製薬会社、好決算ラッシュの裏側で進む二極化…塩野義2.5倍増益、武田は最終赤字

●この記事のポイント
塩野義製薬の純利益2.5倍増、協和キリン88%増益など製薬大手の好決算が相次ぐ一方、武田薬品は最終赤字に転落。薬価改定やパテントクリフ、後発薬の供給不安といった構造要因を交えながら、業界に広がる「二極化」の実態と、今後の勝敗を分ける条件をデータで読み解く。
国内製薬各社の決算発表が相次いでいる。塩野義製薬は2027年3月期第1四半期(2026年4〜6月)の連結最終利益が前年同期比2.5倍の977億円に急拡大し、協和キリンも同期間(1〜6月)の純利益が87.6%増の306億円、エーザイも4〜6月期の純利益が26%増となるなど、大手・中堅の好決算が目立った。
見出しだけを追えば「製薬業界は絶好調」という印象を受けるが、決算の中身を精査すると様相は一様ではない。同じ時期に武田薬品工業は2026年3月期の連結最終損益が1523億円の赤字に転落し、2027年3月期の純利益見通しも前期比13%減の1660億円と市場予想(QUICKコンセンサス2669億円)を下回った。好決算のニュースが並ぶ一方で、大手の中にも明暗が分かれている。
さらに視野を広げると、国内医薬品市場そのものが厳しい状況にある。調査会社IQVIAの分析では、2022〜26年の日本市場の年平均成長率はマイナス2%〜プラス1%と、主要先進国の中で唯一のマイナス成長圏にとどまる見通しで、2026年には市場規模でドイツに抜かれ世界4位に後退するとの予測もある。対照的に世界の医薬品市場は年8%台の成長が見込まれており、内外の格差は年々広がっている。つまり「製薬業界の好況」という一括りの理解では、いま起きている変化を捉えきれない。
●目次
なぜ好決算が相次いだのか 3つの構造的要因
第一に、グローバル・スペシャリティ領域での収穫期が挙げられる。エーザイのアルツハイマー病治療薬「レケンビ」は2026年4〜6月期のグローバル売上高が前年同期比27%増の293億円(速報値)となり、米国での皮下注射製剤投入も追い風になっている。協和キリンでは希少疾患治療薬「クリースビータ」が北米を中心に需要が強く、7月の価格改定を控えた出荷増加も業績を押し上げた。
第二に、円安による為替換算効果である。海外売上比率の高い企業ほど、円建てでの増収効果を享受しやすい構造にある。
第三に、一時的な会計要因の存在も無視できない。塩野義製薬の四半期純利益2.5倍増は、米国子会社での将来課税所得を見込んだ繰延税金資産の計上が主因の一つだ。営業利益ベースでの伸びに比べ、純利益の伸び率が突出して大きい点には注意が必要である。協和キリンの大幅増益も、開発中止となった治療薬候補に関連して米アムジェンから受け取った契約一時金の一括計上という一時的要因が寄与しており、通期の純利益計画(750億円)に対する上期の進捗率は40.8%と、過去5年平均(45.5%)を下回っている点は、市場関係者の間でも見通しの持続性を測る材料として注目されている。
好調は一過性か 4つの構造リスク
好決算に沸く企業でも、中長期的には共通する逆風にさらされる。
一つ目は「パテントクリフ(特許の崖)」だ。世界最大級のがん治療薬であるメルクの「キイトルーダ」は2028年に主要特許が満了する見込みで、調査会社William Blairは2023〜25年に約50製品が特許保護を失い、対象製品の売上高合計が2025年の1628億ドルから2029年には670億ドルまで縮小すると分析している。塩野義製薬にとっても、収益の柱であるHIV治療薬関連ロイヤリティの主要特許が2028年前後に米欧で満了する見通しであり、好調な足元の収益がそのまま続く保証はない。
二つ目は国内薬価改定の重みである。2026年度は2年に1度の通常改定(本改定)にあたり、医療費ベースでマイナス0.86%、薬剤費ベースではマイナス4.02%の引き下げとなった。加えて後発品への置き換えが進んだ長期収載品の薬価を後発品水準まで下げる時期が「発売から5年後」へ前倒しされるなど、制度改正のたびに長期収載品や中間層の収益基盤が細る仕組みが強化されている。2025年度には別途「中間年改定」も実施されており、実質的に毎年のように薬価が見直される構造が定着している。
