に失敗したことで22年3月期決算は一転して赤字になる。「中長期の成長期待が剥落した」(エネルギー担当のアナリスト)と失望売りが急激に広がった。

 レノバの会長は千本倖生氏である。1966年、日本電信電話公社(現NTT)に入社。84年、稲盛和夫氏らと第二電電(現KDDI)を創業。99年にイー・アクセス(現ワイモバイル)を立ち上げた。再生エネルギーの普及には、「起業家精神が必要不可欠」という触れ込みで、2014年にレノバの社外取締役に就任し、翌15年に会長になった。

洋上風力発電を普及させるには秋田県由利本庄市沖のように、100万キロワット級の洋上風力発電を成功させる必要がある」と強力にアピールし、社運を賭け入札に参加した。だが、完敗した。新しい事業に次々と首を突っ込む千本氏に対して、産業界の一部には辛口の評価がある。

 レノバは発表済の千葉県いすみ市沖や佐賀県唐津市沖のほか、別の1~2の海域で再挑戦する。圧倒的な安さで3戦3勝した三菱商事系に、いかに対抗するか。レノバを支える強力なパートナーが出現しないと苦しい。

経産省、入札を見直し

 経済産業省と国土交通省は3月18日、洋上風力発電の事業者を公募で選ぶ際の評価基準を見直す、と発表した。これまでは発電コストの安さを重視してきたが、運転開始時期についても配慮。「早い稼働」の評価値を高める。

 3月22日、両省による有識者会議が開かれ、見直しの議論が始まった。公募を始めていた秋田県八峰町・能代市沖の36万キロワット分については、6月10日としていた締切りを延期。年内をメドに基準を変更したうえで、締切り日を再度、設定することになった。

 三菱商事を中心とした企業連合が、秋田県沖と千葉県沖の3海域の事業者選定で3連勝、“総取り”をしたことに対して、一部で不満の声が出た。三菱商事連合は発電コストの異例の安さが決め手となったが、ライバル企業や国会議員から「本当にこの値段でやれるのか」といった疑問が示されたことに、経産省などが政治的な配慮をしたようにも映る。

 萩生田光一経産相は3月18日、「ウクライナ情勢を踏まえ、国産エネルギー源として再生エネルギーの導入の加速が急務だ」と述べた。2月、萩生田氏は「稼働時期を早めるインセンティブは国民の利益にもなる」と国会で答弁。この発言で基準見直しの方向性が固まったという見方がある。すでに公募が始まっていた事業の内容を途中で見直すことは、日本の再生エネルギー全体にとっても決してプラスにはならない。評価基準の見直しが海外企業が日本で洋上風力発電に投資する意欲を削ぐことにならないか、と危惧する意見もある。

(文=Business Journal編集部)

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