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小林製薬と無関係企業も被害、紅麹食品全体に風評拡大…メディアが煽りすぎか

文=深月ユリア/ジャーナリスト
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紅麹コレステヘルプ
小林製薬の公式サイトより

 小林製薬の大阪工場で製造された紅麹原料を使用したサプリ「紅麹コレステヘルプ」の摂取により健康被害が相次いで報告されている件で、紅麹原料を使用する業界に混乱が広がっている。

 なぜ健康被害が起きたのか、いまだに特定されておらず、紅麹との因果関係も証明されていないにもかかわらず、紅麹原料とする商品を扱う多くの企業では、消費者から問い合わせが相次ぎ、風評被害も発生している。

 沖縄県にある紅麹発酵食品専門店「マキ屋フーズ」に取材したところ、紅麴商品の販売を中止するよう求める声もあったと明かす。

「特に被害があったと報じられた3月末には、お客さまから『その紅麹は大丈夫か』というご心配の声のみならず、紅麹販売に関して怒りの声もありました。本店とオンラインショップ合わせて100件ほどお問い合わせがありました」

 このような風評被害の原因として、同社はメディアの責任もあると指摘する。

「メディアが事件の詳細を説明する以前に、『紅麹、死亡』みたいにテレビ番組や雑誌で打ち出すことも、お客さまの不安が高まってしまった要因かと思います」

 そして、同社は紅麹が世間を騒然とさせてしまったことについて、「ピンチをチャンスに変えたい」という。

「お客さまには丁寧な説明をして、今はご心配の声も落ち着きました。当社は紅麹を自社で生産し、安全性を確認したうえで販売しています。製造にあたっては、健康を害するシトリニン(カビ毒)が検出されないことを検査機関にて確認の上で紅麹を使用しています」

 他方、岡山県に本社を構え、150年以上の歴史を誇る「キミセ醤油」も、風評被害がひどかったという。報道によると同社は、健康被害が報告された紅麹とは品番が異なるが、小林製薬の紅麹原料を使った「紅麹味噌」「紅麹ごはん」を販売していた。

 健康被害は報告されなかったものの、消費者から返品が相次いだほか、連日早朝から問い合わせの電話が鳴り響き、商品の自主回収を決定した。なかには「キミセ醤油は毒を販売している」といった風評被害もあったという。同社によると、小林製薬の紅麹原料を使った商品のみならず、店舗全般にも影響が出ていて「このままでは売り上げが3分の1に落ちる」という。

 長野県にある味噌蔵や、山形県にある味噌麹販売会社「おたまや」など、小林製薬の紅麹原料を使用していない複数の企業も、消費者イメージなどを考慮して紅麹商品を自主回収した。

大手サプリ会社にも影響

 紅麹サプリをはじめとした健康食品メーカーシェアナンバー1のDHCにも影響が出ている。DHCは台湾で販売している小林製薬の紅麹原料を使用した紅麹サプリの販売を中止し、自主回収をした。

 DHC広報部に取材したところ、次のように語る。

「(国内でも)台湾でも健康被害は発生しておらず、後日に台湾のサプリは(健康被害を引き起こしたという)問題になったロットのものではないことが判明しました」

 同社が国内で販売する紅麹サプリは、小林製薬の紅麹原料を使用していないが、消費者からは心配の声が出ていたという。

「弊社の販売する紅麹サプリについて、お客様から心配の声がありました。小林製薬の原料を使用していないとご説明し、今は落ち着きました。弊社の製造工場はGMP認証を受けていて、当たり前のことですが、安心安全性に配慮し、設備を定期的にチェックしています」

 閉鎖された小林製薬の大阪工場は、厚生労働省の通知で「取得が望ましい」とされる適正な品質管理の規範であるGMPの認証を受けていなかった。しかし、大阪工場の原材料を使って錠剤のサプリメントを製造する岐阜県の工場がGMP認証を受けていることから、消費者庁のデータベースでは「GMP適合製造所にて製造」としていた。

「ディアナチュラ」などのサプリを販売し、紅麹が含まれた商品も取り扱っているアサヒグループ食品に取材したところ、同社にも消費者から問い合わせがあったそうだ。

「今回の報道をご覧になったお客様から、当社商品への小林製薬の紅麹原材料使用の有無に関する問い合わせや、サプリメントの安全性に関する問い合わせを頂いております」

 同社は小林製薬の紅麹原料を使用しておらず、各工場はGMP認証を取得している。

 また、大手サプリ製造会社に勤務する社員は、小林製薬の不祥事がサプリ業界に与えている影響を憂慮する。

「小林製薬の大阪工場はGMP認証をとっていないうえ、床に落ちた原材料を使用していた件も含め、環境に問題があったと思う。今件により、紅麹サプリのみならず、サプリそのものの信頼性が落ちていて、弊社の店頭の売り上げも12%ほどダウンした。サプリ業界全体でも売り上げが17%ほど落ちているようだ」

鳥取県「小林製薬以外の食品も自主回収対象」という誤解を生む表現

 これまで県内で5人の健康被害が生じている(4月19日現在)鳥取県は、公式サイトで「『注意喚起』紅麹を含む健康食品について」という声明文を発表しているが、その概要文が、さらなる風評被害を招きかねないものとなっており、物議を醸した。ちなみに、4月19日夕方に変更された。その文章は以下の通りだ。