三つ目は創薬モダリティの高度化に伴う開発コストの高騰だ。低分子医薬品からバイオ医薬品、抗体薬物複合体(ADC)、遺伝子治療などへ主戦場が移る中、開発費は膨張を続けている。武田薬品が2026年3月期に細胞療法の研究開発中止に伴う減損損失を計上し、通期業績を下方修正した経緯は、開発リスクの高まりを象徴する事例といえる。
四つ目は為替の反転リスクである。足元の増益要因となっている円安が円高方向に振れれば、海外売上比率の高い企業ほど収益への逆風を受けやすい。
苦戦する業態 内需型・後発品・バイオベンチャー
好決算企業の陰で、業績低迷に苦しむプレイヤーも少なくない。
国内市場への依存度が高い中堅製薬にとって、毎年のような薬価引き下げは販売単価の構造的な下落要因となる。新規パイプラインや海外展開でカバーしきれない企業では、増収機会が乏しいまま収益が目減りしていく。
後発医薬品(ジェネリック)業界も厳しい状況が続く。2020年の品質不正発覚以降、複数の大手メーカーで不祥事が相次ぎ、供給不安が長期化してきた。厚生労働省の調査(2024年12月時点)では、対象品目の20%にあたる3244品目が限定出荷・供給停止の状態にあり、その大半を後発品が占める。原材料費やエネルギーコストの上昇分を薬価に転嫁しにくい構造的な収益性の低さに加え、品質管理体制の強化に伴うコスト増も重なり、PwC Japanグループの分析では業界再編の必要性が指摘されている。
創薬バイオベンチャーにおいても、前期に計上した大型のライセンス導出一時金の反動や、臨床試験の中断・中止に伴う減損リスクが業績を圧迫するケースが目立つ。導出一時金は契約成立のタイミングに左右されやすく、単年度の増減益だけで企業の実力を判断することは難しい。
「決算数字の見出しだけでなく、営業利益とコア営業利益、一時的な税務・会計要因を切り分けて見る必要がある。特に純利益が営業利益の伸びを大きく上回っている場合は、繰延税金資産の計上や契約一時金の一括計上など、一過性の要因が寄与していないか確認するのが基本だ。
日本市場だけで生き残る戦略はもはや成立しにくい。薬価改定が実質的に毎年発生する構造下では、海外での自社販売網構築や、外部からの新薬導入(ライセンスイン)によるパイプライン補完が経営の必須条件になっている」(医療アナリスト・三好泰一氏)
勝ち残りの条件を見極める
一連の決算を俯瞰すると、業界全体が好況にあるのではなく、グローバル市場で戦える製品ポートフォリオを持つ企業と、国内市場への依存度が高い企業との間で明暗が分かれつつある実態が見えてくる。好決算企業についても、その増益要因が実力に基づく成長なのか、為替や会計上の一時的要因によるものなのかを見極めることが欠かせない。
今後の焦点は、①米欧を中心としたグローバル市場での競争力、②特許切れ後も収益を守る製品ライフサイクル戦略、③自社創薬にこだわらない機動的な提携・M&A、④がんや希少疾患など特定領域での差別化——にある。「製薬業界は好調」という表層的な理解ではなく、企業ごとのパイプラインとグローバル展開力を見極める視点が、これからの業界動向を読み解く鍵となる。
(文=BUSINESS JOURNAL編集部、協力=三好泰一/医療アナリスト)
【主な参照データ】
塩野義製薬 2027年3月期第1四半期決算短信(2026年8月3日開示)
協和キリン 2026年1〜6月期決算(日本経済新聞、2026年8月3日報道)
エーザイ 2026年4〜6月期決算関連報道(日本経済新聞、2026年8月3日・7月29日)
武田薬品工業 2026年3月期決算短信、2027年3月期業績予想(2026年5月13日開示)
IQVIA「世界医薬品市場予測」関連報道(AnswersNews)
2026年度薬価制度改革関連資料(厚生労働省告示ほか)
William Blair「バイオ製薬企業のパテントクリフ分析」関連報道
厚生労働省 後発医薬品供給状況調査(2024年12月時点)











