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「消費減税」で割れる食の明暗…中食は増益期待、外食は減益懸念のなぜ

2026.09.24 05:55 2026.09.24 00:34 経済
文=BUSINESS JOURNAL編集部、協力=杉田誠/外食産業コンサルタント

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●この記事のポイント
生団連が2026年8月に会員100社へ実施した調査で、2027年4月開始の食料品消費税1%減税により飲食料品企業の3割が増益、外食の2割が減益を見込むことが判明。POS改修費の二重負担・価格転嫁の壁・中食シフトという外食業界特有の構造的ジレンマと、体験価値強化などの生存戦略を最新データで検証する。

 政府は8月5日、食料品にかかる消費税率を2027年4月から2年間、現行の8%から1%へ引き下げる方針を閣議決定した。中低所得世帯には給付を組み合わせ、実質的な負担をゼロに近づける設計だ。一方、外食(店内飲食)の税率は10%のまま据え置かれる。

 この制度変更を前に、業界内の温度差を浮き彫りにする調査結果が出た。卸・小売・食品メーカー・外食など幅広い業種の企業が加盟する国民生活産業・消費者団体連合会(生団連)が8月21日から9月2日にかけて加盟企業100社に実施したアンケートによると、飲食料品を扱う企業の3割が減税を増益要因と見込む一方、外食企業の2割は減益を見込むと回答した。全体では、売上高が「増える」と答えた企業が49%にのぼったのに対し、営業利益が「増える」との回答はわずか22%にとどまり、53%が「変わらない」、16%が「減る」と答えている。売上が伸びても利益は伴わない、という見立てが業界全体に広がっていることがうかがえる。

 減税が家計にもたらすインパクトは決して小さくない。第一生命経済研究所の永濱利廣氏の試算では、仮に食料品を全額免税とした場合、平均的な4人家族で年間およそ6万4000円の負担減になるという。今回決定したのは免税ではなく税率1%への引き下げだが、方向性としては家計の可処分所得を押し上げ、消費者の財布のひもを緩める効果が期待されている施策であることは間違いない。

 減税は本来、消費を刺激するプラス材料のはずだ。それがなぜ、同じ「食」を扱う業界の中でここまで明暗を分けるのか。断っておくと、これは2027年4月の実施を前に各社が示した見通しであり、すでに増益・減益が確定した話ではない。だが見通しの時点でこれだけの差がつくこと自体が、業界構造の脆さを示している。本稿では「シェア争いの構図」と「コストのジレンマ」という2つの切り口から、この現象の背景を読み解く。

●目次

中食が外食のシェアを侵食する仕組み

 現行制度では、持ち帰り・食料品は8%、店内飲食は10%と、その差はわずか2ポイントだ。今回の改正で食料品側が実質1%まで下がれば、店内飲食との税率差は7ポイント超に広がる計算になる。帝国データバンクは今年2月の分析で、この価格差が消費者行動に与える影響を「代替効果」(内食・中食が安くなる分、外食を控える力)と「所得効果」(実質的な購買力が増す分、外食需要が押し上げられる力)のせめぎ合いとして整理した。同レポートでは、ファストフードやファミリーレストランのランチ利用のように代替先が明確な業態ほど代替効果が優勢になりやすく、居酒屋やディナーレストランのように「その場でしか得られない価値」を伴う利用は影響が限定的になると分析されている。

 この読みを裏付けるように、中食側の実力は数字にも表れている。スーパーマーケットの惣菜市場は2025年に11兆7075億円と前年比3.7%増え、4年連続で過去最高を更新した。惣菜部門の目標利益率は37.0%とスーパー全部門の中で最も高く、店舗の景況感を示すDIも他の食品カテゴリーを大きく上回る水準で推移している。かつて「間に合わせ」と見られがちだった惣菜や弁当が、味・見栄え・品揃えのいずれでも外食の代替として通用する水準に達したことが、この数字の背景にある。

「税率差だけを見れば軽微な変化に思えるかもしれませんが、消費者の財布のひもは想像以上に敏感です。中食側が10年かけて磨いてきた商品力に、税制という追い風が重なったことの意味は小さくありません」(流通コンサルタント・永田由紀氏)

なぜ外食は勝てないのか POS改修と価格転嫁の三重苦

 外食企業が直面する問題は、税率差による顧客離れだけではない。生団連の調査では、大手の食品卸・小売企業(24社)の79%が減税実施時にシステム改修コストの増加を見込み、さらに62%が2年後の税率復元時にも再び費用がかかると回答した。時限措置ゆえに、レジや会計システムの改修を2度にわたって強いられる可能性がある。全体でも39%が「システム改修コストが増える」、41%が「事務作業コストが増える」と答えており、負担は業種を問わず広がっている。

 価格転嫁の判断も一筋縄ではいかない。生団連が8月27日に高市早苗首相へ提出した公開質問状に対し、政府は9月4日、「食料品の税率引き下げ分については基本的に価格に反映される」と回答した。裏を返せば、企業側の判断に委ねる姿勢であり、原材料費や人件費の上昇分を価格に乗せることまで否定してはいない。しかし消費者の間には「減税されるのだから安くなるはず」という素朴な期待が根強く、値上げに動きにくい空気が生まれやすい。実際、生団連の調査で「個人消費が増加する」と答えた企業は全体で65%に達したのに対し、外食業種に限ると43.5%にとどまっており、現場の温度感の違いがうかがえる。