「小林製薬が販売した紅麹を含む健康食品を摂取された方で腎疾患等の体調不良が発生する事案が報告されています。小林製薬のほか、小林製薬以外の食品も自主回収対象となっています。これら製品を購入した方は、直ちに喫食を中止し、身体に不安や異常がある場合には、医療機関を受診するか下記の保健所にご相談ください」

「小林製薬以外の食品も自社回収対象となっている」との記載は、まるで「紅麹」そのものが危険なような印象も受ける。鳥取県生活環境部くらしの安全局くらしの安心推進課に取材した。

「厚生労働省の指針に沿って、小林製薬の紅麹原料を使用した食品が自主回収対象になるという意味です」

「全ての紅麹食品」という意味ではないとのことだが、このような記載は誤解を生み、紅麹に対する、さらなる風評被害が拡大しかねないのではないかと問うと、「全ての紅麹食品があてはまるような誤解を生む表現とのご指摘ですね。変更できるか確認します」と答え、19日夕方にHPの記載が変更された。鳥取県は紅麹に関して注意喚起しているが、紅麹食品に関する風評被害に関しては「特に対策を行っていない」とのこと。

小林製薬はどこまで補償すべきか

 インターネット上では、小林製薬にたいする誹謗中傷や、「小林製薬は大阪工場を閉鎖したのは、健康被害が出るリスクを鑑みて、証拠隠滅の意図があったのではないか」という噂も囁かれている。

 小林製薬広報IR部にも取材した。同社への誹謗中傷や「大阪工場を閉鎖したのは証拠隠滅のためだ」という噂に対して同社は、「さまざまなご意見に関しまして、真摯に受け止め対応してまいりたいと考えておりますため、個別の事象に対し個別具体的な回答は控えさせて頂きたく存じます」と回答。

 また、紅麹原材料を扱う会社に風評被害が生じていることに対しては、「弊社の紅麹関連製品について、関係の皆様に多大なご心痛、ご不安をおかけしておりますことをお詫び申し上げます」と詫びた。

 同社の小林賞浩社長は3月29日の記者会見で、「小林製薬の原材料を使っていて商品の自主回収にかかった費用や廃棄費用を補償する」と表明している。同社の原材料を使用していない紅麹商品にたいする風評被害や風評被害による自主回収について補償をする選択肢を考慮しているか質問したが、「恐れ入りますが、回答を控えさせて頂きます」と同社は明確な回答を避けた。

 加えて4月26日、小林製薬は医療費などの補償を始めると発表した。小林製薬は紅麹原料を52社に直接卸し、間接的に仕入れた企業を含めると173社にも上る。同社の紅麹原料を使用する企業、健康被害が生じた消費者の治療費の補償だけでも巨額になるだろう。小林製薬は、どこまで補償の範囲を広げる義務があるのか。企業倫理として、どこまで補償すべきか。

 東京都内にある、きさらぎ法律事務所の福本悟弁護士に小林製薬の「補償すべき範囲」について法的見解を聞いた。

「現時点で、小林製薬の紅麹サプリメントの紅麹原料が健康被害の原因と断定されたとの報道は目にいたしません。ましてや、紅麹そのものが健康被害をもたらすものとは、政府すなわち厚生労働省は認定しておりません。

 薬害は、被害との因果関係の証明に時間を要し、製薬会社に法的責任が明確になるのは、民事訴訟などを経て長期化するケースがありますが、責任・原因が確定するまで待つのではなく、これまで企業が自主的に被害の拡大に努めることは社会的責任を果たした面もあります。

 原因の特定前ではあるけれども、取引先、そしてその先のいる消費者国民のため、小林製薬が、『賠償』ではなく『補償』することはひとつの決断と考えます。従って、小林製薬の紅麹原料を使用していないのに、風評被害にあって紅麹商品を自主回収した事業者に対して、小林製薬が『補償』する必要はありません。また、すべきではないと考えます。

 風評被害が起きるのは、虚偽の風説を流布した加害者がいるからです。『毒を販売している』などの風評被害が起きたのだとするなら、それは虚偽の風説を流布したとして業務妨害罪にも該当する違法行為です。

 私たちは、小林製薬の対応のみならず、この事件を報道するメディア、そして政府の説明などにも目を光らせて、『自分の体は自分で守る』と言われるごとく、しっかり調べて判断していく必要があると思います。まずは、国民が冷静になることではないでしょうか」

 原因が特定されないなか、世間は「紅麹は危険」「サプリは危険」などと“悪者探し合戦”をしているが、いずれも科学的根拠はない。健康被害を引き起こした可能性があるとされているのは、小林製薬大阪工場の一部の紅麹原材料のロットにすぎず、それも因果関係は証明されていない。

「全ての紅麹食品が危険」「全てのサプリが危険」というような風潮が収まり、一日も早く健康被害をもたらした原因が科学的に判明されることを望む。

(文=深月ユリア/ジャーナリスト)

深月ユリア/ジャーナリスト

深月ユリア/ジャーナリスト

慶応義塾大学法学部政治学科卒業。深月事務所代表。数々の媒体で執筆し、女優、モデル、ベリーダンサー、FMラジオパーソナリティーとしても活動。動物愛護活動も精力的に行う。テレビ神奈川の番組「地球と共生するアニマルウェルフェア」を自社でプロデュース。著書『世界の予言2.0 陰謀論を越えていけ キリストの再臨は人口知能とともに』(明窓出版)など。

Twitter:@witchyuria

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