 さらに見落とせないのが、現場のオペレーション負荷という三つ目の重荷だ。2019年の軽減税率導入時にも、同じ店舗でイートインとテイクアウトの税率が8%と10%に分かれたことで、レジでの申告確認や会計処理の煩雑化が各地で報告された。今回はその税率差が10%対1%へとさらに開くため、店内飲食のつもりでテイクアウト価格が適用されるといった線引きの難しさや、それに伴う従業員教育の負担は、前回よりも大きくなる可能性がある。システム改修費、価格転嫁の難しさ、そして現場対応コスト。この三重の負荷が重なることが、外食企業の慎重な見通しの背景にある。

 もっとも、目下の外食産業の数字は悪くない。日本フードサービス協会の集計では、2026年7月の売上高は前年同月比106.8%、客数は103.2%、客単価は103.5%と、いずれも増加基調が続いている。ただしこの伸びの相当部分は値上げによる客単価上昇に支えられており、客数の伸びはそれよりも緩やかだ。仕入れ価格の上昇に直面している飲食店の割合は9割超に達するとの調査もあり、値上げを重ねてなお利益率は思うように改善していないというのが、多くの現場の実感に近い。

「減税そのものより厄介なのは、コストが上がるタイミングと税制が変わるタイミングが重なることだ。値上げの理由を『原価高』と『税制対応』のどちらで説明するかによって、客の受け止め方はまったく変わってくる」(外食産業コンサルタント・杉田誠氏)

外食に残された3つの生存戦略

 中食と外食の境界がなし崩しに溶けていく中で、外食企業に残された選択肢は限られている。第一に、単なる食事提供ではなく「その場でしか味わえない体験」への振り切りだ。接客や空間、非日常性に価値を見出す客層を狙い、客単価を引き上げる方向にシフトする動きは、今回の税制変化を機に加速する可能性がある。

 第二に、自社の厨房設備を生かしたテイクアウト・デリバリー領域への本格参入である。中食市場が伸びているのであれば、その果実を外食企業自身が取りに行くという発想だ。すでに一部のチェーンが取り組んでいるゴーストキッチン型の運営や、店舗の一角を惣菜・弁当販売コーナーに転用する動きは、税率面でも中食と同じ土俵に立てるという利点を持つ。既存の調理設備や仕入れルートを流用できる分、ゼロから中食事業を立ち上げるより投資回収も早いとみられる。

 第三に、モバイルオーダーや卓上決済の導入によるオペレーションの省力化だ。POSレジの改修を単なる「コスト」で終わらせず、人件費の圧縮につながる投資として位置づけ直せるかどうかが分かれ目になる。折しも制度対応でシステムに手を入れざるを得ないタイミングだからこそ、最小限の改修で終わらせるか、この機に省人化投資まで踏み込むかで、数年後の収益構造は変わってくる。人手不足が慢性化する外食業界にとって、制度対応をきっかけとしたDX投資は、後ろ向きの出費ではなく前向きな体質改善の機会と捉えることもできるはずだ。

「3つの戦略はどれも単独では決め手にならない。体験価値を高めつつ、中食領域でも収益源を確保し、その両方をDXで支える。この3点を同時並行で進められる企業とそうでない企業の差が、2027年4月以降、業績の形となって表れてくるだろう」(同)

「減税」が映し出した食の構造改革

 今回の現象は、単なる税制の影響にとどまらない。消費者の行動がどれだけ敏感に変化するか、そして企業がその変化にどれだけ柔軟に対応できるかを試す試金石といえる。なお、今回の減税は年間およそ6000億円の税収減を伴うとされ、外国為替資金特別会計の活用などが取り沙汰されているものの、財源の裏付けは本稿執筆時点で確定していない。制度自体が流動的である以上、今回示された各社の見通しも、今後の国会審議や制度設計の詳細次第で変わり得ることは付け加えておきたい。

 食品業界に限らず、制度変更が自社の属する業界内でどの競合や代替手段に有利に働くかを見極める視点は、あらゆる業種のビジネスパーソンにとって参考になるはずだ。追い風か逆風かは、業界の外からは一様に見えても、内側では驚くほど非対称に効いてくる。今回の消費減税をめぐる攻防は、その典型例として記憶されることになりそうだ。

(文=BUSINESS JOURNAL編集部、協力=杉田誠/外食産業コンサルタント)

【主な参照データ・出典】
生団連調査/消費減税で流通企業の対応コスト増、2度のシステム改修に懸念 | 流通ニュース
焦点・消費税:減税で減益懸念も システム費など増加必至 生団連調査 – 日本食糧新聞・電子版
食料品の消費税率引き下げが外食産業に与える影響整理|帝国データバンク
食品消費税1%閣議決定、食品軽減税率の恩恵銘柄と外食への影響を整理 | Chainvest
スーパーの惣菜売上が過去最高を更新し続ける理由|オイシルメディア
価格改定と“お得感”の両立がカギ|外食産業市場動向調査2026年2月
日本フードサービス協会 2026年7月度データ(PDF)
消費税率引き下げが家計に及ぼす影響|永濱利廣|第一生命経済研究所 

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公開:2026.09.24 05:55